David Blecken
2018年7月04日

パナソニック、デザインに注力

パナソニックデザインのクリエイティブディレクターであり、デザイン統括部「フラックス(Flux)」のディレクターも務める池田武央氏。デザイン面を強化する同社の狙いを語る。

池田武央氏は今年4月、シーモアパウエルからパナソニックに加わった。
池田武央氏は今年4月、シーモアパウエルからパナソニックに加わった。

今年100周年を迎えたパナソニック。だがその未来はこれまでの道のりとは異なり、課題が山積しているようにも見える。イノベーションの歴史を誇る同社のブランド力は依然、強靭だ。Campaignが先月発表した「アジアのトップ1000ブランド」でもそれが証明された。

だが他の大手同様、社風であった「開拓者精神」もいずれは錆びつき、新たな活性化が必要となる。その取り組みの一環が京都に設けられたデザインセンターであり、ロンドンに設けられたデザイン戦略とインサイトを担うフラックスなのだ。

Campaignはパナソニックデザインのクリエイティブディレクターでありフラックスのディレクターを務める池田武央氏に、デザインがブランドの将来に果たす役割について問うた。同氏は英デザインコンサルティング会社シーモアパウエル(Seymourpowell)に約11年間勤務、今年4月パナソニックに加わった。

パナソニックが京都とロンドンに拠点を構えるのは、ブランドとしてどのような意味があるのでしょう?

パナソニックはブランドとして、「インスピレーションにあふれた生活」「文化的生活」を提起していると考えています。我が社は過去数十年にわたり、人々の生活を豊かにする製品やツールを生み出してきました。未来に目を向ければ、消費者の方々が求めているのは人的ソリューションであり、文化的ソリューションです。テクノロジーそのものではなく、クオリティーのある生活を求めている。テクノロジーは陰の立役者でいいのです。京都は言うまでもなく、日本の文化の中心地。この街の伝統や遺産にアクセスを持つことは重要です。かつて日本にあった生活のクオリティーを再認識でき、文化的資産を次世代が生かしていくには何をすべきかというヒントを与えてくれる。それが京都です。

一方で、ロンドンに拠点を持つことは欧州の人々の価値観を理解する上で重要です。日本文化のクオリティーと欧州の文化資産とは融合できることを、日本人は理解すべきでしょう。我々にとってロンドンは英国の首都ではなく、欧州における文化的ハブなのです。

多くの人々はシリコンバレーにインスピレーションを求めるようです。そんななか、これらの都市を拠点に選んだことはユニークです。

我々はシリコンバレーでもいくつかの事業を行っています。テクノロジーのイノベーションを無視しているわけではなく、文化的価値も同じように重要だと捉えているのです。テクノロジーのイノベーションは新たなことを実行するための手段ですが、我々が考慮せねばならないのは、次世代にとってそれがどのような価値を持つかということ。彼らのためにどのような暮しや文化を創造できるか、考えていくべきでしょう。

パナソニックというブランドからデザインをイメージする消費者は多くありません。今後ブランドを確立していく上で重要なことは何でしょう?

我々のデザインチームは、「モノの形をつくる」ことだけにとらわれてはいません。私は、デザインのプロセスには4つのステップがあると考えています。すなわち、「インサイト」「戦略」「創造」「ストーリーテリング」です。大規模なチームというのは往々にして創造だけに専心し、ほかの面には関わらない。我々は、社内のストーリーテリングを非常に重要視しています。社員がまとまり、前進していくためには情緒的な結びつきが必要なのです。消費者に新たなコンセプトを伝えるのと同様、社内でのコミュニケーションの確立も大切です。こうした概念は、パナソニックや日本の大企業にとっては非常に新しい。とりわけ日本の産業界には、こうした機能が必要でしょう。アップルやダイソンといった企業は、明らかにトップダウン方式。パナソニックはむしろボトムアップです。ボトムアップの構造では、社内のストーリーテリングがより必要になります。

現在はコモディティ化(高付加価値の商品の市場価値が低下し、一般的な商品になること)の時代です。他の家電メーカーとの競争で、優位に立つための鍵は何でしょう?

我々は他の大手ブランドよりも、「家族」について語れると考えています。パナソニックは自己主張をするブランドではありません。主眼はあくまでも「私」ではなく、「私たち」です。シェアリングなど他のサービスも含めて、我々は「家庭」を新たな事業領域と見ています。現在重んじているのは、大局的な思考。例えば、都市生活者にとっての新たな必需品とは何か。買うよりも、借りる方を好む人々もいるでしょう。つまり、従来型の家庭は想定していません。

今後、最も大きな成長が見込める分野は何でしょう?

クリエイティブディレクターとして多くの製品やサービスを見ていますが、今後は美容関連と福祉、そしてエンターテインメントを3本の柱と考えています。パナソニックの価値観を重点的に表現する分野とも言えるでしょう。私は、これらをどのように一体化するかがパナソニックの強みになり得ると考えています。まずは、これまで成し遂げたこととの融合。例えば、料理の分野とエンターテインメントとの融合です。調理に役立ったり、食事の楽しさを増幅したりする照明や音楽、または視覚的要素を加えることで、ディナーという体験の次元を高めることができる。美容関連ならば、インタラクトのできる“スマートミラー”が考えられる。こうしたジャンルのクロスオーバーは、パナソニックデザインのビジネス戦略の最優先課題です。

大きな組織を変えることは、決して容易ではありません。パナソニックは今は勢いがありますが、決してそれが永遠に続くわけではない。これからの数年が非常に重要でしょう。今のタイミングを逃したら、次の好機は訪れないと思っています。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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