Matthew Keegan
2023年12月14日

パーパスマーケティングからの後退は適切なのか?

SOUNDING BOARD:ユニリーバが最近発表した、一部ブランドのパーパス撤退の方針を受け、Campaignは業界の専門家に、それは理にかなっているのか、そして、今が適切な時期なのかについて意見を求めた。

パーパスマーケティングからの後退は適切なのか?

10月、それまでパーパス志向のビジネスの砦であったユニリーバが、急にこの理念に冷淡になったように見えた。

ユニリーバのハイン・シューマッハCEOは、投資家との決算説明会で、いくつかのブランドにとって、パーパスは「歓迎されない気晴らし」に過ぎず、他のブランドにとっては「関連性の薄い」試みだったと述べた。

シューマッハCEOは、ユニリーバはすべてのブランドに強引にパーパスを組み込む過ちを犯してきたとして、最近の日用消費財(FMCG)の「業績不振」を認めた後、「より速い成長」を実現するための新戦略を打ち出した。だが同時に彼は、これはパーパスからの全面撤退ではないと強調した。

「ユニリーバのパーパス志向は称賛に値するものであり、多くの人々がユニリーバに入社し、ユニリーバに留まり続けるきっかけとなっています。よって、私たちはそれを決して失ってはなりません。うまく実行され、消費者からの信頼があれば、(ブランドパーパスは)非常に効果的です」と彼は述べ、ダブ(Dove)やライフブイ(Lifebuoy)などの例を挙げた。「しかし、これをユニリーバのポートフォリオ全体に強制的に当てはめるつもりはありません。一部のブランドに関しては、もともとパーパスとの関連性が希薄だったため、問題はありません」と、彼は付け加えた。

シューマッハ氏の発言は、近年のパーパス志向の高まりをめぐるマーケターたちの議論に火をつけた。ブランドが立派になりすぎてユーモアのセンスを失い、マヨネーズのようなシンプルな消費財にまでなぜ社会的な目的が必要なのかと嘆く声もあった。だが一方で、世界的な大問題を考えると、今こそパーパスが必要な時であり、パーパスを捨てて利益を追求するのはいかがなものか、という意見もあった。

このところ、パーパス志向のブランドは少々叩かれ過ぎていると言っていいだろう。社会問題に取り組む姿勢で批判に晒された企業には、ドクターマーチン、ナットウエスト、バドライト、コスタ・コーヒーなどがある。ソーシャル・メディアでの反発は、大多数の顧客の信念と相容れない倫理的価値観に「目覚めた」ことや、あるいは大多数の信念に反する立場をとったことに対して向けられていた。

ブランドパーパスの申し子である(ユニリーバ傘下の)ベン&ジェリーズでさえ、2021年にイスラエルの占領下にあるヨルダン川西岸地区で、(占領地での販売は自社の価値観にそぐわないとして)アイスクリームの販売を停止したことで厳しい批判を受けた。その後、同社はイスラエルでの事業を売却し、直近の紛争の激化についてもコメントを控えている。

多くの企業が、ソーシャルウォッシュやグリーンウォッシュとの非難に晒されたため、顧客もまた、パーパス志向のビジネスという考え方全般を信用しなくなってきている。

では、「パーパス」や「社会貢献」というブランドポリシーは、中途半端なマーケティング施策と思われることなく機能し続けられるのだろうか?特に、ブランドがパーパスと言う理念に浮かれただけで、しかしそれが成長につながらず、結果、それを諦めてしまうようなケースについては、どう考えればいいのだろうか?

Campaignは、ブランドとそのパーパスの将来について、またユニリーバの方針見直しという決断が良い考えなのかどうかについて、業界関係者に意見を求めた。

 
エド・ブーティ
ピュブリシス・グループ APAC チーフ・ストラテジー・オフィサー
 
「近年、ブランド価値への傾倒はますます強まっています。パタゴニアやダヴのケーススタディや、Z世代の社会的大義への信奉を示す調査データなど、私たちの業界が一体どれだけの時間を 『パーパスのワークショップ』に費やしてきたか、考えるだけでも恐ろしいほどです。アワードの審査員の誰が、人類の苦難を解決すると主張する作品に反対の声を上げたいと思うでしょう?というわけで、残念なことに、企業の美徳アピールは今や常態と化しています。

もちろん、本物で、信頼できる関連性があるブランドにとって、より大きな大義は強力な北極星(大目標)となり、誇りに思えるような、本物でポジティブなインパクトをもたらすでしょう。それは確かに素晴らしいことです。しかし、マーケティングが「パーパス」を作り出す場合、ほとんどがそうではありません。バドライトやユニリーバが認めているように、ほとんどのブランドの実際の存在価値は、冷えたおいしいビールや、香りのよい清潔な洗濯物を人々に提供することです。

個人的には、ブランドやエージェンシーが、本物の社会正義との関連性をますます希薄にしながら、無理矢理パーパスを描こうとしていることに、ますます不誠実で、利己的で、不潔なものを感じざるをえません。

また、この高尚なトレンドは、クリエイティブにとっても有害だと感じています。何より、均質で高邁な真摯さのせいで、ブランドの特性や個性がしばしば犠牲になってきました。

そして、(しかし、おそらく最も重要なことですが)、私たちはコミュニケーションをクリエイトするときのオーディエンスとの不文律の契約を忘れてしまっています。それは、彼らの注意を惹くほんの一瞬の見返りに、彼らにエンターテインメントでほんの少しの報酬を返すという約束です。それは、ちょっとした笑いや、喜び、娯楽など、です。

だからこそ、私たちは、ブランドが自分らしさをより発揮できるお手伝いをしているのです。私たちが最も誇りに思う仕事は、独善的で自己中心的なアピールではなく、ブランドのエネルギーと自信と楽しさを核にしたクリエイティブです」

 
ジェン・シャープ
シンクHQ創設者兼マネージング・ディレクター
 
「はっきりさせておきたいのは、ここ5年ほどの間に、パーパスについて語られたことの多くは、マーケティング的なポジショニングの話であって、実際のポジティブな社会的影響に対するビジネス全体のコミットメントではなかったということです。だから、多くのブランドが、厳しい経済情勢に合わせ、新たなポジショニングを模索する中で、パーパスという考え方に後ろ向きになっていっても、まったく不思議ではありません。むしろ今こそ、誰が本気なのか、そして誰がものを売るためにパーパスを捏造しているのかを見極める時なのです。

もちろん、すべてのブランドが明確なパーパスを持ったり、社会正義をなそうと努力したりする必要はありません。現代の資本主義社会では、人々は(法律の範囲内で)自由に製品を作り、販売することができます。とはいえ、コンシャス・キャピタリズムやESGムーブメントの台頭により、企業は自分たちのビジネスが世界に与える影響を気にかけるべきかどうかの選択を迫られています。もし本気で影響を気にかけているのであれば、その企業は善をなすという真正な目的を持っていることになります」

コリーン・ライアン
TRAパートナー
 
「もし、パーパスを見直すということが、ソーシャルグッドを実際のインパクト以上に誇張し、不誠実な主張をやめるということであれば、消費者もそれを歓迎するでしょう。しかし、ユニリーバのハイン・シューマッハCEOの発言は、そのような社会の好感を意図としたものでも、パーパスマーケティングそのものを批判したものでもないと思います。彼が強調しているのは、適切な時にそれを行い、しっかり関連性を持たせ、真正であることの重要性でしょう。彼の発言を読み解くなら、私たちが受け取るべきメッセージは、パーパスマーケティング全般に対する批判ではなく、常識的で優れたマーケティングについての言及なのです」
 
ホイウェン・トウ
ヴァーチュAPAC戦略責任者
 
「すべてのブランドが世界を救う必要はありません。すべての企業が社会に貢献することを期待されている一方で、より本質的な貢献とは、ブランド、製品、サービス、体験等を通じて、創造的かつ長期的な真の有用性を、消費者に提供することではないでしょうか。

ハイパープラグマティズム(超実用主義)は、次世代を定義する属性ひとつとなるでしょう。若者たちは、製品の役割や目的よりもそれがどのように作られたかに注目する傾向が、他の世代より2倍も高いのです。

Z世代は、高尚な目的を情緒的に語りかけるだけでなく、自分たちが必要とするものを実現し、真の解決策を提供してくれるブランドを求めています。目的を超えて、実用性と有用性こそが購買の決定を後押しします。

私たちは今、過剰な消費や無意味なアップグレードに反対する、より熟考された消費の時代へとシフトしています。若者の77%は、購入前に「これは本当に必要だろうか」と自問自答しています。APACの若者の45%は、自分たちの買い物習慣のことをスロー消費と表現しています。

このような、よりゆっくりした、そしてより意識的な消費の文脈では、消費者に不必要な購入を迫っているかもしれない短期的な販促戦術に対して、パーパス主導のマーケティングが果たすべき役割はこれまで以上に大きいでしょう。

しかし、ブランドパーパスは、単にブランドについて語るだけでなく、ブランドを購入してくれるオーディエンスについて語るものへと進化する必要があります。人々は、自分の価値観に沿った製品やブランド、共感できる目的や支持し参加できる取り組みを求めているからです」

ジョシー・ポール
BBDOインド会長兼チーフ・クリエイティブ・オフィサー
 
「人々は意味を求めています。そして、それをパーパスと呼ぶ人もいます。私たちにとっては、それは消費者の魂に触れることです。適切なコンテクストを見つけることで、ブランドは社会との関連性を保ち、人々の生活に真の変化をもたらすことができます。これは一過性のものでも、毎年変わるものでもありません。それはコミットメントです。それは真実であり、一貫したものでなければなりません。

問うべきなのは、ブランドは、何によって道徳的、感情的な権威を与えられているのか、ということです。ブランドはまず行動で示す必要があります。単に言っているだけではなく、やっているブランドであることが重要です。今日の世界で必要なのは、広告ではなく行動なのです」
 
キーファー・カサモア
サステイン by TBWA ゼネラルマネージャー
 
「ブランドにとって最優先されるべきは、信頼性と信憑性です。ブランドアイデンティティが社会課題と明確かつ有機的に結びついていることを証明できなければなりません。それができなければ、表面的な、あるいは形だけのジェスチャーと受け取られ、消費者はブランドの動機に不純なものを感じるかもしれません。

これまでマーケターは、短期的な成長とKPIを重視してきました。しかし、サステナビリティやパーパス主導のマーケティングへのシフトは単なるトレンドではありません。世界の資源がより有限になっていく中で、消費者の行動と期待に応える根本的な軸となるべきものです。マーケターは、このシフトが新たな競争、つまり進化する消費者の価値観と長期的な戦略に焦点を当てた、マラソンの始まりであることを認識する必要があります」

サイモン・ワセフ
クレメンジャーBBDO チーフ・ストラテジー&エクスペリエンス・オフィサー
 
「パーパス論議全体の問題点は、ブランドが何をするか(=事業戦略)ではなく、ブランドが何を言うか(=広告)に、いつの間にか議論がすり替わったことです。確かに、ベン&ジェリーズやパタゴニアは、(中核的なビジネス戦略である)パーパスを伝えることで大きな利益を生み出しています。それを変える必要があるでしょうか?しかし、P&Gやユニリーバのような企業はパーパス主導のコミュニケーションを後退させています。それは、彼らが日用消費財(FMCG)業種であり、私たちがブランドを選んだり、乗り換えたりする理由となる大きな精神的目的を必要としていないからです。はっきり言えば、そもそも、世界を変えるような大きな目的から生まれたブランドではないのです。

食器用洗剤、ビスケット、カミソリの刃…。私が思うに、このようなカテゴリは、ユニリーバやP&Gでさえも、地球をこれ以上悪化させないことだけが期待されるポストパーパスの世界に入っているのです。よって、私たちが必要とするのは、棚に並んだ20ものブランドを前にしたときでも、ブランドを思い出させてくれる、よりシンプルで役立つ広告なのです。

広告が、ブランドに対してできることは、認知度を上げ、名声を生み出し、販売を促進することです。

そして、ブランドを抱える企業にできることは、社会にポジティブな影響を与えることです。

この2つのことは別々のものです。なので、やや釣りタイトル的な見出しとは裏腹に、この2つのことは共存できるのです。

そして、ここに大きな分かれ道があります。あなたの会社は、どうすれば社会に貢献でき、社会を前進させられるだろうかという視点を持ち、それを実現するための具体的な行動をとっていますか?

もしそうなら、堂々と主張すればいい。だが、そうでないなら、何も言うべきではないのです」

 

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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