David Blecken
2019年3月28日

ブランドセーフティを守るために

不適切なサイトの広告表示を見つけ出すのではなく、いかにそれを防止するか −− 検証サービスが進化する中、課題は今もテクノロジーとの付き合い方だ。

写真:Shutterstock
写真:Shutterstock

ごく最近まで、日本では「ブランドセーフティ」はさほど重視されなかった。世界でも稀な秩序ある社会を築いた日本で、広告主たちは自然と秩序あるデジタルエコシステムを期待したからだろう。しかし、NHKや東洋経済などのメディアが広告詐欺や不適切なプレースメント(広告の配置・表示)を報道するようになると、その風潮もにわかに変わってきた。P&Gのような多国籍企業がオンライン広告の現状を非難し続けていることも輪をかける。

オンライン広告のベストプラクティスに詳しいコンサルティング会社SPIインタラクティブの土井貴博CEOは、「広告主の間ではいまだに危機に関する認識の差異が大きい」と話す。その原因は危機管理に関する知識の差や、会社がトップダウン式か否かにあるという。特にトップダウン式の弊害は、「世界的なブランドに最も多いパターン」。「危機意識を持つ広告主が注意を払うのは、計画的な詐欺行為よりも安全なプレースメントです」。こうしたニーズに応える最新のサービスを提供する企業が、イスラエルの企業CHEQ (チェク)AIテクノロジーズだ。日本では昨年暮れに事業をスタート、不適切なプレースメントの防止にひと役買う。

土井貴博氏

同社は昨年、サービスの効果を裏付けるためにBMWやHulu(フールー)と提携するIPGと協働し、不適切なプレースメントがブランドイメージにどのような悪影響を及ぼすかという世界的規模の調査を行った。その結果はブランドにとって衝撃的と言えるもので、回答者の「クオリティー」「評価」「信頼性」「好感度」に関する印象は18〜22%下がったのだ。

CHEQの進出は、広告検証サービスに対するニーズが日本でも高まっていることを示す。日本では各プラットフォームに潜む過激な政治思想を主張する個人運営のサイトへの対応が主。イスラエルの情報機関に勤務していたガイ・ティトュノビッチ氏が設立したCHEQは、電通の子会社であるサイバー・コミュニケーションズ(CCI)と提携。競合するのはファイヤーウォールやプレビッド(Pre-Bid)といったセキュリティー機能を提供するインテグラル・アド・サイエンス(IAS)などの企業だ。

米・ホワイトオプス(White Ops)社のサービスも含め、これらはMOATやモメンタム(Momentum)社のそれとは異なる。後者は分析やリポートに重点を置き、必ずしも不適切なサイトへの表示を防ぐシステムではない。

不適切なプレースメントを防ぐ最も一般的な手段はDSP(Demand-Side Platform)による過去のデータの活用だが、「究極の手段はリアルタイムで修正すること」というのはCCIでCHEQと協働する安藤茂宏氏。CHEQと同様、危険なプレースメントをリアルタイムで防ぐサービスを提供する企業にはダブルヴェリファイ(DoubleVerify)などがあり、やはり日本への進出を図っている。

ティトゥノビッチ氏は、プレビッド対応は「検証能力に限界があり、判断基準のデータそのものが不正である場合、それに対応できない」と批判する。CHEQは精度を高めるため、「700以上のパラメーターをチェックし、コンテンツの実体まで特定することができる」。逆にセキュリティーブランケット(Blanket)MTのようなサービスは、安全なプレースメントも阻止してしまう恐れがあるという。
 

ガイ・ティトュノビッチ氏

「この世界では精度こそが決め手。多くのシステムは阻止する必要のないプレースメントまで阻止してしまいます。そうなれば広告は拡がらず、ビジネスに損害が出る。パブリッシャーはユーザーを失い、広告主はリーチが減る。決定論ではなく、確率論的になるのは非常に良くないことです」と同氏。

こうしたティトゥノビッチ氏の見解について、CampaignはIASに尋ねた。同社アジア太平洋・北米担当ソリューションエンジニアリング・シニアディレクターのマナサ・デニング氏はこう話す。「我が社のデータサイエンティストのチームは、顧客にインプレッションの真の価値を理解してもらえるよう努めています。ビューアビリティ、詐欺行為からジオ・コンプライアンス、広告クラッター(混雑度)に至るまで何百という測定基準の評価を行っています」。次世代型かつ最先端のメディア分析と測定ソリューションで、精度とビューアビリティを確保しているという。

ティトゥノビッチ氏は、コンテンツを人間の脳のように読み解くためにはNLP(Neuro-Linguistic Programming、神経言語プログラミング)を活用すべきだと唱える。もしたくさんの厳密なルールに従うだけのサービスであれば、例えば「レブロン・ジェームス(NBAのスター選手)が大活躍(killed it)」といった文を見つけた場合、「kill」という不適切な言葉に反応して配信を止めてしまうというのだ。更には、広告主にとって適切なコンテンツを扱えば「収益性を最大化できることをパブリッシャーに保証することも重要」。「たとえ違法性がなくても、不適切な要素を持つコンテンツとは広告主が関わらないようにすることも忘れてはなりません」。

「良質のコンテンツは広告費によって支えられ、そうしたコンテンツは存続していくべきことを皆が理解しなければならない」と同氏。「あらゆるページに収益性があるわけではありません。パブリッシャーがテロ攻撃に関するストーリーを載せるのならば、ほかのページで金銭的バランスを取る必要がある」。

同氏は、CHEQがサポートして「広告主のメディア戦略の対象として復活したパブリッシャー」としてgooを挙げる。広告主は一時gooをブラックリストに挙げたが、その後CHEQはコンテンツの80%が安全でプレースメントに適していると立証した。

日本で立ち上がったばかりのCHEQは、これまでに自動車や建設、日用品・化粧品業界の大手ブランドと協働。サービスへの関心が高まっているにもかかわらず、事業拡大は容易ではない。土井氏が指摘する課題の一つがコストだ。「大抵の場合、コストはCPMが基本。それゆえ多くの広告主がコスト増を嫌って躊躇するのです」。

「日本のクライアントは大概、質の高いインベントリが当然と考える」と安藤氏も同意見。土井氏は「検証サービスを用いずにKPI(主要業績評価指標)を信用することは間違っている」という。「違法なインプレッションやクリック、ブランドにダメージを与えるプレースメントが含まれている可能性があるからです」。

別の課題は、安全性や広告詐欺を判断する際の基準がツールベンダーによってさまざまであること。「100%信用できないツールであれば、それ一つに頼ることはできない。それゆえ、一つのツールを取り入れたからといって全てが解決できると考えるのは間違っています」と土井氏。

「全てのステークホルダー(利害関係者) −− 広告主、広告代理店、プラットフォーム、パブリッシャー −− はブランドセーフティに関しての責任を負わねばならない。広告主は、自社の業種や特質によってアプローチを変えるべきです」(土井氏)

「ブランドイメージが重要なテーマである広告主にとって、最善の手段はホワイトリストでしょう。廉価だからといって正体不明のサイトに広告を出すよりも、事前にきちんとサイトを選んでおいた方がはるかに安全です」(同)

更に、「検証ツールを選ぶよりもプログラマティックバイイングのための適切なプラットフォームを選ぶことが重要」とも。「広告インベントリに関する購入や配信は、プラットフォームの性能次第です」。

広告主はプレースメントの基準を明確に持っていなければならない。リスクの許容度の設定が困難でも、「避けるべきコンテンツは知っておくべき」という。その上で広告検証ツールは、「マニュアルで対応できない部分を補完するために利用されるべきです」。

結局のところ、オンライン上の問題を高度なレベルで見つけたり防いだりするには「これらのツールなしでは不可能」。しかしどんなに高機能のものでもツールとして利用するべきで、「問題の本質を理解せずツール任せにしてはならない」のだ。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

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