
今日のAI利活用の実情
2016年のAlphaGo(グーグル傘下ディープマインド社が開発したAI囲碁プログラム)の大躍進や、自動運転車開発の隆盛によって、「AI」というキーワードは史上何度目かの盛り上がりを見せています。しかしそうした状況とは裏腹に、まだまだマーケティング領域におけるAI活用は進んでいないのが実情といえます。(運用型広告分野においてはプロダクトそのものに機械学習が早くから組み込まれ、入札単価調節、キーワード生成などに利用されています)
活用が進まないいくつかの理由は、AI関連テクノロジーに関する有識者・技術者の絶対数が少ない事、そしてマーケターと前者との間に知識や技術力に大きな隔たりが存在している事が挙げられます。
そして技術者とマーケター、さらには意思決定権者・現場営業等の間を橋渡しするスキルを持った人材が不足している事も、大きな課題といえます。
国内外で成果を上げているマーケティング領域でのAI利活用については、技術者起点である事が多く、特にベンチャー企業が事業の柱としてAIドリブンなサービスを展開しているケースが多く見られます。
例として、ファッションコーディネートサービスを展開するベンチャー企業は顧客が好みそうなファッションを深層学習の技術で発見・提案していますし、転職サービスでは、企業と転職希望者のマッチング確度を機械学習で算出・提案する事で、サービス利用を促進しています。
マーケターはAIとどう寄り添うか
AIを利活用するためには、プログラミングのスキルや、データベースに関する知識、さらには抽出・加工する技術が求められます。しかし、昨今はこうしたマーケターにとっての「高い壁」を取り払い、ドメイン知識があれば(もちろん前述のスキルや知識は相応に必要ではあるが)、一定レベル以上でAIを活用する事ができる製品・サービスがリリースされ始めており、当面この方面は活況を呈する事がほぼ間違いないと思われます。
そうした製品やサービスは、需要予測や、顧客の離反予測、見込み顧客のスコアリングであったり、優良顧客がどういった属性を持ち、どんな行動をするかの正確な予測など、マーケティング施策を打つ上で非常に重要なインサイトをもたらします。
ですので、マーケターはCRM(顧客関係管理)、MA(マーケティングオートメーション)、DMP(デジタル・マネジメント・プラットフォーム)、デジタル広告など、さまざまなマーケティングテクノロジーとAIをどのように組み合わせるかや、事業にどう活かしていく事ができるのかといった検討を行い、素早く決断をする事が求められるようになっていきます。
さらには、AIが提示する「答え」を「絵に描いた餅」にしないよう、社内のさまざまな立場の人たちへ適正かつ正確に伝え、理解を得る役割も、また同時にこなす必要が出てきます。
AIはマーケターから仕事を奪うのではなく、より一層輝かせるためのパートナーとして、これからもますます存在感を増していくでしょう。
有益伸一氏は、電通デジタルのデータテクノロジー部門 プロセスイノベーション事業部。