Campaign staff
2018年9月07日

世界マーケティング短信:ナイキの広告から得る教訓

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

トランプ米大統領は、コリン・キャパニック選手を起用したナイキの広告が「ひどいメッセージを伝えた」と非難した。
トランプ米大統領は、コリン・キャパニック選手を起用したナイキの広告が「ひどいメッセージを伝えた」と非難した。

ナイキのキャパニック選手起用は見事だが、ちょっと我に返ろう

広告界で今週最も話題になったのは、ナイキが同社「Just do it.」キャンペーンにコリン・キャパニック氏(元アメリカンフットボール選手)の起用を決定したことだろう。フットボールでの偉業の他に、警察官による人種差別と暴力への抗議として、試合前の国歌斉唱中で起立拒否したことでも知られる選手だ。この行動を支持する声と、非愛国者だと非難する声が上がり、賛否が割れている。

そんなキャパニック元選手を起用したことで広告キャンペーンが注目され、SNS上で一気に拡散。その価値は4300万米ドル以上に相当するともいわれている。ツイッター上では炎上コメントが多数見られ、ナイキの靴を燃やす様子を載せる人も。同社の株価も、一時的に下落した。それでもアペックス・マーケティング・グループの評価によると、肯定的に受け止める意見が多い(1900万米ドル相当)とのことだ。

ブランドが事業利益よりも、自分たちが正しいと信じることへの支持を優先させた例だとして、複数の関係筋はこのキャンペーンを称賛。確かに大胆な動きであり、感服に値する。だが今回の件でナイキが評価されるべきは、大きな課題に対してイデオロギーを持ち込んだことに対してではなく、マーケティングにおいて賢明な意思決定をしたことに対してだろう。ナイキはコアとなるオーディエンスを理解していたため、リスクを見積もることができ、事業にとってプラスになると考えて挑んだのだろう。大手ブランドが、自分たちの事業に損害を与えることが明らかでありながら主義主張を貫いたのだと信じるのは、いくらそれが道徳的に正しい主張であったとしても、あまりにも世間知らずだろう。

リスクのあるメッセージ発信が、事業にプラスに作用することもある、ただしそれは実際に商品を購入してくれるのはどんな人たちなのかを理解していることが条件、というのが今回の教訓だろう。

ソレル卿、WPPの新CEO任命は「時間の無駄」

WPPの新CEOにマーク・リード氏が就任すると、同社が正式に発表した。だがリード氏就任は、基本的には4月に決定していたと、マーティン・ソレル前CEOはCampaignに語った。「特に大手クライアント(フォード)が取引を見直しているような状況下にあって、この5カ月間は完全に時間の無駄づかいでした」。また、リード氏はアンドリュー・スコット氏(COO)と共同CEO体制を組むべきだった、とも。

リード氏は「特に米国での不採算事業」に、てこ入れすることを約束。WPPは今週、純売上高が過去5四半期で初の上昇(0.7%)となったと発表。だが、利益予測は投資家たちの期待とは異なったようで、リード氏就任の翌日に株価は8.5%下落している。

インハウスへの傾向を強めるマーケター

世界のマーケターの約半数が、現在エージェンシーが担っているタスクを、今後2~3年間でインハウス(社内)に切り替えていく予定だという。電通イージス・ネットワークが1000人のCMOを対象に実施した調査で明らかになった。回答者のおよそ3分の1が、取引するエージェンシーの数を減らしていく考えだという。来年中に予算増が見込まれると回答したCMOは世界的には6割に上るが、日本ではわずか35%であった。最も懸念しているのは、広告に寛容でない消費者が増加していることや、データ保護規制によって消費者との関係構築が難しくなっていることだという。

消費者行動のトラッキングで、プライバシーへの新たな懸念

広告主は誰もが、自社広告が売上に結びついているかどうか知りたいものだ。ブルームバーグによると、グーグルは秘密裏にマスターカードのモニタリングを1年にわたりサポートしているという。この実験的システムは「ストアーセールスマネージメント」と呼ばれ、グーグルの検索ページ上の広告からマスターカードを利用して購入した消費者の取引データを追跡するもの。消費者がオンラインで商品を検索、クリックして後で実際の店舗で購入しても、事実上はその広告が購買に影響を与えたということになる。「問題はこれらの行為が消費者の認識や同意なしで行われてきたこと」と同紙は指摘。オンラインやオフラインでの消費者行動を知ろうとする企業の取り組みは間違いなく増えていくだろうが、透明性に関する法令は果たして追いついていくのだろうか。

「ロヒンギャを忘れない」

推定100万人のロヒンギャが暴力から逃れるために故郷のミャンマーを追われ、隣国バングラデシュに避難してから1年。NGO団体「ブラック(BRAC)」による精力的な取り組みも1年を迎えた。国連が「ジェノサイド(大量虐殺)」と呼ぶミャンマー軍の暴力行為で50万人もの子どもたちが精神的痛手を受けているが、BRACと協働するオグルヴィはその葛藤を一連のフィルムや写真で記録。同社の東南アジア担当チーフクリエイティブオフィサー(CCO)アジャブ・サムライ氏(以前は東京で勤務)はその実情を知るため、ロヒンギャの人々と2週間生活を共にした。「商品やサービスを売るために使われる手法が善意のために応用できるし、またそうしなければならない。私はこの地球上で最も弱い立場にいる人々に発言権を与えたかった」。

ミャンマーでは今週、ミャンマー軍による人権侵害の実態を取材したロイターの記者2名に禁錮7年が下された。こうした残虐行為や現在も続く人道危機で、多国籍企業はミャンマーへの投資を再考するのだろうか。多くの業界観測筋は、ミャンマーが民主主義や言論の自由を踏みにじったことに「大きな失望」を表明している。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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