Lorna Burt
2022年8月04日

広告は誰のためのものか忘れていないか

アイデアに溢れ、深く考え抜かれ、そしてそれが正義を体現しているとき、広告はある種の公共サービスとなる。

広告は誰のためのものか忘れていないか

ストラテジストとしてこの業界に入った時、私は、私に成し遂げられる最大の価値は「消費者の声」にあると教えられた。

「消費者の声」が意味するのは、最新のトラッカーでデータを収集することでも、緻密に練られたインサイトでクリエイターをへこますことでもない。ただ、キャンペーンが誰に必要とされ、誰のためにワークすべきかを忘れないということだ。

クライアントにもクリエイターにも、本当に大切なのは誰かを思い出してもらいたい。ソファでくつろいでいる人や、子どもに本を読み聞かせている人、ビールを飲んでいる人、そして、Twitterで際限なくスクロールしている人。そういう人たちに気づいてもらう必要があるのだ。彼らに考えさせ、彼らを笑わせ、泣かせ、関心を持ってもらわなくてはならない。

この数週間のイベントで、私は「消費者の声」が、どれほど小さくなりつつあるか、また、ますます大きくなる他の声に、いかにかき消されつつあるかを考えさせられた。

広告賞(そして輝かしいカンヌライオンズのトロフィー)への誘惑が大きくなり、人々は創造的破壊や紹介記事の長さばかりを求めるようになった。結果、つながりを築きたい相手をミスリードしたり、本気で怒らせたりするリスクさえ冒すようになった。歌手のエリー・ゴールディングを起用したアルコール入りスパークリングウォーターの、すでに削除されたソーシャル広告(明らかにこんなものは誰の得にもならない)や、ドラッグクイーンのバガ・チップスに自分の胸について語らせた、主に子ども向けの食品であるスマイリーポテトのCMなどだ。

広告業界人なら誰でも、自分はなぜこの仕事をしているのだろうと疑問を抱き、自分の仕事が及ぼす影響について思い悩んだこともあるだろう。魂を売ったように感じたり、人からモラルを疑われたり、手がけた作品を「洗脳的」だと批判されたりすることもある(私自身に実際に起こったことだ)。

それでも、私がいつもそうした時期を乗り越え、中途半端なイノベーションの試行錯誤のあと、再び広告に立ち返ることができたのには理由がある。それは、アイデアに溢れ、深く考え抜かれ、それが正義を体現しているなら、広告は公共サービスであるという思いだ。

我々が暮らしている社会では、人々は普通、お金と引き換えに、生活をより楽に、そして、より楽しくする商品やサービスを手にしたいと思っている。こうした目的にかなった商品やサービスは生き残り、そうでないものは姿を消すことになる。

業界としての我々の役割は、この広大でせわしない世界の中で、人々が自分に合った商品やサービスを見つける手助けをすることだ。そして、クライアントが我々に対価を払うのは、我々が彼らに代わって商品やサービスの紹介をしているからだ。

我々は、目移りするようなメニューから、ぴったりの一皿を勧めるウェイターのようなものだ。もちろんウェイターと違って、我々にレコメンドを求める人はいない。だから我々は、大げさに手を振ったり声をあげたりして、注意を引く必要がある。

そうだとしても、楽しい広告や感動的な広告、興味深い広告、あるいは思考の糧になるような広告は、それ自体に価値がある。

そして、広告の仕事も重要だ。人々がお金と時間を使う用途は無数にあるが、我々の役割は、そういう人々に、さまざまな選択肢の存在に気づいてもらうということだ。

だが、広告が誰のためにあるかを忘れ、自分のため、クライアントのため、広告賞のために広告を制作するようになった時、この役割は機能不全に陥る。

そういった広告の制作はもう止めて、目まぐるしい世界で生きる、現実の人々のより良い選択を助けよう。

広告賞を獲得したその作品が、あなたの最後の仕事になるかもしれないのだから。

弊社(OPC)では、いつもこうしたことを意識させられている。自らもまだ創業まもない企業であり、これから事業拡大をめざす新興企業や訴求したい新商品を抱えたクライアントたちと、いつも共に仕事をしているからだ。

クライアントは、自社の製品やブランド、それらがつくりだす世界を強く信じている。これらの製品が人々にどう役立つかに言及せず、消費者が注目すべき理由を伝えることもなく、ただ大声でブランドの姿勢だけを語るようなことはできないのだ。

業界もエージェンシーも、常に正解を持っているわけではない。だが、人々や社会にサービスを提供していることを自覚し、常に「消費者の声」に耳を傾け、それをキャンペーンに反映しようとすることは、正解に近づく第一歩となるはずだ。


ローナ・バート氏は、オレンジパンサー・コレクティブ(OPC)の戦略パートナー。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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