Barry Lustig
2016年6月09日

広告は、「人間的肉声」であるべし ~ 中治信博

シリーズでお届けしている、「日本のクリエイティビティーを語る」。今回はテクノロジーの話題から離れ、ユニークな活動を続けるクリエイター、中治信博氏に話を聞く。ユーモア溢れる一連のヒットCMで知られる同氏。その作品が社会に受け入れられる要因を探る。

中治信博氏
中治信博氏

クリエイティブ・ブティック、「ワトソン・クリック」の共同創業者である中治信博氏。関西の広告業界ではつとに著名な存在で、現在は東京に拠点を構える。
広告業界以外でも、同氏は大阪の人気劇団「満員劇場御礼座」の脚本家、演出家、そして看板役者として知られている。

中治氏は長年のクリエイティブ・パートナーである山崎隆明氏とワトソン・クリックを立ち上げるまで、電通関西支社のクリエイティブ・ディレクターを務めていた。電通時代は、山崎氏とともにクリエイター・オブ・ザ・イヤーを受賞した実績もある。

そんな中治氏がワトソン・クリックを創立したのは、電通のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターに就任して間もなくのこと。管理職としての地位に、コピーライティングや現場でのクリエイティブ・ディレクションといった「仕事の喜び」を見い出すことができなくなったのだった。

中治さんは生粋のコピーライターとして知られています。仕事のどんなところに最も充実感を覚えますか?

広告は企業が社会に対する視点、考え方、価値観を表現するものですが、
それは無機質なものであるより、人間的な肉声である方がよく消費者に届きます。
つまり広告は、一見矛盾しているようですが、企業の声であると同時に広告の作り手の肉声、心の中から生まれた声であっていいということなんです。
作り手が自己を投影すると、よく届く。
それがこの仕事の楽しいところです。

常にフレッシュな視点を保ち続ける秘訣は何でしょう?

時々、無理にでも正反対から考えてみること。
例えば「これはすごく目立つ広告でなければならない」と思い込んでしばらく考えた後で、「いや、全く目立たない広告だったらどうなのか。どうすれば目立たないか?」と反対から考えてみる。意外とどっちも悪くないことが多い。あるいはそのうえで、結局最初の考えに戻るとか。そうやってアイデアを考える際の視点や制約を自分の中で回遊させる。
それからニュースや広告を小学生ぐらいの子供の気持ちで見ると、ふだん当たり前と思っていることにおかしな点があるのに気づきます。そういうのがヒントになることも。

日本の広告ではいまだにテレビが大きな影響力をもっています。それはなぜでしょう? また、こうした状況はいつまで続くと思いますか?

日本の市場におけるテレビ以外の効果的な手段が見つかっていないからです。
まだインターネットの使い方の実験が足りない。やがて天才が現れて新しい使い方を示すまで、テレビの優位はあと10年ぐらい続くでしょう。

中治さんは関西のご出身ですが、関西と東京ではクリエイティブに対するアプローチは違いますか?

いえ、そこは基本的には変わりません。
課題達成のために広告予算の最も効率のいい使い方を探すという点では同じです。

日本で広告制作をする際に、地域性を取り入れることはどれくらい重要なのでしょう?

ある地域の市場に向けたキャンペーンをやる場合は、もちろん地域性は有効です。
そうでない場合は特別な地域性は不要ですが、だからといってすべての舞台を東京にすべきということではありません。
東京を描かずに普遍的な日本を描くこともできるはずです。

ユーモアは消費者にアピールする最高の手段、とお考えですか?また、中治さんの仕事でユーモアが重視されているのはなぜでしょう?

笑いはもちろん唯一の方法ではありません。消費者に何かを伝えるのにはいろんな手段があり、どの方向に進んでも効果は完成度次第です。
自分の仕事に笑いが多いのは、笑ってもらうことが好きだから。小さい時からです。

将来的に自分のエージェンシーを立ち上げたいと考えているクリエイティブ界の人々に、どのようなアドバイスをしますか?

仕事は自分で面白くすること。
つまらなくするのは簡単。
それから、一人前のふりをすることは簡単。
いつまでも素人の気持ちで。

クリエイティビティーを最大限に活用するために、クライアントはどのような点を気をつけるべきでしょう?

お互いを理解し合い、信頼し合い、ストレスなく意見をぶつけ合う関係になるにはどうすればいいか。
仕事の発注者と受注者の関係ではなく、同じゴールをめざす仲間となるにはどうすればいいか。

クライアントはクリエイティブ・チームと直接やりとりをするべきだと思いますか?それとも、営業チームも一緒に参加するべきでしょうか?

クリエイティブ・チームと営業チームはお互いに助け合うべき存在です。
一緒に参加すべきです。

インタラクティブな広告が広まると、テレビ広告も変わっていくと思いますか?

変わっていくと思います。
今まで全領域をカバーしようとしていたテレビ広告が、目的に応じてインタラクティブ広告とカバーする領域を分け合うようになるでしょう。
また、インタラクティブ広告での成功事例をテレビ広告に持ち込む、という逆転現象も現れるでしょう。

質の高いクリエイティブ広告は、チームワークから生み出されるのでしょうか?それとも、個人から生み出されるのでしょうか?

どちらとも言えません。個人あるいはチームの質によります。

バリー・ラスティグは、東京を拠点とするビジネス・クリエイティブ戦略コンサルティング会社「コーモラント・グループ」のマネージング・パートナーです。

(編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

関連する記事

併せて読みたい

18 時間前

「ジェンダー平等」に沈黙する男性たち

広告業界は男女の協働があってこそ成り立つ。だがジェンダー平等の実現に取り組むのは、往々にして女性だけだ。

2 日前

中国企業、海外進出の「壁」

国内市場が景気減速を続けるなか、中国企業は海外成長を目指す。その課題とは何か。

2020年5月22日

世界マーケティング短信:オフィス再開のロードマップ

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2020年5月22日

コロナ危機へのブランドの対応

【5月22日更新】新型コロナウイルスの感染防止に関する支援や情報提供、製品・サービスの開発など、さまざまなブランドが消費者、社員、そして社会のために動き出している。