Omar Oakes
2018年10月10日

広告業界は、なぜAIに無知なのか

AI(人工知能)の無能ぶりを描いたバーガーキングの宣伝は、確かに愉快だ。だがそれは、業界人たちが心の奥底で抱くAIへの恐怖心を示している。

広告業界は、なぜAIに無知なのか

バーガーキングは先週、「AIが全て制作した」とうたうテレビCMのオンエアを開始した。

このCMにはいくつかのバリエーションがあり、「(チキンの)ベッドになるのはレタスの葉。更なる眠りを約束するのはマヨネーズの布団」などといった馬鹿げたナレーションが流れる。

バーガーキングによれば、「AIにこれまでのコマーシャルを何時間も見せ、深層学習(ディープラーニング)のアルゴリズムを用いることで新たな広告を制作した」(実際は広告代理店のコピーライターがシナリオを作った)。

ラジオテレビの両方で流されるこの広告は確かに面白いし、バーガーキングのイメージをよく踏襲している。同社はこれまでもワッパーの「中立性」を問う「ワッパー・ニュートラリティー(Whopper neutrality)」や音声アシスタント技術を使った「グーグルホーム・オブ・ザ・ワッパー(Google home of the Whopper)」といった滑稽なCMを作り、話題を呼んできた。後者は今年のカンヌライオンズのダイレクト部門でグランプリを獲得している。



だがこの新しい広告が面白いのは、我々が心の底でAIを非常に恐れ、人間が無能な存在になってしまうかもしれないと危惧しているからに相違ない。

我々人間は、クリエイティビティーに関して脆弱な自尊心を持っている。それを示す常套句は、「コンピューターが真にクリエイティブになることなど決してない。必ずやひどい結果を引き起こすだろう」というものだ。

だが現実にAIは、10年前には想像もつかなかったような洗練された仕事をクリエイティブの世界でやってのけている。「アンドロイド・ロイド・ウェバー(Android Lloyd Webber)」や「エイヴァ・テクノロジーズ(Aiva Technologies)」を見れば、舞台や音楽の世界でAIがどのようなものを生み出せるかがよく分かる。

広告業界でもAIを使った素晴らしいクリエイティブが生まれている。ジェイ・ウォルター・トンプソン・アムステルダムがAIを活用して「ザ・ネクスト・レンブラント(The Next Rembrandt)」を制作し、2016年のカンヌライオンズのイノベーション2部門でグランプリを獲得したことは記憶に新しい。また、英ディープマインド社による絵を描くAI プログラムや、マレンロウとロイヤル・カリビアン・インターナショナルが手がけたピクチャーギャラリーの写真にサウンドトラックを付けるアプリはご存知だろうか。

AIの能力を我々が既に把握しているにもかかわらず、先端を走り続けようとする広告業界でバーガーキングのような稚拙な表現が生まれるのはなぜなのだろう。

最近亡くなったあるエージェンシーのクリエイティブは、クリエイティブの人間には2つのタイプがあると語っていた。その1つは、自分たちのかけがえのない才能を信じて疑わず、AIを軽視するタイプ。もう1つは、厄介なクライアントの問題解決により時間を費やすため、ありふれた課題を積極的にAIに任せるタイプだ。

では、第3のタイプはどうだろう。代理店のソファーに腰を落ち着けている人たちには及びもつかないAIの異次元の思考法(そう、思考なのだ)を用い、どのようなアイデアが生み出せるか見極めたいと考える人たちだ。

今でも多くの人は、頑ななまでにコンピューターがクリエイティブであることを認めたがらない。だが正直なところ、クリエイティブの仕事のほとんどは新聞広告のリライトであり、コーヒーやブロードバンドをどのように売るか考えることだ。コンピューターが担える業務はたくさんあるし、それは必ずしも我々の仕事を奪うことを意味しない。AIのおかげで人間はより次元の高いアイデアや、より価値の高いものをクライアントに提供できる余裕が生まれるだろう。

バーガーキングはジャンクフード・ブランドらしく、我々にとって本当に良いものではなく、我々をハッピーにするものを巧みに表現したに過ぎない。

バーガーとフレンチフライを毎食摂っていれば体に長期的な悪影響を及ぼすように、AIに関して無知でいることはやはり同じ結果を生み出すのだ。

(文:オマール・オークス 編集:水野龍哉)

オマール・オークスはCampaignのグローバル・テクノロジー・エディター。

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