James Thompson
2016年6月22日

愛国心を打ち出すブランディングは共感を得られるか

ディアジオ・リザーブのグローバル・マネージング・ディレクターであるジェームス・トンプソン氏は、バドワイザーが夏季限定で行うブランド変更に懐疑的だ。

バドワイザーは5月に名称変更を発表した
バドワイザーは5月に名称変更を発表した

独立記念日、労働祭、感謝祭、そして見苦しい展開が確実な大統領選にまたがる6カ月間、バドワイザーはブランド名を「アメリカ」に変更する。このバドワイザーの決断を、「愛国心はならず者の最後の逃げ場」との名言を残した詩人サミュエル・ジョンソンならどう評するだろうか。パッケージのお馴染みのロゴは差し替えられ、広く親しまれている国歌の一節やフレーズが載る。バドワイザーは文字通り、アメリカ国旗に身を包むことになる。

この企画が綿密な調査とリスク管理の上に実行されることは間違いないだろう。国を二分する混沌とした状況はバドワイザーにとって、シンプルな一体感を大々的に訴える絶好のチャンスと映ったのかもしれない。国が危機的状況に陥り、政治の仕組みが崩壊しかかっているとき、ビールに国の名前を付ければ、難局を打開して元の世界に戻れそうな雰囲気くらいは作れるかもしれない。心を通い合わせるのに適した媒体が、慣れ親しんだビールをおいて他にあるだろうか。

確かにそういった考え方もあるだろう。しかし実際には、愛国心は「ならず者の最後の逃げ場」ではない。愛国心というのは、心の深くにある複雑に絡み合った一連の忠誠心をつなぎ合わせる言葉だ。しばしば私的なものであって、意味を完全に説明することはできない。これまでも多くの市場で、主要なビールブランドが愛国心に訴えかける手法を取ってきた。しかし今回のバドワイザーの大胆さは、どちらかと言えば皮肉な見方をされるのではないだろうか。

バドワイザーは自らとアメリカの価値観を露骨に関連付けようとしているが、そうするにふさわしいブランドなのかどうか。一体感の醸成を打算なく願っているのか。それともただ販促用のスリーブに包まれているだけなのか。消費者がどう受け止めるかに成否がかかっている。

(文:ジェームズ・トンプソン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)

同様の手法は、日本でも通用するだろうか。ご意見はメールでこちらまで。[email protected]

関連する記事

併せて読みたい

4 日前

豪保険会社、安全運転をゲーム化して奨励

豪州の保険会社AAMIが、運転中の危険行為を罰するのではなく、安全運転に報酬を与える6カ月間のキャンペーンを開始した。

4 日前

世界マーケティング短信:アサヒGHDへのサイバー攻撃で流通に影響

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

2025年10月09日

なぜ人間よりもGPTに対して、良いフィードバックを与えるのか?

率直さは職場において、非常に大きな力を発揮するはずだ。しかし、私たちはどういう訳か、最も有用なフィードバックを機械にのみ与える。

2025年10月08日

X世代の消費額、2030年には5.7兆ドルに

消費額が兆規模に達する1965年〜80年生まれのX世代。彼らの61%はアジアに、そしてその4割近くは中国に居住する。だが依然として、彼らはマーケティングの「レーダー」にはっきりと捉えられていない。