Sven Palys
2021年5月28日

日本は「多様性」が持つ強さを認めることができるか

日本人が持つ「日本人」の概念はあまりに狭すぎる。しかし、社会的背景、考え方、困難、選択において、よりインクルージョンな発想や多様性を受け入れる兆候も見られると、ゆず兄弟株式会社の共同CEOは語る。

日本は「多様性」が持つ強さを認めることができるか

すべての国にアイデンティティがある。それは、国の歴史、国民性、嗜好性について自分自身に語りかける物語だ。日本の場合、鎖国の歴史や、現在も移民の本格的な受け入れを拒み続けている姿勢を考えると、おそらく他の国よりも理想化された集団的イマジネーションに依存しているだろう。このように「他者」から大きな影響を受けなかったことで、産業の多くの部分には素晴らしい現代性が備わっているにもかかわらず、日本文化のさまざまな側面には、古い観念が「煮こごり」のように保存されている。

こうした文脈の中で、日本人が抱くセルフイメージは、働き過ぎのサラリーマンが国を豊かにし、その妻たちは郊外の小さな住居で家事に追われるというものだ。実際このイメージがあまりに強いので、標準的なイメージと少しでも違う生活を送っている日本人は、しばしば自分は典型的な日本人ではないと口にする。

こうした傾向は、市場調査のためのフォーカスグループを集めた際に一層明白に感じられた。あるセッションでは、「40代の女性」グループに、家庭を守ってきた専業主婦が一人選ばれた。彼女はマーケティング素材を見たとき、40代の主婦には響く内容だと感想を述べた。しかし、この内容を気に入ったかと問われると、ためらいがちに否定し、自分はあまり典型的なタイプではないからと釈明した。これは、けっして個性を誇示しているわけではなく、理想とされる生活を送っていない自分への自虐的表現なのだ。

この種の反応は、そうした考え方を――控え目どころか、むしろあからさまに――助長する社会的背景の中で起きている。レストランのメニューに「女性におすすめ」と書かれているのは皮肉ではない。日本社会に適合するためには、正しい選択が存在し、自分の選択肢は予め決まっているのだという現実を受け入れなければならない、という強い固定観念があるのだ。

これらのナッジ(心理的誘導)が導く帰結はひとつ、「日本人とは何か」について、非常に狭い定義しか認めない文化だ。これがなぜ問題なのか。それは、このような神話的観念によって必然的に、大半の人が疎外感を抱き、社会の一般的な風潮からどこかずれていると感じることになるからだ。そしてこれは、誰も幸せにならない完全に無益な行動パターンへとつながる。わかりやすい例が、夜遅くまで働くことを促す同調圧力だ。「他のみんなが夜通しオフィスにいるのに、そうしない私がなぜ良心の呵責を感じないのか?」と自問してしまうのは、日本の企業文化がそれほど抑圧的だからだ。

解決策があるとすれば、その第一歩は間違いなく、日本人のセルフイメージがよりインクルーシブなものになることだろう。つまり、自国の中にある多様性をもっと受け入れることだ。社会的背景、考え方、困難、選択の多様性だ。なぜ日本人男性の成功の定義が、勤務先の企業での地位に限定されてしまうのか。もちろん、このような狭い評価基準と決別した人々もいる。都会での「成功」に生活の質をむしばまれ、故郷に戻ることを決意したサラリーマン。主流のキャリアや家族の期待から外れた場所に大きなチャンスと希望を見出した若き起業家など。しかし、そうした人々はいまだに、一般常識からは珍しい例外として扱われがちだ。

その次にすべきことは何だろうか。抗議の声は、ゆっくりではあるものの、変化をもたらしつつある。上の世代の伝統的な考え方に今、若者たちが公然と異議を唱えている。若い世代は自分たちの負担を痛感し、我慢の大きさに比してメリットが見合わないと感じている。個人のニーズや欲求の多様性を論じることがもっと言論の主流となってくれば、日本のソーシャル・ウェルビーイングにとって一歩前進となるだろう。多様性を祝福し、踏みならされていない道を進む喜びを称え、「適合」しない人々を無視するのではなく支援することによってのみ、社会は強化される。私たちは皆、規格外なのだ。


スベン・パリス氏は戦略コンサルティング企業ゆず兄弟の創業者兼共同CEO。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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