Gideon Spanier
2020年2月06日

アクセンチュア、メディア監査から撤退

巨大コンサルティングファームは今後、エージェンシー業務に専念する。

アクセンチュア、メディア監査から撤退

アクセンチュアがメディア監査部門を閉鎖すると発表した。デジタルマーケティングを担うアクセンチュア インタラクティブがグローバルエージェンシーとして大きく成長、「利益相反」という批判が高まっていた最中での決定だ。

アクセンチュアのスポークスマンは「メディア監査やベンチマーキング(企業の比較分析)、エージェンシーピッチのコンサルティングなどのサービスを徐々に減らし、(事業年度が終了する)8月末までに終了する」と語った。

「クライアントとの契約上の責務は全うし、その後も業務の円滑な移行をサポートしていく所存です」

アクセンチュアでメディア監査を担うアクセンチュア メディア マネジメント(AMM)の事業規模は小さく、スタッフは数十人程度といわれている。

それとは対照的に、アクセンチュア インタラクティブの年間売上高は100億米ドル(約1兆1000億円)以上。ドロガ・ファイブなどのエージェンシーの買収で急速に事業が拡大する一方、にわかにライバルとなった大手エージェンシーの監査やベンチマーキングを姉妹会社が担っていた。

ライバル各社はこれを利益相反と批判。特にアクセンチュアがプログラマティックバイイングやプランニングの領域に進出してからは、より批判が強まっていた。

今回の決定はこうした背景が直接的原因なのか。スポークスマンは、「我々は引き続き、クライアントに価値を創出すべく事業の変革を行っていきます。今回の決定は最も戦略的かつ急成長を遂げる分野でアクセンチュアの地歩を固めるための、幅広い取り組みの一環」と話した。

AMMのスタッフの数についてはコメントを避けたが、「今後社内のどの部署に異動させるか、現在検討中」という。

AMMと競合するPwCの共同経営者でマーケティングとメディアアシュアランス(保証)を担うサム・トムリンソン氏は、「もちろんこれまで、アクセンチュアはメディア監査とエージェンシー業務とをきちんと分けて運営してきたはず。しかし、他のエージェンシーは極めて懐疑的だった。こうした顛末は決して驚きではありません」と話す。

「いずれにせよ、メディア監査は根本から変わりつつある。今日のメディアでは、クライアントは新たなアプローチだけでなく、専門性の保証や危機管理、ガバナンスに関して異なる尺度を求めるようになってきています」

同じくAMMと競合するIDコムス(Comms)社の共同創設者でCEOを務めるデビッド・インドウ氏は、「この決定をしばらくの間待っていた」と話す。

「アクセンチュアがアクセンチュア インタラクティブへの投資を加速させ、プログラマティックバイイングの領域に踏み込んだとき、実質的な利益相反が生じた。(メディア監査やベンチマーキングなどを続けることを)我々が受け入れられない状況になったのです」

「プログラマティックバイイングやプランニングによる数十億ドル規模のビジネスの可能性の方が、メディア監査の価値よりもずっと重要になったということ。アクセンチュアにとって、メディア監査は『丸め誤差』の域でしたから」

加えて、AMMを含めた主要メディア監査企業が使う手法は「もう時代遅れであることは否めない」とも。

特に「プールベース」の監査(監査企業の持つクライアントの基準で、広告主の価格やクオリティーの需要を評価)は、テレビの影響力が強く、価格設定がたやすかった時代には機能したが、今のように入札ベースのメディアバイイングでは現実味に欠けるというのだ。

「メディア監査をやめることでアクセンチュアは踏ん切りがつくでしょう。エージェンシー業務に専念し、WPPやオムニコム、ピュブリシスグループといった巨大ホールディングカンパニーと堂々と渡り合えますから」。

アクセンチュアは業界向けにこのような声明も発表している。「我が社の準備は整っています。クライアントはもう迷わずに我々をピッチに呼べるだろうし、利益相反という批判もなくなる。これからはエージェンシーの土俵で、エージェンシーのビジネスを追求していきます」。

インドウ氏にとって唯一の驚きは、アクセンチュアがAMMを他社に売却しなかったことだ。

AMMの最大のライバルはエビクイティ(Ebiquity)社。だが近年のクライアントの需要の変化で、同社の株価は下落している。

(文:ギデオン・スパニエ 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign UK

関連する記事

併せて読みたい

2 日前

世界マーケティング短信:Cookie廃止の延期、テスラの人員削減

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

3 日前

大阪・関西万博 日本との関係拡大・強化の好機に

大阪・関西万博の開幕まで1年弱。日本国内では依然、開催の是非について賛否両論が喧しい。それでも「参加は国や企業にとって大きな好機」 −− エデルマン・ジャパン社長がその理由を綴る。

4 日前

エージェンシー・レポートカード2023:カラ

改善の兆しはみられたものの、親会社の組織再編の影響によって、2023年は難しい舵取りを迫られたカラ(Carat)。不安定な状況に直面しつつも、成長を維持した。

4 日前

私たちは皆、持続可能性を前進させる責任を負っている

持続可能性における広告の重要性について記した書籍の共著者マット・ボーン氏とセバスチャン・マンデン氏は2024年のアースデイに先立ち、立ち止まっている場合ではないと警告する。