Zoe Beery
2017年10月05日

「オーセンティックな」ブランドとは何か

グローバルブランドの信頼性や真実性について、コーン&ウルフのレポート「オーセンティック100」が明かすものとは?

「オーセンティックな」ブランドとは何か

ブランドのオーセンティシティー(真実性)を定義することは難しいが、消費者にとっては、判断することは難しくない。

PRエージェンシー「コーン&ウルフ」が2012年より実施する調査「オーセンティック100」は、消費者がどのブランドを評価し、着眼点は何なのかを調べてきた。調査で考慮されるのは、「信頼(ブランドが消費者の期待に応えるか)」、「敬意(消費者を大切に扱って情報を守るか)」、「真実(消費者と公正なコミュニケーションをとり誠実に行動するか)」の3つのキーワードだ。

コーン&ウルフのチーフ・クライアント・オフィサー、ブルック・ホーヴィー氏は9月28日、アドバタイジング・ウィーク・ニューヨークにおいて、2017年の上位10社を発表。ペイパル(ランキング5位)コミュニケーション部門トップのフランツ・パーシェ氏、マイクロソフト(同3位)ブランド担当バイスプレジデントのキャスリーン・ホール氏、そしてアマゾン(同1位)エクゼクティブ・クリエイティブ・ディレクターのマイケル・ボイチャック氏の3名と、パネルディスカッションも実施した。

これら3社に加え、アップル、グーグル、インテル、HPなど「7つのテクノロジー企業がトップ10入りしたことは快挙」とホーヴィー氏。また「テクノロジー企業はイノベーションの熱気と、人々の日常生活の利便性向上を融合しています。人々の生活の中で、信頼感が根付いてゆくのです」と語るのはパーシェ氏だ。「政治家たちの主張が色褪せていく中で、モラルリーダーシップ不在の空白を、テクノロジー企業は埋めることができる。世界や国が直面する問題を、我々がどのように考え、評価しているのか。それがあらゆるステークホルダーとつながるための、強い力となるのです」

これらのテクノロジー企業がブランドの真実性を確保できているのは、コアバリューを明確にして集中し、そこから離れなかったためだ。ホール氏がマイクロソフトに参画したのは、ひどい結果に終わったOS「Vista」の販売開始直後のこと。この不成功を、ブランドの真実性を見直す絶好のチャンスと認識したためだった。「私たちは改めて消費者と向き合い、消費者にとってマイクロソフトというブランドが持つ意味を確認するために、世界規模で調査を実施しました。そこで導き出されたのは、マイクロソフトは『機会』、『アクセスとコネクション』、『強さと可能性』を意味するという回答で、世界的に一致していました。十年後の今も、消費者はマイクロソフトに対して同じイメージを持ち続けてくれています。真実性の勝利といえるでしょう」

パーシェ氏によると、ペイパルの価値基準は同社の壁に掲出されており、その中の一つに「多様性の受け入れ」がある。昨年ノースカロライナ州議会が「反LGBT法」を承認した際に、ペイパルは同州内での事業所開設計画を撤回するか否かの決定を迫られた。価値基準に忠実に従った同社は、直ちにこの法案を非難する声明を発表、2週間経たぬうちに開設計画を白紙撤回した。「この壁に掲げられた価値基準を貫き、多様性のために戦うべきか、決める必要がありました」と語るパーシェ氏は、会社の決断を誇りに思っている。

ペイパルの決断は、同社に対する消費者の意見と合致していたため、広く賞賛された。「我々の価値基準は揺るぎません。それは我々を導いてくれるものであり、難しい決断を迫られた時も、政治的な判断ではなく、価値基準に基づいた判断を可能にしてくれるのです」(パーシェ氏)

またホール氏も「社会的な価値基準は、ただそれに乗っかってアピールすれば良いというものではありません。きちんと行動に移し、貢献することが大切です」と語る。

文化的な真実性は、政治的な真実性と同様に難しい話題であり、最善策についてはパネリストたちの意見が一致しなかった。アマゾンのボイチャック氏は「型にはまった広告は、世界中で見ることができます。しかし当社では、インドではインド人を、中国では中国人を、そしてカナダではカナダ人を意識すべきと考えるのです」と、アプローチを地域ごとにローカライズすることを支持した。

これに対しパーシェ氏とホール氏は、「消費者たちの間には相違点よりも共通点の方が多いことが明らか」と経験と調査に基づき反論を展開。「私たちは小規模な販売者と、消費者を結びつけることに長けています。世界の経済の一員でありたいという彼らの熱意は、どこの市場においても同じだと思うのです」(パーシェ氏)

コーン&ウルフは「オーセンティック100」の最終結果を、数週間後に発表する予定。ランキング入りしなかった企業に向けてホール氏は、信頼性に関する大切な、そして往々にして見逃されがちなコンセプトを強調した。「自分たちはすべてを理解していないが学んでいくつもりだ、という謙虚な姿勢が、真実性には必要です。人間関係によく似ていますね」

ブランドの真実性を形作る「信頼性」や「敬意」は、顧客体験に依存する部分が大きく、広告に起因するものでないことは調査結果からも明らかだ、とボイチャック氏。「ブランドにとって、いかなる広告表現も可能ですが、人々との確かな交流がなければ、広告は全く意味が無いものになってしまう」とメッセージを投げかけた。

キャンペーンを始める時、すべてはクリエイティブブリーフ(広告の設計図)からスタートする。そしてそれはインスピレーションに溢れ、かつ消費者に対して真実性のあるものでなければならない。「優れたクリエイティブブリーフの本質的な部分は、必ず消費者を起点としていますが、出来の悪いクリエイティブブリーフはビジネスが起点。人々の生活の中での葛藤よりも『この第三四半期にキャンペーンを開始したい』という思いが先に立てば、優れた広告にも、真正性のある広告にもなりません」とボイチャック氏は結ぶ。

(文:ゾーイ・ビーリー 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign US

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