Scott MacLeod
2021年2月11日

クリエイティビティがブランドの成長に果たす役割とは

世の中はとどまることなく変化し続け、クリエイティビティは不確実性のなかでもブランドの成長を後押しする。

クリエイティビティがブランドの成長に果たす役割とは

いま「クリエイティビティ(創造性)」という言葉がかつてないほど多用されている。

数々の発表、ニュース記事、TEDのトーク、(筆者の会社を含む)エージェンシーの行動指針などにもこの言葉が使われている。しかし、成長のためにクリエイティビティを求める企業に対して、我々がクリエイティビティの価値を説明することはほとんどない。

マーケターに、成長についての教訓が必要になったのは、2020年以降のことだ。パンデミックや二度の大統領弾劾、山火事、選挙、経済の混乱、そして人種差別を解消しようとするムーブメントなどにより、人々の行動とビジネスは大きく変化したからだ。

この変化の中で、伸びたブランドもあれば衰退したブランドもある。命運を分けた要因はさまざまで、ビジネスモデルの回復力、業界の社会的必要度、キラー製品の存在や優れたリーダーシップ、あるいは単なる幸運と、枚挙にいとまがない。しかし、大きな役割を果たしたかもしれないものをもう1つ挙げるとするならば、それは「クリエイティビティ」である。

危機の時代にはクリエイティビティが隆盛を見せる。2020年だけをみても、ザ・フレーミング・リップスが、メンバーや観客が「風船(バブル)」に包まれたコンサートを開催し、バドライトは無人のスタジアムをボール紙製のファンで埋めた。パタゴニアは「Vote the assholes out(あのバカどもを投票で追い出せ)」という呼びかけをショーツに縫い付け、KFCは米国の有料テレビ局「ライフタイム(Lifetime)」で映画まで作った。

しかし、それらに効果はあったのだろうか。クリエイティビティは成長を促したのだろうか。効果があったとして、どのように効果に結びついたのだろうか。

我々は調査することにした。まず、「クリエイティビティ」の定義を限定し(簡単なタスクではない)、「オリジナリティ」と「価値」という2つの要素に絞り込んで、それをブランドに合わせて6通りに解釈した。そして、10の業界の100のブランドについて、この規定を用いて2020年のクリエイティビティの使い方を評価した。

2020年に成長著しかったブランドを、レス・ビネー(Les Binet)氏の検索シェア(Share of Search)に基づいて決定し、要因のうちクリエイティブなものとエンデミックなものの割合がどうなっているのかを、単純なバイナリ計測で評価した。

この方法には注意すべき点がある。人々の関心が高いカテゴリーほど検索されやすく、ひいては測定の対象となりやすい傾向があるのだ。さらに、検索シェアは定義された市場に左右される。そこで、新興企業と従来型企業の組み合せとなるように、バーティカルごとに5つのブランドを選んだ。

その結果、100のブランドのうち、2020年にクリエイティビティを用いて特に効果的に成長を促進したブランドは、ナイキ、Airbnb(エアビーアンドビー)、ペロトン(Peloton)、ロウズ(Lowe's)、デルタ航空であることが判明した。

これらのブランドはいずれも迅速に、コミュニケーションを現状に適応させた。たとえば、ナイキは同社の名スローガン「Just Do It」を再解釈し、「Play Inside, Play for the World. (屋内でプレイせよ。世界のためにプレイせよ。)」と人々に訴えた。

また、これらのブランドはクリエイティビティを活かし、業務および顧客体験を再考した。Airbnbは、パンデミック到来の際には清掃手順を強化し、大統領就任式をめぐる脅威の際には、ワシントンD.C.への宿泊予約をすべて停止するなど、リアルタイムに決断を下した。

クリエイティビティを活用して成長したブランドは、インクルーシブ(包摂的)なブランドでもあった。たとえば、ベロトンは#FindYourOwnTribeというハッシュタグを用いたブランドキャンペーンを立ち上げ、Airbnbは新規株式公開(IPO)の際、株式の一部をホスト(宿泊先提供者)にも割り振った。

これらのブランドは、日々の生活の中で人々を支援する方法を見つけた。ロウズは、「Transformation Tuesday」シリーズでステイホーム中に自宅の空間を生まれ変わらせる新しい方法を提案した。デルタ航空は、重要な理由で飛行機に乗る旅行者であれば、隔離措置を受けずにすむ「隔離免除」フライトを開始した

最もクリエイティブなブランドにとっては、もはや驚きだけでは十分ではない。綿密に編集されたナイキの動画「You Can't Stop Us」は、畏敬の念を起こさせ、ブランドのミッションを一瞬の驚きではなく、より意味深いものにした。オーランド・ウッド氏の著書「Lemon: How the Advertising Brain Turned Sour.」によると、畏敬は成長につながりやすい傾向があるという。

そして最後に、これらのブランドでは明瞭さと説得力が嵐を乗り切る力になった。上位のブランドはいずれも、長年エネルギーと目的意識を注ぎ込み、一貫して構築してきた明確なミッションにコミットしてきた。そして、新製品から企業としてのコミットメントに至るまで、すべての活動において単なるコミュニケーションにとどまることなく、これらのミッションを強化している。

世の中は変化し続け、クリエイティビティは不確実性のなかでブランドの成長を後押しする。ブランドはクリエイティビティを底上げの手段として使うことで、長期的な成長を安定して実現できるのだ。


スコット・マクラウド(Scott MacLeod)氏はVIAのプランニング担当ディレクター。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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