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2018年10月04日

世界マーケティング短信:アップル、再度の栄冠

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

写真:Shutterstock
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アップル、ブランドランキングで首位に

インターブランドが発表した「ベスト・グローバル・ブランド2018」によると、首位は今年8月に時価総額が1兆ドルを超えたアップルで、ブランド価値は2,145億ドル(前年比+16%)となった。2位のグーグルは1,555億ドル(同+10%)、3位のアマゾンは1,008億ドル(同+56%)で成長率が最も高かった。マイクロソフト(4位)、コカ・コーラ(5位)が後に続く。英ケンブリッジ・アナリティカのスキャンダルがあったフェイスブック(9位)は、452億ドル(同-6%)と初めてブランド価値が減少した。

トップ100ランキングに入った日本のブランドは、以下の8つ。

トヨタ(7位、534億ドル)
ホンダ(20位、237億ドル)
日産(40位、122億ドル)
キヤノン(55位、104億ドル)
ソニー(59位、93億ドル)
パナソニック(76位、63億ドル)
任天堂(初ランクイン99位、47億ドル)
スバル(初ランクイン100位、42億ドル)

ニュースの視点:アップルはここしばらく、既存商品の延長線上でイノベーションを発表しているのみで、画期的な商品やサービスを発表していない。それでもブランドランキングで首位の座を守れたのは、過去の革新による部分が大きいだろう。だが、ブランディングやマーケティングへの投資と実行を持続しており、これが驚異的なパフォーマンスを牽引していると考えられる。

グーグル、偽サイトに広告スペースを販売

英タイムズ紙がおとり調査を行い、「偽のウェブサイトからグーグルの広告スペースを購入した」と報道した。購入に際しては、「偽ID / 偽パスポート / 偽レビューを購入」といった検索語を使用したという。グーグルの自動システムがこれらの検索語を認証した。グーグルは「ほとんどの場合でシステムは正しく機能しているが、今回はそうならなかった」と釈明。この報道後に同社はシステムをアップデート、これらのキーワードは使えなくなる。同社スポークスマンによると、昨年は32億本の不適切な広告をブロックしたという。

ニュースの視点:
広告関連の詐欺を巡る「戦い」は果てしなく、インターネット企業の増大につれてこの手の問題も増加の一途を辿る。こうしたことが発覚するたびに、消費者の信用が落ちることは不可避だ。責任ある広告主ならば、その企図の正当性を理解してもらうためにより一層の努力が必要だろう。グーグルは依然として信用問題が取り沙汰されているが、その業績にはほとんど影響が現れていない。同社の今年の広告セールスは1000億米ドル(約11兆5000億円)に達する見込みだ。

フェイスブックに新たな試練

5千万人分のユーザー情報が流出した事件は、これまでのところケンブリッジ・アナリティカ社のスキャンダルほど騒がれてはいないにせよ、フェイスブックにとっては過去最大の打撃にちがいない。ニューヨーク・タイムズ紙の報道では、フェイスブック経由でログインできる何千というウェブサイトのセキュリティーを、ハッカーが脅かす恐れがあるという。

ニュースの視点:
フェイスブックが依然、巨大な存在であることは否定できない。全世界の人間の3分の1近くが、少なくとも月に1度はログインするのだから。だがその勢いは翳りを見せ、この1年で先行きも不透明になった。市場調査会社eマーケターによると、米国では今年になって25歳以下のユーザーが既に280万人退会。年内中に更に210万人が退会見込みだという。フェイスブックに対する関心は弱まっており、こうしたセキュリティー上の欠陥は消費者の離反に追い打ちをかけることになろう。

「スポーツ・スタートアップ」との関係づくりを目指す、電通

電通は来年、世界中のスタートアップが投資家にアイデアを発表できるプログラム「Sports Tech Tokyo」を開催する。同社スポークスパーソンは「アスリートのパフォーマンスをサポートし、観客のライブ体験を高め、ファンをより魅了するアイデアを求めている」とコメント。今後は競技場周りの広告ではなく、「競技場内のテクノロジーにより大きなビジネスチャンスを見出していく」とも。

ニュースの視点:
スポーツ界で既に大きな存在感を放つ電通は、更にその影響力強化に努める。このプログラムは広告の枠を超えた事業多角化の一環だ。スポーツ産業の成長やスポーツ観戦のスタイルの変化を考慮すれば、スタートアップとの関係づくりは同社に大きな恩恵をもたらすだろう。この取り組みを最大限に生かすには、日本だけでなく海外のスタートアップをどれだけ多く惹きつけられるかがポイントだ。

アクセンチュア・インタラクティブ、20%の成長

アクセンチュア・インタラクティブの概算によると、昨年9月から今年8月までの1年間におけるマーケティング関連サービスでの収益は78億米ドル以上(約8兆9千億円)だった。M&A(合併・買収)の件数は減ったが、来年に向けて「15億ドルの買収資金を用意している」とのコメントも発表。

ニュースの視点:
この概算は、アクセンチュア・インタラクティブの事業規模が世界第4位の広告代理店グループ、インターパブリックに匹敵することを意味する。実際のコンテンツ制作がまだ比較的少ないことを考えれば、この業績は目覚しいものだ。アクセンチュアはピッチでまだ代理店と直接的に対峙していないが、にもかかわらず他の手法で多くのマーケティング予算を獲得していることになる。

マーケティング業界でも、精神面の健康は重要

Campaign UKの取材で、メディアコム(MediaCom)UKのジョシュ・クリチェフスキーCEOは「社員の精神面の健康を保つ取り組みを始めた」と語った。慈善団体「マインド(Mind)」の行った調査で、英国では毎年4人に1人が精神疾患と診断されることを同氏は指摘。メディコムの始めた「メンタルヘルス同盟(Mental health Allies)」は、社員に精神面のケアや職場での他者のサポートの仕方を教え込む。この取り組みは「教育」というより、「相手の話を聞き、正しい方向性を示し、安心感を与えることに力点を置いている」。これまでに経営陣を含む160人がプログラムに参加し、「我々のビジネスのあり方や生活を変えた」という。

ニュースの視点:
精神面の健康の維持は我々が考えるよりもずっと逼迫した問題であり、責任ある経営者ならば決して見過ごすべき課題ではない。マーケティングは過酷な業務で、社員の健康状態に気を配ることは会社の利にもつながる。個人の業績に大きな影響を及ぼすうつ病など、様々な症状を理解し、なくしていこうとする取り組みが企業で増えることは明るい話題にちがいない。

熟練コピーライターの失言

オグルヴィ(ニューヨーク)のエグゼクティブ・クリエイティブ・ディレクター兼チーフコピーライターであるジョージ・タネンバウム氏が、広告のキャリアにおけるアドバイスを60点掲載した。この中には「ビジネス誌の『40歳以下の40人』特集に載りたい、『活躍する若手女性マーケター』と評価されたいといった雑念を払うこと。自分のやるべきことに専念すること(stick to your knitting)。そうすればおのずと称賛される」とのアドバイスも。同社はすぐ取り下げたが、それでも人々の目に留まったのである。
 


knittingは「編み物」だが、「stick to your knitting」には「自分のことに専念する」という意味がある。タネンバウム氏はおそらく、自己PRよりも本業に集中するべきだと言いたかったのだろう。だが、「若手女性」とあえて言及したことで、性差別発言だととらえられてしまった。

差別に対する意識がいまだかつて無いほど高まっており、言葉の選び方にも細心の注意を払う必要がある、という非常にシンプルな教訓だ。コピーライターはこのことをしっかりと理解しておく必要があるし、それが難しいならば、このような言葉は頭の中に留めておいた方がよい。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉、田崎亮子)

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