Ryoko Tasaki
2019年9月27日

世界マーケティング短信:ラグビーW杯で浮き彫りとなった課題

世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

スティーブン・ハリントン氏が#PledgeForPlanetイニシアチブのために描いた壁画
スティーブン・ハリントン氏が#PledgeForPlanetイニシアチブのために描いた壁画

ラグビーW杯、飲食物持ち込み禁止で会場は混乱

ラグビーワールドカップ2019日本大会が9月20日、いよいよ開幕した。Campaignではこれまで、日本企業スポンサーがW杯を盛り上げてきた様子を取り上げてきた。だがスタジアムでは、飲食物の持ち込みが禁止されている上に売り切れが続出し、苦情が続出したと報じられている。SNS上でも、ハイネケン(スポンサー)しか買えないという嘆きが、数多く投稿された。

規制はその後一部が緩和され、食品については個人で消費できる程度の量に限り持ち込み可となったが、飲料は依然として禁止のままだ。「会場内での投げ込み、危険物の持込等の場内保安の観点、及びステークホルダーの権利保護の観点」によるものだと公式サイトには記されている。だが、観戦者に大きな苦痛を強いる現状は、果たして本当にスポンサーのためになっているのだろうか。11月までの大会期間、そして来年に迫った東京五輪に向けて、早急な課題解決が求められるだろう。

インクルーシブであることはビジネスの必要条件

アジアで最も権威ある広告クリエイティブ賞「Spikes Asia(スパイクスアジア)」が、9月25~27日、シンガポールで開催中だ。この会場でIPGのマイケル・ロスCEOが、インクルーシブ(包括的)であることは「ビジネスにおいて必須」だと語った。「そうあることがインクルーシブであることが正しいから、という理由だけではありません。現在マネジャーの57%が女性ですが、業界内を見渡すと状況はあまりにも酷い」と問題提起。さらに「消費者は多種多様な個人なのです。消費者を理解せずに、質の高いコミュニケーションを実施することができるでしょうか?」と問いかけた。

広告の6割が、他文化圏でうまく伝わっていない

アイリーン・ジョシー氏(カンター)はスパイクスアジア会場で25日、「アジアで市場や国境を越えてうまく伝わっている広告は、4割に過ぎない」と語った。ブランドは、カルチャーコード(文化的特質)やアーキタイプ(人々が無意識の中に持つ固有の要素)、モチーフを用いてメッセージを伝える。だが文化そのものが凄まじく変化する中、ある市場用に作られた広告を、そのまま他市場でも水平展開するだけでは効果が薄れることを指摘。市場を越えて支持されるためには「文化的な正統性から生まれる人間の洞察」こそが必要だと説いた。

気候変動への危機感

米食品大手マースは、気候変動への取り組みを加速させる「#PledgeForPlanet」イニシアチブを開始した。同社では使用する電力の半分以上が既に再生可能エネルギーに切り替わっているなど、以前から積極的に取り組んできた。「気候変動は社会にとって、本物の具体的な脅威である。たとえば我々のビジネスで、大半の原材料を供給する小規模農家の生活手段がリスクにさらされていることがすでに分かっている」とグラント・リードCEO。ニューヨーク市内にはスティーブン・ハリントン氏(アーティスト)による、地球温暖化による気温上昇をセ氏1.5度以内に抑える行動に踏み切った様子を描いた壁画が公開されている。同氏の、日常生活の中でできる10のアクションを描いた絵をダウンロードし、SNSでシェアすることも可能だ。

今週は国連「気候行動サミット」が開催され、スウェーデンの高校生グレタ・トゥンベリ氏による演説が大きな話題となった。また世界各地で若者を中心としたデモ活動が起こり、気候変動の強化を強く訴えた。

安全なコンテンツも大量にブロックされている現状

肯定的なメッセージを伝えているLGBT関連コンテンツの73%が、ブランドセーフティーの観点から、誤って「安全ではない」とフラグ付けされ、ブロックされてしまっていることが、CHEQの調査で明らかになった。他にも歴史やスポーツ関連のコンテンツでも、例えば「暗殺」や「シュート」といったキーワードがブラックリスト化されていたために、ブロックされているという。パブリッシャーの93%が、過剰なブロッキングによって損失が発生していると回答した。不快なコンテンツを回避するために有効なキーワードブロックだが「脅威に対する緩和策としてはあまりにも鈍いツールであり、副次的な損失が大きすぎることが問題」だと、CHEQのガイ・ティトゥノヴィチCEOは語る。

(文:田崎亮子)
 

提供:
Campaign Japan

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