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2018年3月16日

世界マーケティング短信: 世界の改革、ヘッジファンド、インハウスエージェンシー

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをまとめてお届けする。

大きなグローバルな課題に取り組むための小さな1歩 −− 大手広告代理店とグーグルが連携した「Little x Little」。
大きなグローバルな課題に取り組むための小さな1歩 −− 大手広告代理店とグーグルが連携した「Little x Little」。

大手広告代理店が、ジェネレーションXに「世界の変革」を呼びかけ

電通とハバス、IPG、オムニコム、ピュブリシス、そしてWPPが、「Little x Little」という現在行われているグローバルキャンペーンのために連携した。これは国連の提唱するSDGs(持続可能な開発目標)を支援するため、ソーシャルメディアを活用して20億の「善意ある行動」を促すため。このキャンペーンは貧困や差別、気候変動といった人類が直面する最重要課題への取り組みが期待される。ムーブメントは今日スタート、多くのインフルエンサーがユーチューブ上の一連の動画で行動を呼びかける。あまりにも単純な取り組みに聞こえるが、ソーシャルチャンネルが大きな変革を起こせる力を持っていることは明らか。昨今のソーシャルチャンネルを取り巻くネガティブな要素を考えれば、その影響力を善行のために活用する試みは明るい話題だ。



ヘッジファンドは大手広告代理店を悲観視

英フィナンシャル・タイムズの報道によると、英米のヘッジファンドはピュブリシスグループやWPP、オムニコム、IPGといった世界的広告代理店の業績悪化を予測、何十億ドルという賭けに出た。マーベリック・キャピタルやローン・パインなどのファンドはこれら代理店株の空売りを開始。グーグルやフェイスブックとの競争、P&Gやユニリーバといった多国籍企業の広告費削減で、代理店は引き続き損害を受けるとの見立てからだ。この水曜日には、WPPのCEOであるマーティン・ソレル卿が業績不振から今年中に賃金カットを行うと判明。同社の市場価値はこの1年で3分の1下落している。

報道では、従来型の広告代理店が現在不安定な立場にあり、日本の大手代理店にとっても対岸の火事ではないと強調。ベインキャピタルの下で新しいビジネスモデルを成長させる機会をつかんだADKは、広告費の縮小が続く中、現実的かつ賢明な選択をしたと言えるかもしれない。

ユニリーバ、コンテンツ制作で大幅な支出削減

ユニリーバは、自社のインハウスエージェンシー「Uスタジオ」でコンテンツ制作を行うことで、従来の外部エージェンシーを使う手法よりも迅速に仕事が進み、かつ30%の広告費削減が実現したと発表した。2016年9月に立ち上げられたUスタジオは、現在12の市場で活動中。昨年4月、ユニリーバは広告支出を30%削減すると宣言していた。経費節減はもちろん良いことだが、こうした方針をとるブランドが直面する課題はクオリティーの水準を一貫して保つことだ。いずれにせよ、同社はしばらくの間この路線を歩むと見られる。

ADK、正式に非上場会社に

ADKは16日をもって東京証券取引所において上場廃止となり、ベインキャピタルのマネージングディレクター、デイビッド・グロスロー氏が取締役に就任すると発表した。先ごろCampaignのインタビューで同社の将来を語った中井規之氏は、社長補佐兼オペレーティングオフィサー、及びグループのチーフストラテジーオフィサーに就任。新戦略は4月1日に発表される予定だ。ベインはADK再活性化のために大胆な刷新を行う見込み。あらゆる部署の社員がビジョンを持ってこの改革に参画できるかが課題だが、彼らにとっては気ぜわしい時季だろう。

グーグル、仮想通貨広告を禁止

ブルームバーグによれば、グーグルは仮想通貨とICO(イニシャル・コイン・オファリング、新規仮想通貨公開)に関するオンライン広告を6月から禁止する。リスクが高いとみなされた金融商品市場に制約を加える取り組みの一環と見られる。グーグルは2017年、規約に反したとして(仮想通貨に限らず)32億本の広告を削除したと発表。これは17億本だった2016年の2倍近い。にもかかわらず、同社の昨年の広告収入は950億米ドルと他を圧倒した。日本ではビットコインのマーケティングが盛んに行われているが(タレントのローラを使ったDMMの広告など)、仮想通貨業界への捜査や行政処分はこうした活動に疑問を投げかける。ひと握りの内部関係者しか本当に理解していないことに、一般の人々の投資を駆り立てるような行為は果たして倫理上正しいのだろうか?

WWW、誕生から29年

この週末はWWW(ワールドワイドウェブ)誕生から29周年になるが、その考案者であるティム・バーナーズ=リー氏が、「コンテンツをサポートする手段として広告に取って代わるものを編み出そう」と呼びかけた。グーグルとフェイスブック、アマゾンが世界の広告収入の半分以上を分け合い、市場を寡占している状態を「特に懸念している」という同氏。「ウェブがデザインされたプロセスを、もう一度考え直すときにきています」。つまり、現在の状況は行き着くところまで行ったということなのだろう。これは広告に対するアンチテーゼではないものの、独立性と競争性を訴えるものだ。特に広告主には新しいビジネスモデルを模索する明らかなインセンティブがある。容易なことではないだろうが、バーナーズ=リー氏は「今からでも遅くない」と強く主張する。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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