Minnie Wang
2021年10月22日

中国若年層への動画、ゲームの利用制限にどう対応すべきか

子どもの動画やゲームの利用時間を制限する中国当局の新たな規制に、バイトダンス、クアイショウ、テンセント、ネットイースいった大手企業が応じるなか、マーケターはこれにどう対応すべきだろうか。中国を拠点とするエキスパートに話を聞いた。

中国若年層への動画、ゲームの利用制限にどう対応すべきか

大手テクノロジー企業が独占禁止法違反で罰金を科せられたり、子どもがショート動画やゲームの利用時間を制限されたりするなど、中国のエンターテインメント業界とテクノロジー業界は、マーケティング戦略や予算に深刻な影響を及ぼしかねない中国当局の大規模な規制改革に直面している。

TikTokの中国版であるバイトダンスのドウイン(Douyin)は、未成年者の利用時間を1日40分に制限する措置を、すでに開始している。こうした措置を講じるのはバイトダンスだけではない。同社の主要なライバルであるクアイショウも、強制ではないものの、利用時間を40分に制限する「未成年モード」を導入している。

こうした各社の動きは、政府からの圧力に呼応したものだ。中国政府は、オンラインゲーム、ライブストリーム、オーディオビジュアルコンテンツ、ソーシャルメディアなどの各プロバイダーに対し、未成年ユーザーを対象とした時間管理ツールや機能制限、購入制限などを導入するよう求めている。

ドウインのショート動画を楽しんでいた未成年ユーザーは、ドウインの制限を回避する方法を模索しているようだが、ゲームプロバイダーに関しては、未成年者によるオンラインゲームプレイ時間を、金、土、日、祝日の1時間に制限するという政府の厳しい措置をすでに導入済みとなっている。中国メディアの報道によると、このような制限は、eスポーツチームでの熟練プレイヤー不足など、さまざまな懸念を生み出しているという。

ショート動画、ライブストリーム、ビデオゲーム、そしてeスポーツは、中国のマーケティングや広告、eコマースなどと密接に関連している。しかも中国の若者は、それらのマーケットで最も重要な消費者世代といえる。メディアコム(MediaCom)のホワイトペーパーによれば、マーケティングの場においては「プレイ・エコノミー(遊びの経済)」がますます重要になってくるという。

このホワイトペーパーの編集者で、「Women to Watch Greater China 2021」にも名を連ねているメハ・ベルゲーゼ氏は、Campaign Asia-Pacificの取材に対して、次のように述べている。「中国では、あらゆる世代の消費者が、学習や人とのつながり、社会に認められることや心の健康など、さまざまなニーズを満たすために遊びを求めている。そして、ショート動画やAGCN(アニメ、ゲーム、マンガ、小説)、それにゲームのプラットフォームが中国で大きく成長していることは、エンターテインメントの力とそれがマーケターにもたらす機会を証明しているといえるだろう」

子どもを対象とした新たな規制は、今中国で起こっているテクノロジー企業に対する規制強化の一環だ。企業は、テクノロジーの利用方法を制限されるだけでなく、独占禁止法関連の調査に応じることも余儀なくされている。10月8日、中国の市場監督当局は、eコマースプラットフォームのメイトゥアン(Meituan)に対する数カ月に及ぶ独禁法関連の調査を終え、2020年の国内売上高のおよそ3%にあたる34億4000万元(約616億円)の罰金を科した。今年の初めには、アリババも規制当局から28億ドル(約3200億円)という記録的な罰金を科せられている。これは、同社が2019年に計上した国内売上高の4%に相当する金額だ。

独占禁止法関連の調査は、大手テクノロジー企業への投資家の関心を冷え込ませる可能性もあったが、両社は株価への影響をすばやく回避した。メイトゥアンの場合、罰金額が予想よりも低かったため、月曜日(10月11日)の株価はむしろ8%以上も上昇した。テンセントやアリババなど、香港に上場している他の中国ハイテク株も、この日の終値は上昇している。また、アリババが4月に罰金を科せられたときも、同社の株価はそのわずか数日後に、香港取引所での取引開始直後に10%もの上昇を示した

このような状況を踏まえ、マーケターは、新たな規制やガイドラインにこれからどう対応していけばよいのだろうか。中国で活動するマーケティング業界のエキスパートたちは、制約が多いなかでもメディアへの投資を調整し、ブランド顧客を長期的に育成することを検討し始めている。そこでCampaign Asia-Pacificは、中国の業界関係者に彼らの考察やアイデアについて話を聞いた。

エイミー・ハン氏

イニシアチブ(Initiative)中国支社 マネージングパートナー

中国政府は以前から、ソーシャルコンテンツが広告法規を順守しているかどうかを、非常に厳しく、かつ入念にチェックしてきた。そのため、新しいポリシーが発表される前から、マーケターはいかなるデジタルプラットフォームでも、14歳未満の子どもはターゲットにできなかった。ソーシャルプラットフォーム上では、現状、子どもたちは、どのような形式であれ広告を見ることはない。

今回導入された新しいポリシーで最も懸念されるのは、未成年者の利用時間の制限だろう。私はこれがマーケターに変化をもたらすと考えている。今後は、オーディエンスとコミュニケーションをとるべきタイミングをより正確に見極めることが必要だ。そのためには、マーケターは、ソーシャルコミュニティだけでなく他のメディアチャネルにももっと力を入れるべきだろう。

私は、適切なタイミングで子どもたちの関心を引き寄せるために、ソーシャルプラットフォームへの投資を見直すと同時に、他のプラットフォームに予算を再配分する必要があると考えている。また、子どもたちの親とのコミュニケーションが、注力すべき取り組みになる可能性もあるだろう。

ゲーム、ショート動画、eコマース、あるいはインフルエンサーに対する消費者のニーズは変わらない。パンデミックが完全に終息したわけではないことを考えれば、こうしたニーズは今後も増え続けるだろう。私が考える重要な課題とは、どこでどのようにマーケティングをするかということだ。リーチすべき適切なタイミングを見極めるには、やはりオーディエンスに対する理解が欠かせない。

長期的には、やはりブランドを育てることが重要になると思う。子どもたちと共に成長していくブランドは、子どもたちとの感情的な絆を築き、最初の選択肢となるだろう。

ラフィ・カマリアン氏

コラボ・アジア(Collab Asia)中華圏担当責任者

ゲームに対するこうした制限は、当然ながら、18歳未満をターゲットにした予算に影響を及ぼすだろう。マーケターが仕事を失いたくないなら、成人のオーディエンスにもっと焦点を当てるべきかもしれない。

とはいえ、若いオーディエンスを対象としたマーケティングの機会は、ドウイン以外にもまだ数多く存在する。たとえば、キーオピニオンリーダー(KOL、中国版インフルエンサー)による、ショート動画以外のコンテンツや、あらゆる世代の人々が目にする屋外広告といった伝統的な手段だ。

幸いなことに、ゲーム関連クライアントのスポンサーシップを受けて動画を配信している、当社のKOLは、その多くがゲームクリエイターではない。たとえば、ゲーム会社にスポンサーとなってもらい、人気のダンスチャンネルでゲームのテーマ曲に合わせたダンス動画を配信したりしている。このようなKOLは、さまざまなカテゴリのクライアント(スナックメーカーや靴メーカーなど)と仕事をしているため、ゲームに関する規制が突然変更されても、深刻な影響を受けることはない。

これからのゲームのマーケティング(およびゲーム開発)では、より高い年齢層のオーディエンスや彼らの嗜好に焦点を移す必要があるだろう。最も恩恵を受けるのはカジュアルゲームかもしれない。

定量化は難しいが、業界に何らか長期的な影響が及ぶことは間違いない。そして、より大きな影響を受けるのはゲームの続編だと私は考えている。今回の動きによって、子どもたちが将来ゲームのタイトルやキャラクターにノスタルジーを感じる機会の多くが失われることになる。子どもの頃に「ゼルダ」や「マリオ」をプレイできなかった人が、大人になってこれらのゲームシリーズをプレイし続ける可能性はかなり低い。

ミーハー・バーゲーゼ氏

メディアコム中国支社 グロース・イノベーション責任者

私の予想では、当面のあいだマーケターは、あらゆるリスクを回避したいと考え、ペイドメディアキャンペーンやプラットフォーム内のアクティビティから18歳未満の人々を除外するよう、プラットフォームに強く要求するようになるだろう。しかし、新しい規制の内容が明確になれば、マーケターはドウインや他のデジタルプラットフォームで「若者モード」向けに特化したコンテンツや顧客体験を開発できるようになるかもしれない。そうなれば、将来の有望なオーディエンスである若い消費者にとって関連性が高く有益な存在になるため、彼らとのコミュニケーションを築く絶好の機会がマーケターにもたらされるかもしれない。

最近の規制が、オンライン上の「遊び場」でのマーケティング活動に大きな影響を及ぼすことはなさそうだ。なぜなら、このようなプラットフォームは、マーケターがつながりを求めている90年代や95年代以降に生まれた成人が、ユーザーベースの大半を占めているからだ。たとえば、ドウインは21~40歳の人がユーザーの60%以上を占めている。オンラインでの娯楽や遊び心のあるコミュニケーションを通じて、ブランドが、多くのオーディエンスを惹きつけるチャンスはまだある。

子どもたちはすでに、多くの家庭用品の購入で大きな影響力を持っており、幼い頃からブランドに関して高度な知識を吸収している。最近の調査によれば、驚くことに3歳児でも、平均で12種類のスナックのブランドと4種類のアパレルブランドを思い起こすことができるという。

最近の政府のポリシー変更が短期的なメディアの選択に影響する可能性はあっても、マーケターの長期的な目標が変わることはない。その目標とは、現在および将来の売上を伸ばすために、幼い頃から消費者の中に、強力で持続的なブランドプレファランスを築くことだ。

オンラインメディアは、ブランドが展開するマーケティングミックスの中で、今後も重要なチャネルであり続けるだろう。デジタルネイティブな消費者へのリーチにおいては特にそうだ。ただし、新たな制限によって、「ルネッサンス」、つまり屋外媒体やテレビといった伝統的なメディアへの回帰や再発見が、さらに促進されるかもしれない。そしてそれは、屋外でさまざまな活動をしたり、家族との時間を過ごしたりしている若い消費者に、いつまでも心に残る強い印象を与えるかもしれない。私には、マーケティング業界にとって、とてもエキサイティングな時代が待ち構えているように思える。制約に直面したときにこそ真の創造性が発揮されるのだから。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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