Gideon Spanier
2017年9月28日

企業買収に積極的なアクセンチュア・インタラクティブのディレクターに聞く

アナトリー・ロイトマン氏は、初となる「体験提供型エージェンシー」を作りたいと考えており、アクセンチュアにはそれが可能だと信じている。

アナトリー・ロイトマン氏
アナトリー・ロイトマン氏

アクセンチュア・インタラクティブのアナトリー・ロイトマン氏は、コンサルティングと広告の両業界は現在競り合っており、大きな変化に直面していると見ている。

デザインコンサルティング会社「フィヨルド」と、クリエイティブエージェンシー「カーマラマ」を買収した同氏は、「これからの1年間は非常に大切。重大な局面と言った方が正しいでしょう」と話し、さらなる企業買収や、両業界での再編を示唆した。

また、従業員41万1000人を擁する巨大コンサルティング会社のアクセンチュアと、そのマーケティング部門であるアクセンチュア・インタラクティブは、有利な立場にあるという。

ヨーロッパ、アフリカ、中東、中南米地域担当のマネージングディレクターを務め、ロンドンを拠点とするロイトマン氏の口調からは、アクセンチュアには勢いがあるという確信が伺える。

2009年9月の設立以来、アクセンチュア・インタラクティブはマーケティングサービス分野で20のエージェンシーを傘下に収めてきた。そのうち7件が、1月以降に買収されたもので、同社の意気込みのほどを示している。

ウラル山脈地帯で生まれたロイトマン氏は、旧ソ連のベラルーシで育ち、コンピュータサイエンスを学んだ。その後米国に渡り、オラクル、デジタス、サピエントに勤務。広告界に変革をもたらしてきた人物だ。

そんな同氏は、「広告界は今、変革の時を迎えていると思います」と語り、日用消費財ブランドが支出を削減している点を、例として挙げる。広告自体の有効性についても疑問を投げかけるが、「でも、そこで我々が力になれるのです」。

体験提供型のAOR

アクセンチュア・インタラクティブはエージェンシーの未来の形を築いている、とロイトマン氏は信じて疑わない。同社はこれまでに、世界最大のデジタルエージェンシーになるという目標を掲げてきたが、それよりさらに大きなビジョンがあるのだと言う。それは、世界中のクライアントにとって初の「体験提供型AOR」になることだ。(AOR:メディアバイイングの効率化のために、メディアごとに特定のエージェンシーに一本化する「指定広告代理店」の制度)

「クライアントのパートナーとなり、ブランド体験を管理する役目を担いたいと考えています」。ロンドン・オックスフォードサーカスのフィヨルドに隣接したタウンハウスの中にある、シンプルな内装のこぢんまりとしたオフィスで、ロイトマン氏はロシア訛りの英語でこう語る。

デジタル化が進み、あらゆるものがネットにつながった世界で、チーフ・マーケティング・オフィサー(CMO)が考えるべきことは、広告やコミュニケーションの域にとどまらず、「ブランド体験」が重要となる。今やブランドが必要とするのは、包括的な顧客体験に加え、企画立案から製品の開発や設計、ブランドの認知度の構築、製品の販売から流通まで、すべてのタッチポイントを管理するエージェンシーだ。

このような新しいタイプのエージェンシーになる可能性を、アクセンチュア・インタラクティブは秘めているというのだ。デザイン、顧客体験、データ、アナリティクス、CRM、eコマース、コンテンツ、広告、プログラマティックなど幅広い分野で、事業を既に確立させていることがその根拠だ。「私たちがすべての領域で対応できるようになる日は、遠くないでしょう」と展望を述べる。

同社は既にこれらの機能を、チーフ・フィナンシャル・オフィサーやチーフ・テクノロジー・オフィサーに売り込んでいる。CMOに対しても魅力としてアピールできるだろう。

同社は、米フォーチュン誌の世界企業ランキング上位100社のうち、72社と取引がある。「仕事を一緒にしたいクライアントとは、ほぼすべて取引に至っています。そのため既存のクライアントの中から、新たなクライアントの開拓を考えているのです」

体験提供型AORの必要性をブランドに納得させるにはまだ時間がかかりそうだが、ロイトマン氏の今のミッションは、CMOの啓発だ。この3カ月で、既に約100人のCMOに会ったという。

アクセンチュアに買収されるよりも前からカーマラマのクライアントだった、テイクアウト注文サービス「ジャスト・イート」のグローバルCMO、バーナビー・ダウ氏は次のように語る。「eコマースに携わる会社にとって、アクセンチュア・インタラクティブが提供しているものは親和性が高い。共にデータを研究し、どうすれば当社のクリエイティブをさらに伝えていけるかを検討しました。アクセンチュア・インタラクティブの事業規模は、私たちのようなグローバルに事業を展開するデータ主導型の企業にとって、魅力的なのです」

買収戦略

「買収の一つ一つが大きな節目となってきた」とロイトマン氏は振り返る。 2013年のフィヨルド買収は、デザイン界への本格的な参入となった。フィヨルドの従業員数は世界中で200人から約1000人に増加している。カーマラマ買収は広告界参入の分水嶺となり、豪州のクリエイティブエージェンシー「ザ・モンキーズ」の買収へとつながった。「カーマラマが無ければ、モンキーズ買収も無かったでしょう」。買収に要する時間も、はるかに短くなった。

ターゲットとする相手とのミーティングは、アクセンチュアのロンドン本社ではなく、自分のプライベートなオフィスでするのが好みだ。白塗りの壁には手書きのメモや、マンガの悪役に扮したロイトマン氏の似顔絵などの落書きもあり、まるで学生の部屋のような雰囲気だ。「全然アクセンチュアらしくない」ところがアクセンチュア・インタラクティブの自慢なのだ、とある観測筋は言う。

採算性は事業の成熟度を測る上で良い指標だが、企業買収の際には、利益よりも収益を考える方が大事だ、とロイトマン氏。重要なのは新事業を導入し、それをグループ内の他の事業とうまくなじませることだという。「これこそが、私たちが価値を認めるところ。単に企業を買って利益を搾り取る、ということではないのです」

アクセンチュアは持ち株会社になることを目指しているのではないかと、コンサルティング業界のあるライバル企業は見ているが 、「それはない」とロイトマン氏は強調。「我々は単一のP&L(損益計算書)で動く、一つの企業ですから」

さらに同社は、いくつかのエージェンシーブランドを「時間をかけて段階的に整理する」予定だ。カーマラマはまだイギリス国外に進出していないため、その名前を今のところは残すつもりだが、2015年に買収した米テキサス州のアプリ開発会社「ケイオティック・ムーン」は、「フィヨルド・オースティン」として生まれ変わっている。 ロイトマン氏と、彼の上司であるブライアン・ウィップル氏は、それこそ間隙を埋めるかのように、さらなる企業買収を検討しており、その候補を積極的に探しているところだ。

「持ち株会社は私たちのように、コンサルティングとクリエイティビティーを足し合わせたような存在になろうとしていますが、それを成し遂げるのはかなり大変でしょうね」とロイトマン氏。「協力関係になく、まとまりのないエージェンシーを数多く抱えていては、我々のような運営をすることは非常に難しい。組織を一度解体し、損益が一つの企業になる必要があると思いますね」

財務的成功の中身

アクセンチュア・インタラクティブの今年の売上高は、ハバスをしのいで約60億米ドルになる見込み。だが収益の一部はIT導入やアウトソーシングなどに由来するもので、マーケティングサービスの分野ではなく、広告界が危惧するほどの競争にはなっていないと、シティグループのアナリストは見ている。これは伝統的な広告会社が、アクセンチュアと競合しているのは主にCRMやデジタルの領域であり、クリエイティブではないと主張していることとも一致する。

「私の推測では、直接の競争となる収益基盤はおそらく10億米ドル程度でしょう」と話すのは、ピヴォタル・リサーチのアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏だ。 エージェンシーサービスの世界的な市場規模は1200億米ドルであり、同社は「まだ本当に驚異的な存在ではない」と言う。ただし「アクセンチュアによる、ある持ち株会社の買収に向けた動きが見受けられる」とも言う。

アクセンチュアの評価額は、WPPグループの3倍にあたる840億米ドル。だがロイトマン氏は、コンサルティング会社による持ち株会社の買収には懐疑的だ。「150社を買うに等しい行為だから」というのがその理由だ。アクセンチュア・インタラクティブは買収の際に、シナジー、成熟度、柔軟性を見て検討する。「持ち株会社の買収となれば、それを150倍も行わなければなりません」

アクセンチュア・インタラクティブは、メディアバイイング事業への進出には興味を示していない。「当社はコミッションビジネスには関心がありません。戦略的パートナーになることを望んでいるのです。これは、持ち株会社にとってはなかなかの難業となる点ですね」。体験提供型AORになることとは、メディアプランニングやバイイングの業務を理解することであり、それらをすべて執行することではないと話す。

アクセンチュア・インタラクティブは5年後、どのようになっているのだろうか。「最大の体験提供型AORとなり、テクノロジーやシステムインテグレーションといったアクセンチュアの従来の事業と同じくらい、重要な事業となっているでしょう」とロイトマン氏。「簡単なことではありません。でも、難しくなければ面白くありませんからね」

(文:ギデオン・スパニエ  編集:田崎亮子)

提供:
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