Olivia Parker
2018年2月16日

「子どもインフルエンサー」、アジアで台頭

ティーンエイジャーにも満たないコンテンツクリエイターたちが今、アジアで旋風を巻き起こしている。ブランドが彼らと協働する上で知っておくべきこととは。

ユーチューブチャンネル「Grace’s World」の11歳のスター、グレース・マルグルー
ユーチューブチャンネル「Grace’s World」の11歳のスター、グレース・マルグルー

グレース・マルグルーは、地元メルボルンの街に買い物に出かけるたびに、若いファン数人から声をかけられる。写真撮影を遠慮がちに求められることも多い。この11歳のユーチューバーの父親、グレッグ・マルグルー氏によると、グレースは喜んでこれを受けているのだという。まだ小学生のようでもあるファンたちが作品を楽しんでいることが、肌で感じられて好きなのだとか。バービー人形を使って楽しい体験をつづった動画作品は、放課後の時間を利用して週25時間ほどを費やして制作。グレッグがさらに15~25時間かけて編集し、完成させているのだ。

自分が人形と遊んでいるビデオをユーチューブにアップロードしてほしいと、グレースが父親に初めて頼んだのが2012年。以来、チャンネル「Grace’s World」は視聴回数9億6300万回を記録した。現在は世界中で百万人以上がチャンネル登録し、さまざまな国のニュース番組に取り上げられた。その人気のおかげでグレッグは昨年プログラマーの職を辞し、グレースの動画制作に専念するようになった。家族旅行でメキシコに滞在中のグレッグはCampaignのインタビューに、「このライフスタイルは、ユーチューブがあったからこそ」と語る。

グレースのようなケースはアジアで増えつつあり、このような子どもを表現する「キッドフルエンサー」という言葉まで生まれている。子どもたちの楽しみの世界が、大人が出演・制作したテレビ番組から、子どもが登場し制作まで手掛けたデジタルコンテンツへと移り変わりつつあるのだ。その代表格といえるプラットフォームは、ユーチューブ。「今ユーチューブで最も伸びている市場の一つは、ファミリー・教育の分野です」と、同社でアジア太平洋地域のキッズ・アンド・ラーニング・パートナーシップを率いるドン・アンダーソン氏は説明。この分野では各セグメントが成長しているという。アジアで広告とコンテンツのプラットフォームを展開するTotally Awesomeの最近のレポートによれば、アジア太平洋地域の6~14歳の68%がユーチューブを、55%がフェイススブックを、そして26%がインスタグラムを利用しているという。

アンダーソン氏が自身の7歳と4歳の子どもから学んだのは、子どもたちは自分たち自身を見たがっているということ。この素朴な理由が、キッドフルエンサーのチャンネルの成功の裏にある。「子どもたちは自分自身から学び、さらに、同世代の仲間が興味あるコンテンツを作っている事実に刺激を受けているのです」

「親と共に物語を作るということは、面白く、本格的で、現実を表現している創造的な遊びです。そして、子どもたちがユーチューブというデバイスやカメラに引き寄せられていく姿を見ることは、大変面白いものです。彼らはこのようなコンテンツを自分たちで作れるようになりたいと思っているのです」

ブランドもこの動きに追従し始めている。プライスウォーターハウスクーパース「キッズ・デジタル・アドバタイジング・レポート2017」によれば、子ども向けデジタル広告の市場は2019年までに12億米ドル(約1,320億円)規模になると予想されている。ユーチューブのみならず、Roblox(レゴブロックをモチーフにしたゲーム)やMinecraft(ブロックを配置して建造物などを作るゲーム)などのオンラインゲーム、あるいはPopJam(Totally Awesomeの子ども向けアプリ)やMusical.ly(ミュージックビデオ制作アプリ)などのソーシャルプラットフォームで、子どもたちと直接つながることが重要となる。子どもたちは「自分自身」を見るだけでなく、まねることも好むため、多数のオーディエンスを抱えたキッドフルエンサーは特に魅力的な存在となる。

「子どもたちは家族の買い物に対しても大きな影響力を発揮しています。おもちゃはもちろんのこと、例えば家族で外食をするときには子どもたちが食べたいものを提供してくれる店を選ぶことになりますから」と話すのはTotally AwesomeのCOO、マーカス・ハーマン氏。同社がまとめたアジア太平洋地域のレポート「Kids’ Digital Insights」によると、ユーチューブ、インスタグラム、あるいはフェイスブックで子役スターが宣伝するのを子どもが見て、欲しがったものを買い与えている親は64%にのぼる。

またこのレポートによれば、インドでは月当たり平均33ドル、シンガポールでは91ドルなど、今の子どもたちはある程度の「可処分所得」があるという。そして年齢が上がるほど、ネット上で見たものを自分のお金で買う傾向が強いという。6~8歳の44%、12~14歳の59%がそのような行動をとっており、全体としては前年比7%のペースで伸びている。

キッドフルエンサーを活用してブランドを宣伝してもらうには、彼らにおもちゃを贈って良い結果を期待するといった、簡単なもののこともある。しかし、大人のインフルエンサーを起用する場合と同様、密接なパートナーシップを構築する方がより良い結果につながるだろう。こういった場合にユーチューブは、家族がチャンスを見出すことを助け、クリエイターとブランドとをつなぐといった、コンサルタント的な役割を果たすことになる。「最も成功するだろうと私が思うパートナーシップは、一方的に押し付けるのではなく、さまざまなクリエイターと信頼をベースにして向き合ったもの」とアンダーソン氏。「そんなパートナーシップが、ブランドや商品などへの理解を可能にするのだと思います」

12歳のアジア系アメリカ人、エバンが始めたEvanTubeを例にとってみよう。商品レビューや工作、チャレンジしたことなどを披露するチャンネルで、父親のジャレッドと共に2011年に開設以来、視聴回数32億回を記録している。2016年には香港政府観光局と提携し、「I Never Knew(私の知らない香港)」キャンペーンのために香港ディズニーランドや、ハローキティをテーマにしたレストランなど、香港の魅力を体験する動画を作った。この動画は現在までに640万回視聴されている。「この動画は事実を伝える信頼性の高いものですが、同時にこれが広告であることも明確に伝えています。視聴するファンとしっかり向き合っているという側面もあるのです」とアンダーソン氏は語る。

グレース・マルグルーも、この点に関してプロといえる。グレースは昨年、Shopkins(おもちゃブランド)のオーストラレーシアン地域(オーストラリア、ニュージーランド、ニューギニアを含む南太平洋地域)におけるアンバサダーに任命された他、ワーナー・ブラザースやアメリカンガール(人形の人気ブランド)など、さまざまな企業からオファーを受けた。父親のグレッグは当初、娘の顔をユーチューブに出すことに慎重であったが、ブランドとの協働は総じて良い経験だったと話す。「前向きで評判の良い企業を選ぶことに注力しました。どの企業でも良かったわけではありません」。費やした時間に見合う価値が無かったと思えるパートナーは僅かだったようだ。「グレースにとっての目的はお金を得ることではなく、彼女の名前と評判を確立することなのです。グレースが望む限り、私たちはこの仕事を喜んで進めます。相手が良い企業であれば難しいことではないのです」

オーストラリアに次いでタイでも、クリエイターとブランドの良好な関係を見ることができる。「タイのファミリークリエイターたちはいろいろな意味で起業心に富んでいます。とても熱心で、前向きに楽しくやろうという雰囲気のマーケットが存在しています」とアンダーソン氏。特に人気があるのは、200万人近くのチャンネル登録者がいるHeHaa TV。この動画に登場する子役スターたちは、スター・ウォーズ(ディズニー社)やアントマン(マーベル・コミック社)の映画を大々的に宣伝するため、登場人物に扮してパロディー映像に登場している。

一方で中国のキッドフルエンサーたちは、別のプラットフォームで視聴者数を拡大している。中国のインフルエンサーマーケティングプラットフォーム「Parklu」のCMO、エライジャ・ウェイリー氏はEメールでのインタビューに応じ、「テレビに出演する数多くの子役たちが、テレビでの露出を利用して、ネットでフォロワーを増やしています」と説明する。「この国でキッドフルエンサーに最も人気のプラットフォームはWeibo(微博)、Meipai(美拍)そしてDouyin(抖音)です。使いやすさ、音楽とショートビデオのミックスの面白さで、子どもたちの間で特に人気があるのはDouyinで、キッドフルエンサーが作ったダンスや面白い動画をたくさん見ることができます」

ブランドも、彼らとの協力を開始している。その一例が、「小さいリンゴ」というニックネームを持つ11歳の少女Anquier (安淇尔)だ。彼女は人気のテレビ番組に出演し、Weiboでは130万人、Meipaiでは12万8千人のフォロワーがいる。そしてフィラのようなスポーツファッションブランドと、たびたびパートナーを組んでいる。
 

中国のキッドフルエンサーAnquier(安淇尔)がフィラ キッズと制作したコンテンツ


このマーケットは利益が期待できるようで、Totally Awesomeなどのプラットフォームは、アジアの子どものクリエイター(7歳以上に限定)とブランドがパートナーシップによって最大の効果を上げられるよう、仕組みを構築している。安全規制の推進は、特にルールに厳しいオーストラリアなどでは必須である。「キッドフルエンサーと仕事を始める前に、彼らのチャンネルが子どもたちに安全であるか、不適切なコンテンツを含まないかを確認します。その上でトレーニングを行い、効果的な技法やこの世界で何が許されているかを教えています」とハーマン氏は話す。

その後、Totally Awesomeのチームはブランドとインフルエンサーの双方と、コンセプトとアイデアについて(通常は3段階に分けて)取り組む、とハーマン氏。最も分かりやすいものは、商品レビューや「開封の儀」だろう。

次の段階は、エンゲージメントの創出だ。同社のSNSアプリ「PopJam」を例に見てみよう。「キッドフルエンサーたちはPopJamの動画で遊ぶだけではなく、たびたびチャレンジ動画を投稿します。例えば『みんな、PopJamに参加して、おかしな形の果物の絵を描こう』と呼び掛けると、フォロワーは登録を開始してダウンロードし、そのチャンネルをフォローして何かを作り始めます。そのようにしてユーザーの手によるコンテンツが出来上がり、たくさんのインタラクションとエンゲージメントが生まれるのです」。3つ目の段階は、キッドフルエンサーがフォロワーたちをイベントに招き、彼らと直接交流するというものだ。

アジアではマーケティングミックスの一環として、このようなブランドとクリエイターのパートナーシップは少なくともあと2、3年は増加するだろうとハーマン氏は予想している。しかしキッドフルエンサーの台頭に、不の側面は無いのだろうか。これらのチャンネルは基本的に面白いことを題材にしているが、インフルエンサーへの評価がクリエイターたちの原動力となっているとハーマン氏は言う。子どもたちは大人になったら何になりたいかと聞かれると、かつては「警察官」とか「消防士」と答えていた。現在は「ユーチューバー」が上位に上がってきているようだ。

ブランドの商業的な側面と付き合うことを、好まない親たちも存在する。日本で人気の姉妹「かんなとあきら」(以下に画像)の父親は、動画への一方的なスポンサー契約は受けないことを決めた。金銭授受の無い形で、時としてブランドとの協力を考慮するという。最近はアニメシリーズ「プリプリちぃちゃん!!」と提携し、姉妹はステージでダンスを披露。ファンと直接触れ合い、双方にとって良い機会だったという。

日本で最も人気の子どもユーチューブチャンネル「Kan & Aki’s Channel」に登場する、かんな、あきら、あさひ三姉妹と、弟のぎんた


子どもたちを動画に出演させると、ネットの持つ不快な側面とも触れざるを得ない。グレッグは、娘の動画に寄せられた否定的なコメントをできるだけ削除しているが、それでもグレースの目に触れることもあるという。「なぜこんなことをやっているのかという気持ちにさせられます。少し神経を鈍感にしてそんなコメントは無視し、嫉妬や妬みがそうさせているのだと考えることも必要でした」。現在ではユーチューブは、不適切な言葉が投稿される前に削除できるフィルターを、所有者が事前にセットできる技術を開発している。

しかし全般的には、ブランドとのパートナーシップに関して心配せねばならないような事案は特には発生していないとアンダーソン氏は話す。「親にとって子どもは第一です。この件について私が話をした親たちは、引き受ける仕事を入念に選んでいます。その仕事が視聴者と子どもの双方のためにならないようであれば、当然引き受けません」

キッドフルエンサーとのコラボレーションを最大限に活かす方法

1. 注意深く選択すること
まず、ブランドや商品のメッセージと共鳴できるクリエイターを注意深く選ぶことが大切な第一歩、というのがアンダーソン氏のアドバイスだ。

2. 広くアイデアを受け入れること
「『あなたにはこれをやってほしい』といった一方的な言い方ではなく、会話することです。あたりさわりのない会話から始め、お互いをよく知ることから始めるのです。潜在的なアイデアに耳を傾け、柔軟な対応を心掛けるべきです」とアンダーソン氏。ブランドが忘れてはならないのは、彼らがアプローチする視聴者は決してブランドの手中にあるわけではなく、クリエイターと結びついているということ。その境界線を尊重し、そこから生まれるさまざまなアイデアを広く受け入れるということである。

3. 長期的な視点で考えること
「多くの場合、すぐに購入につながることはありません」とハーマン氏。「ブランドが我々やキッドフルエンサーと協働するとき、多くの場合はブランド認知やブランド構築、イメージづくりなどを目的としています。子どもたちによる少額の買い物であれ、動画の影響を受けた親による購入であれ、実際の購入は通常すぐには始まりません」

「ブランドがクリエイターと協力することにより、より洗練されるわけではないかもしれません。でもキッドフルエンサーと仕事をすることでその意義を理解し、少しでも前に進めるようになるのだと思います」とアンダーソン氏は述べる。「これは繰り返しのプロセスです。広告会社とブランドはこの点について協力する必要があり、実行するには時間がかかります。私はクリエイターたちから、『かなりの教育が必要なことが多い』というフィードバックを得ています」

(文:オリビア・パーカー 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)

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