David Blecken Jenny Chan
2017年3月21日

無印良品、中国の番組でやり玉に

世界消費者権利デーをめぐる一連の出来事は、予測不能の市場における自衛策の必要性を、ブランドに再認識させる機会となった。

無印良品、中国の番組でやり玉に

中国中央テレビ(CCTV)の番組は3月15日、ナイキと無印良品が一部の製品を不正確な表示で販売しているとして、名指しで報じた。

CCTVは毎年、世界消費者権利デー(中国では3.15と呼ばれている)に、消費者の権利を侵害している「悪徳業者」を暴く番組を放送している。「3.15晩会」という番組では、ナイキがバスケットボールシューズ用のエアクッション機能「Zoom Air」について、一部虚偽の宣伝をしたと指摘。無印良品についても、放射能汚染が2015年に確認された東京都内で製造された食品の表示を偽ったとしている。

ナイキのグレーターチャイナ(大中華圏)での売上は、海外全体での売上高の10%以上を占める。同社は、ソール部分にエアバッグが備わっているとの不正確な表示で、スニーカー「ハイパーダンク」300足を販売したことを認め、消費者に補償を申し出た。

その後、上海出入境検験検疫局は、無印良品が日本の放射能汚染地域で生産された食品を中国に輸入していない旨を確認し、CCTVの報道を否定した。無印良品も、中国のSNS「微博」上の自社アカウントで公式声明を発表。番組で取り上げられた商品が北海道や中国の原材料を使って、大阪と福井で加工されたことを示す証明書も掲示した。

この動きについて、「明確な証拠が無いまま、CCTVが無印良品への批判を意図的に展開したといえるだろう」と、3インサイツ・マーケティング・テクノロジー・コンサルティング社でマーケティングと事業開発のディレクターを務めるアレックス・タオ氏は語る。かつてSAPでもマーケティングを担当していた同氏によると、現在の中国市場にはもっと他に注目すべき喫緊の課題があるにもかかわらず、番組は世論を「覇権主義的な」方法で操作するものだという。

「国家主義的な見地からすれば、中国製品を優先させることは当然理解できます。しかし、だからといってCCTVが混乱を招いたり、ルールを曲げたりしていいということにはなりません」と同氏。「主観的な判断に基づくこの番組を視聴する意味は、ほぼ無くなるでしょう。前世紀的な思考の遺物といえる番組は、終了させるか、品質検査機関や法的機関が引き継ぐべきです。CCTVが政府のスポークスマンになっているという点が、問題なのではありません。CCTVが、より重要な社会問題から人々の目を逸らさせている点が問題なのです」

一方、ヒル アンド ノウルトン ストラテジーズで中国代表を務めるQC リャン氏は、今回のことでナイキの売上が落ちることはないだろうと話す。「CCTVの批判は公平なものだったと思います。実際、今年はいつもほど辛辣なものでもありませんでした」とリャン氏。「今回のナイキ批判は急速に広まり、中国内外のメディアによって幅広く取り上げられています。虚偽の広告はナイキ固有のものではなく、今回はかなりまれなケースなので、ナイキの売上に大きな影響が出ることはないでしょう。影響があるのは、ナイキのブランドイメージの方だと思います」

調査報道と娯楽を組み合わせた「3.15晩会」が始まったのは1991年だが、近年では影響力を失いつつある。昨年は、番組が実質的に消費者権利の保護を訴える内容になっていないとの批判を受けた。しかし、中国の消費者の強い発言力と、SNSを通じて広まる風評被害のスピードを考えれば、中国内外のブランドや広報活動に携わる者たちにとっては依然として、敏感にならざるを得ない存在である。2013年にはアップルが、製品保証において中国市場を差別していると批判され、後に謝罪している。

(文:デイビッド・ブレッケン、ジェニー・チャン 編集:田崎亮子)

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