Stephen Horsley
2020年1月16日

2020年の鍵は、「エクスペリエンシャルマーケティング」

エクスペリエンスはもはやキャンペーンのタッチポイントではない。むしろ「クライマックス」と言えるだろう。

2020年の鍵は、「エクスペリエンシャルマーケティング」

今年、我々にとって最も重要なオーディエンスはミレニアル世代とジェネレーションZ(1990年代後半から2000年代にかけて生まれた世代)だ。前者は世界で24億3000万人、後者は24億6000万人で、合わせれば世界人口の半数を優に超える。彼らは順調に出世階段を上り、また社会人としてデビューを果たし、その購買力は着実に増している。

実際、ミレニアル世代は2025年までに世界の労働人口の約75%を占めると予測されている。彼らは急速に、現代の重要な意思決定者になりつつあるのだ。では、どうしたらこの世代と有意義な関係を築けるのだろうか。

双方向時代のエクスペリエンスを

多くのブランドは長年、マスオーディエンスを対象としたビジネスモデルに則って事業を行い、成果を上げてきた。そしてオーディエンスはブランドに導かれるままに消費をし、それを受け入れてきた。

だがミレニアル世代もジェネレーションZも、ブランドと消費者が双方向的関係を持つ時代、いわば己の意見が反映される時代に育った。例えば、「あまり押し付けがましくない」ブログは消費者一人ひとりが「市民ジャーナリスト」になることに貢献した。ソーシャルメディアの勃興も、インフルエンサー文化の拡散も同様だ。

彼らは受け身だけの消費者ではなく、「語り手(ナラティブ)」でありたいと望む。そうした一定の「支配力」を確保したいと望むオーディエンスに有効なのが、エクスペリエンシャルマーケティングだ。最も効果的なのは、個別の消費者グループの欲求やニーズを高度にパーソナライズ化し、カスタマージャーニーを自然な形で決定づけるようなエクスペリエンスを生むことだろう。

ヒントはeスポーツ

活況を呈するeスポーツ業界。調査会社スタティスタによると2018年に約8億6500万米ドル(約951億円)だったeスポーツ業界の市場規模は、2022年に17億9000万ドルになるという。なぜこれほどの成長を遂げるのか。それは、オーディエンスを束ねるためにコネクティビティを活用しているからだ。

かつてゲーマーは、会ったこともないような相手と世界の隅々で1対1の勝負に興じていた。だが、面と向かって対戦できるプラットフォームが作られたことで「ライブエクスペリエンス」が可能となり、共有する感情を表現できるようになった。これは、バーチャル世界の技術を高めたいという欲求と、物理的に他者とつながりたいという欲求とのバランスをうまく取っていると言えよう。

この傾向は、ソーシャルメディアのインフルエンサーの周辺でも起きている。特にジェネレーションZは自分たちの「スター」を目の当たりにするため、インフルエンサーが出演するイベントに赴くようになった。賢いブランドはあらゆるタイプのセレブリティ −− スピーカーやモデル、パフォーマーなど −− をライブエクスペリエンスに巧みに組み込み、オーディエンスを束ねている。

エンドポイントとしての「ライブ」

基本的には、従来型のマスメディア広告によるアプローチ −− 消費者との接点があろうがなかろうが、大量にメッセージを発信する −− からシフトして、新たなマスメディア広告を取り入れるブランドが成功を収めるだろう。なぜなら後者では、消費者の「熱意」と「参加」がキャンペーンの流れで重要な鍵となるからだ。

これまでエクスペリエンスは、カスタマージャーニーの過程でブランドが活用する一要素に過ぎなかった。だが、今ではキャンペーンのクライマックスとなることがしばしばだ。そしてバーチャル世界の検証となるのが、ライブのエンドポイントだ。

ライブエクスペリエンスとは本質的に、一つのブランドのメッセージに対してバーチャル世界 −− 個人の嗜好が束ねられることによって築かれた世界 −− で培われたコミュニティーや会話、関係性を具現化したものと言える。

ミレニアム世代やジェネレーションZはメディアを利用する際、それを媒介に自分の「声」を持ち、他者とつながり、自分自身を表現したいと望む。それを最大限可能にするために、ブランドはデジタルとライブを混ぜ合わせたアプローチの潜在性を十分理解しなければならない。カスタマージャーニーを通してコミュニティー感覚を醸成することで、初めて「生きた」エンゲージメントを獲得できるのだ。

(文:ステファン・ホースリー 翻訳・編集:水野龍哉)

ステファン・ホースリーはグローバルブランドエージェンシー「INVNT」の戦略営業担当ディレクターを務めている。

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