Rahul Sachitanand
2022年4月07日

2021年APAC主要エージェンシーのイノベーション評価

エージェンシー・レポートカード分析:2021年は、目を引く新コンセプトの発表よりも、イノベーションの地域拡大と商用化が優先されたようだ。

2021年APAC主要エージェンシーのイノベーション評価

Campaign Asia-Pacificが2月末に公表した「エージェンシー・レポートカード(Agency Report Cards)2021」では、イノベーションへの取り組み評価に際し、これまでよりも慎重な見方をしている。2021年は、エージェンシーの大半が、既存事業を拡充することに重点を置き、新しいアイデアの発表は控えめだったからだ。多くのエージェンシーが最も重視していたのは、ここ数年のイノベーションの成果をクライアントに広く採用してもらうことだった。

例えば、このカテゴリーで今回、唯一最高の「A-」評価を受けたTBWAは、従来の「Disruption(創造的破壊)」のコンセプトに、新たな手法とリソースを追加し、「DisruptionX」にリブランドしたと発表した。「X」は「experience(体験)」を意味する。アジアで開発されたデマンドプラクティスは、複数の市場のデータリードを抱えるシンガポールのデータ中核研究拠点の成長に支えられ、DisruptionX構想の重要な一部となっている。

「グロース・エクスプローラー」や「ブースト・エンジン」など、他のツールもTBWAの大口顧客によく活用されている。グロース・エクスプローラーは、クライアントが、顧客の購入意向の変化を捉え、行動できるように支援するもので、シンガポール航空に採用された後、アンハイザー・ブッシュ・インベブ(AB InBev)、ヘネシーなどの優良顧客へと拡大した。

TBWA テッサ・コンラッド氏


また、ゲームとXR技術(AR、VR、MRの総称)の分野でも力を発揮しており、2021年には、メタバースベースのファッションブランドであるアルタヴァ・グループをクライアントとして獲得した。eコマースの分野については、香港の通販サイト「HKTVモール」向けに立ち上げたサービスが、他のプラットフォームにも拡大する可能性を秘めている。これらの取り組みを連携させるため、TBWAはテッサ・コンラッド氏をアジアのイノベーション責任者に任命した。コンラッド氏はTBWAシドニーのグローバル最高イノベーション責任者ルーク・エイド氏とも緊密に連携し、21人から成る地域イノベーションリーダーシップチームを編成した。

しかしながら、2021年にイノベーション評価が向上したエージェンシーはTBWAを含めて9社のみで、逆に16社は評価を下げる結果となった。2021年はあらゆる規模、カテゴリーのエージェンシーで、イノベーションの取り組みに停滞が見られた。あるエージェンシーは、広告を新たな観点から検討するだけで、十分イノベーションだと考えていた。また、ビジネスを追求するうえで、イノベーションを優先事項とは捉えていないエージェンシーもいくつかあった。イノベーションがどのように適用され、成果をもたらしたかを示す証拠がないことで評価を下げたエージェンシーも多かった。あるエージェンシーは、ビジネスの安定化に注力した結果、際立ったプロセスやイノベーションの成果が提出できず、2021年の評価は「D+」まで下がることとなった。

慎重なイノベーション戦略が採られた理由は、生き残りを優先したためだけではない。例えば、メディアエージェンシーのリーダーであるグループエム(GroupM)傘下のマインドシェアは、これまでは多くのアイデアを報告していたが、2021年は控えめで、評価を下げる結果となった。ただし、マインドシェアは、先住民のビジネスやコミュニティの資金調達と権利確保に注力する、APAC初のインクルージョン・プライベート・マーケットプレイスを立ち上げており、その取り組みは賞賛すべき動きだ。たが、その効果を評価するには、時期尚早だったようだ。また、サプライパスの最適化(サプライサイドパートナーを68社から23社に集約)にも取り組んでおり、厳選されたサプライヤーとコスト削減を実現し、その成果を広告主に還元している。とはいえ、新しいものを開発したというよりは、従来の取り組みの延長線上であるような印象を受けた。

好対照なのが、電通のネットワークで最古参のメディアエージェンシーであるカラ(Carat)で、ビジネス面では厳しい一年となったものの、革新的なアイデアをいくつか提示して評価を上げた。カラは、2020年に発表した「デザイニング・フォー・ピープル」のアイデアに基づき、ブリーフへの対応を改善するための5段階のスプリント(短期反復)プロセスを2021年から導入した。カラの説明によれば、これは直線的なプロセス構造からサイクル型のプロセス構造へと移行するアプローチだということだ。そして重要な点として、これがケロッグ、P&G、ボーダフォンなどの顧客獲得に繋がったということだ。また、中国に拠点を置くカルチャー・コンテント・ラボ(Culture Content Lab)は、ジョー マローン などのクライアントが消費者を正確にセグメント化するのに役立っている。

2021年に最も革新的だったエージェンシーはアイデアを商用化するだけでなく、クライアントや国を越えてスケールする能力を示していた。メディアコムがシンガポールに構えるAPACハブは、「エムワークショップ(MWorkshop)」という、eコマースビジネスインテリジェンスシステムを開発した。「ラザダ(Lazada)」と「ショッピー(Shopee)」のデータを統合して需要を予測し、クライアントの投資先ポートフォリオの意思決定を支援するというものだ。元々、フォンテラ(Fonterra)のために開発されたシステムだが、グループエムの各国拠点に拡大され、姉妹会社のマインドシェアではユニリーバのアカウント維持に一役買った。

メディアコム ジョシュ・ギャラガー氏


同じくAPACハブでは、システムインテリジェンスおよびデータアナリティクスチームが、AIを活用した「クリエイティブ・アナリティクス」ツールを開発した。クリエイティブのパフォーマンスを最適化するためのツールで、こちらはWPPグループの各企業にも拡大されている。これらは、APACハブのイノベーション力の向上と、APAC担当COOのジョシュ・ギャラガー氏のリーダーシップを示していると言えるだろう。

同じグループエム傘下のウェーブメーカーでは、APAC市場全体に適応するイノベーションが開発され、中核戦略として採用され、2021年すべてのクライアントに採用された。これがイノベーションの評価を上げた要因だ。ウェーブメーカーはAPACで開発された3つの革新的なプランニングシステムを発表した。オーストラリアでは、ライブ・ジャーニー(Live Journey)が、ウェーブメーカーのカスタマージャーニーフレームワークである「モメンタム」に、100を超えるパートナーのライブデータソースを追加した。これによりウェーブメーカーは、化粧品大手ロレアルを獲得することができ、ウールワース(Woolworth)の購入者データを活用して、ロレアルブランド「メイベリン」の「購入層オーディエンス」を構築した。このツールは2021年9月に世界展開され、現在、多くの小売企業やサービス企業が活用している。

ロレアルはまた、ウェーブメーカーの世界初となるアマゾンとのグローバル契約の恩恵も受け、アマゾンプラットフォームでオーディエンスコホートを直接マッピングできるようになった。同社ではこれを、主にオーストラリアとインドで活用している。さらに、東南アジアのチームは「イルミネート(Illuminate)」というツールを開発した。このツールは、ラザダ、ショッピーなどのECプラットフォームにおける価格設定や商品展示、コンテンツの見せ方、主要な競合他社との位置関係など、ブランドにより透明性の高い視点を提供することができる。これは、東南アジアのeコマースビジネスを2倍以上に成長させる原動力となった。

もちろん、グループエムのエージェンシーがイノベーション評価の上位を独占したわけではない。ピュブリシス・メディアのエージェンシーも、ファーストパーティデータを持つクライアントの獲得とそのデータ管理、セカンドパーティデータのパートナーシップ推進などに注力していた。最も目を引くイノベーションは「グロースOS」だ。これは、すべてのマーケティングパートナー(クライアントと、そのクライアント作業に必要な非ピュブリシス系エージェンシーも含む)が、購入データやソーシャルモニタリングデータ、メディア消費データなど、あらゆるデータを包括的に見られるシステムなのだという。現在、グロースOSはAPACの一部の市場で活用されているが、2022年末までにはAPAC全域に拡大する予定だという。

メディアコム ジョシュ・ギャラガー氏


ピュブリシスは地域別のイノベーションも推進している。例えば中国では、アリババ傘下の「Alimama」、テンセント傘下の「JD.com」、バイトダンスなどと提携し、クライアントがeコマースの検索シグナルを分析し、活用するためのツールを提供している。フィリピンでは、消費者が「フェイスブック・メッセンジャー」経由でレシートの画像をアップロードすると、ブランドからポイントを獲得できる「U-Scan Shop ID」というシステムを運営している。

パートナーシップ、スケール、クライアントによる採用や成果。これらすべてを実現したものこそが、APACエージェンシーのトップイノベーターと呼ぶべき存在なのだろう。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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