Surekha Ragavan
2020年6月12日

BLM運動とアジアのブランド

米国で起きた「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」運動は、アジアでも社会に巣くう人種差別に光を当てた。ブランドにも明確な意思表明が求められている。

BLMを支持する韓国・ソウルでのデモ風景(写真:Getty Images)
BLMを支持する韓国・ソウルでのデモ風景(写真:Getty Images)

5月25日にジョージ・フロイド氏が警官に殺害されて以来、ブラック・ライブズ・マターは米国のメディアを席巻した。何十年にもわたり米国社会を蝕んできた人種差別と警察の暴力に対し、何万という人々が遂に声を上げたのだ。すると図らずも、同様の差別や暴力に抗議する運動が他の国々でも巻き起こった。

アジアでも、香港や韓国などでBLMに連帯を示すデモが催された。ヒップホップやR&Bから多大な影響を受けたKポップの人気グループ、BTSは運動支援のために100万米ドルを寄付。豪州の諸都市で行われたデモではBLMへの連帯とともに、豪社会から疎外されてきた先住民への支援が叫ばれた。

東京のデモでも同様に、自動車を運転中に警察に止められ、暴行を受けたクルド人男性への支援を参加者が訴えた。タイではZoom(ズーム)を通して抗議活動が行われ、参加者はフロイド氏が警官によって地面に押さえつけられた時間と同じ8分46秒の黙とうを行った。

豪・メルボルンでのデモでは、警察に拘束されて死亡した先住民への連帯も示された(写真:Getty Images)


マレーシアでは黒人への差別に加え、警察に拘束されて死亡したインド系マレー人、ソーシャルメディアや独立系ニュースメディアが流布する移民労働者への差別がテーマに掲げられた。シンガポールでは、著名なインフルエンサーや独立系ニュースメディアが反移民感情と中国系シンガポール人の特権を非難するコンテンツを発表。インドでは、美白化粧品を宣伝するセレブリティーに批判の声が上がった。

民衆がこれだけの意思表示をしたアジアで、ではブランドは一体何をしたのか。

忘れてならないのは、こうした運動が新型コロナウイルスのパンデミックの最中に行われたことだ。多くのブランドは今、さまざまな問題解決に追われている。従業員の雇用を守り、ダメージを最小限にとどめようと奮闘している。だが今はブランドやその経営層だけでなく、すべての人々にとっての難局だ。

さらに指摘したいのは、人種差別主義とコロナ禍は互いに全く関連がないわけではないということ。実際この数カ月間、さらなる苦難を強いられたのは紛れもなく貧困層や労働者階級だ。

シンガポールやマレーシアでは、移民労働者の中での感染者の急増が、排外主義と彼らの貧しい生活環境に光を当てた。これは米国も同様で、感染死の割合は黒人社会の方が白人社会よりも高いことが判明した。それらの要因は、今議論となっている構造的な人種差別主義と切り離しては考えられないものだ。

コロナの感染拡大が始まったとき、多くのブランドが示した「力」は人々を勇気づけるものだった。Campaignではさまざまなブランドの対応を記事にまとめてきたが、地域社会への支援や丁重で思慮深いコミュニケーションは、ブランドの奉仕力と責任感を十分に表すものだった。

だが、今回の反人種差別運動に対するブランドからの声はアジアでは全く聞こえてこない。この1週間ほど、私は8社のエージェンシー(PR、メディア、クリエイティブ)幹部に問い合わせ、どのような意見を持っているかを尋ねてみた。ある者は「非常に微妙な問題なのでコメントできない」といい、ある者は「会社としてコメントを出すのに躊躇する」といった。またある者は、「伝えられている報道以外に付け加えることはない」。「コメントするだけの知識が十分にない」と答えたコミュニケーション責任者もいた。人種差別問題を理解し、解決するには確かに時間がかかるかもしれない。しかしこの問題は何十年もの間深く社会に根差してきたのだ。フロイド氏の死によって、一夜にして浮かび上がったものではない。

こうした反応は、私にとって物足りないものだった。これまで社会から疎外されてきたコミュニティーや有色人種が差別という現実に耐えつつ、最前線で闘ってきた間、ブランドやその経営層は社会に向けて意見を述べる機会はいくらでもあった。反人種差別の表明はブランドにとって「微妙」でも、リスキーでも、勇敢でも何でもない。単に、当然のことなのだ。

人種差別はいかなる場合でも肯定されてはならない。我々が否定するほどに、この問題は日常の仕事やコミュニケーション、そして消費にまで深く潜り込む。ブランドやその経営層、特に優位性の維持によって恩恵に浴してきた大企業は、問題解決という責任から決して逃れられないのだ。

では、アジアのブランドへの進言をいくつか記してみよう。

「参加のみ」に意義なし

声明や行動指針を発表する前に、まずあなたのブランドのこれまでの「罪」 −− 既存の抑圧的システムをどのように支えてきたのか −− を徹底的に検証するべきだろう。その上で、地域社会に貢献できる実現可能な措置を講じるべきだ。「All Lives Matter(全ての命が大切)」「We Don’t See Colour(人種に違いはない)」などといった聞こえのよい同種の言葉の羅列は何の意味もなさず、活動家やデモの参加者にむしろ好ましくない結果をもたらすことすらある。失敗はつきものだが、ブランドはこうした人々の意見をよく聞き、信頼を維持していくことが大切だ。

人種差別に抗議するアディダスのビジュアル


例えばアディダスは、「RACISM(人種差別主義)」という言葉に抹消線を引いたビジュアルを公開した。ソーシャルメディアユーザーはこのイメージを「薄っぺらい」「曖昧」「変革への具体策が表現されていない」などと批判した。これに対しライバルのナイキは、「Just Don’t Do It」とうたったキャンペーンを展開、黒人コミュニティーに今後4年間で総額4000万米ドル(約44億円)の支援を行うと発表した。しかしながらナイキは、経営層にインクルーシビティ(包摂性)が欠如していることへの説明責任をまだ果たしていない(税務問題も同様)。

企業の誠意とは、その場しのぎでつくられた理念ではなく、長期的視野に立った理念の上に示されねばならないのだ。

変革は「足元」から

熱心に反人種差別をうたいながら、自社の中でそれが実践できていないブランドは論外だ。見せかけだけの行動主義は従業員も消費者もいち早く察知し、すぐさま批判の対象となろう。そうしたブランドは、これまでも社会的制裁も受けてきた。

例えば、ミレニアル世代が支持する米国のメディア「リファイナリー(Refinery)29」は黒人従業員への不当な低賃金や職場でのマイクロアグレッション(悪意のない差別的行動・言動)が発覚、非難を浴びた。同社はウェブサイト上で黒人の意見を尊重するセクションを設けているが、これもスポンサーがついていたことが判明。こうした偽善的行為は決して奏功しない。まずは少数派スタッフが安心して意見を言えるようにするなど、自社の構造改革に注力すべきだろう。

IPGのマイケル・ロス(上)、WPPのマーク・リード両CEOのメッセージ


エージェンシーも例外ではない。WPPのマーク・リード、インターパブリックグループ(IPG)のマイケル・ロス両CEOは、共にBLM運動を支持するコメントを発表した。だが、WPPの役員は全員が白人で、IPGは黒人が一人だけ。多様性を進めるには単に有色人種の雇用を増やすだけでなく、社内のすべてのレベルでさまざまな意見が反映されるシステムをつくる必要がある。

大企業の経営層が持つ力は絶大であり、そうした特権を持つ人々は有意義に力を行使できる。投稿型ソーシャルサイト「レディット(Reddit)」の共同創設者アレックス・オハニアン氏は役員を辞し、自分のポストを黒人に譲るよう促した。その行動は広く称賛された。

ブランドパーパスの実現

Campaignはこの数年、ブランドパーパス(ブランドの存在意義)の重要性とそれが消費者行動に及ぼす影響を再三取り上げてきた。

実際、消費者は商品の購入によってブランドを選別する。ブランドはその事実を踏まえ、方向性を誤らないビジネス感覚を養ってきた。消費者は今、自分たちの政治・社会的信条に合うブランドを支持し始めている。よってブランドは、「政治的偏向」を避けて微妙なテーマに距離を置くことが得策かどうか、よく吟味すべきだろう。

重要なのは、反人種差別の取り組みは(たとえそれが結果的に収益上の利になろうと)真摯に行われ、人道的で具体性がなければならないということだ。繰り返し希望を唱えるだけでは不十分なのだ。ブランドはこの問題と真剣に向かい合い、既存の抑圧的システムの解体が決して楽ではないことを知るべきだろう。

PRWeek UKが行った調査で、自分を白人と認識する人々の29%が「ブランドは国家的案件や政治・社会問題で意思表明をするべき」と答えた。同じ回答をしたのはアジア人では52%、多様なルーツを持つ人では59%、黒人では79%に上った。

南アフリカでアパルトヘイトと闘ったデズモンド・ツツ元大主教の言葉が、この問題の本質を捉えているといえよう。「もしあなたが不正が行われている状況で中立を保つのなら、それは迫害者の側に立っていることを意味するのだ」。

(文:サレハ・ラガヴァン 翻訳・編集:水野龍哉)

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