Barry Lustig
2016年12月06日

大内智重子氏(電通):広告界の女性管理職であるということ

電通第3CRP局局長という同社屈指のクリエイティブ部門で、初の女性リーダーとなった大内智重子氏。これまで一つひとつの仕事で着実に成果を上げ、その積み重ねで「ガラスの天井」を破った同氏。女性管理職として、仕事に臨む姿勢を語る。

大内智重子氏
大内智重子氏

シリーズ「女性リーダーたちと語る」の第1回は、今年1月に電通の六つあるクリエイティブ部門の一つ、第3CRP局局長に就任した大内智重子氏のインタビューをお届けする。女性のプランナーが同社クリエイティブのトップに就くのは初めてのこと。電通の管理職にある女性では、同氏は間違いなく最も影響力が大きい存在といえる。

インタビューの中で大内氏は、これからのプランニングやクリエイティブの仕事のあり方や、広告の世界で成功するためになすべきことなどを語った。大内氏にとって成功を決定づけるものとは、クライアントのために結果を出して自身の実力を示すこと、そして同僚の中から強力なロールモデルを見出すことだという。

プランニングの仕事は、どのように変化しているのでしょうか?

まず、プランニングの目的はこれまでと変わりはありません。それはクライアントの課題を解決することです。そして良い仕事をすれば、世の中を良くすることにもつながっていきます。その一方で、プランナーの思考範囲や仕事の手段は変わりました。かつては率直なコミュニケーションを実現することに注力していればよかったのですが、今日ではプランニングと絡み合う他のさまざまな要素も踏まえなければなりません。

大きく変わった点は、仕事の範囲が純粋なコミュニケーションプランニングからビジネス開発にまで広がったことです。クライアントはプランニングにより多くを期待するようになり、良い広告を提供するだけでは満足してもらえなくなりました。製品の売上が増えたか、消費者の心をつかむことはできたか、ブランドはよりポテンシャルを高めたか……そういったことも求められるようになっています。クリエイティブソリューションの質だけにとどまらず、さまざまな切り口で結果が問われているのです。

プランニングとクリエイティブの関係は、どのように変化しているのでしょうか?

概して、クリエイティブとプランニングの境界線はなくなりつつあります。ストラテジストは「何を伝えるか」だけでは不十分で、「何をするか」まで示さなければなりません。特に、クライアントが目標を達成するためには何をすべきか、具体的なアクションを提案する力が求められます。

クリエイティブにも同様のことが言えます。以前のようにクリエイティブワークだけを考えるのではなく、クリエイティブを通してどのような効果を上げたいのか、ということも視野に入れなければなりません。クリエイティブとプランニングはより密接に支え合う関係となり、二つの領域が一つになりつつあります。

かつては、ブリーフが終われば担当のプランナーからクリエイティブにバトンが渡されました。自分の仕事はここまで、この後は他人の仕事、というわけです。しかし今は双方が協力して仕事に取り組まなければなりません。さらにはPRやメディア戦略のような専門スキルを持ったスタッフも加わるようになりました。強力なチームを作るには、さまざまなスキルを備えたスタッフが必要なのです。

電通でも屈指のクリエイティブ部門の局長に、プランナーが抜擢された理由は何だと思いますか?

私がやるべきことはクリエイティビティーの拡大、広告コミュニケーションからビジネスソリューションへの拡大だと思います。メディア、PR、デジタルさらにはクライアントなどさまざまな領域のプレーヤーとのコラボレーションの促進を通じた能力拡張。その旗振り役をすることが私の役割だと思います。

私は以前、統合的なクリエイティブプランニンググループである電通コミュニケーション・デザイン・センター(CDC)に所属していました。そこではコミュニケーションに関わるさまざまな分野を専門とするスタッフと仕事をしました。当時CDCでデジタルを率いていた佐々木(康晴氏)もいました。彼は今、別のクリエイティブ部門の長を務めていますが、CDCで培った複合的な視点で仕事を俯瞰する姿勢は、私たちに共通していると思います。

日本の広告業界に女性の上級管理職がほとんどいないのは、なぜでしょうか?

近年は状況が変わってきています。昔は、女性がメディアや広告を担当するチームを率いていることを快く思わないクライアントもいました。一般論ですが、女性では心もとない、男性のように安心して任せられないと思っていたのでしょう。

それも原因の一つかもしれませんが、キャリアの早い段階でチームを率いる機会が無かった女性がたくさんいます。

私自身は、20代後半のときに小さなプロジェクトチームのリーダーを務める機会を与えられました。そして幸運にも、期待を上回る成果を上げることができました。それからはより大きな仕事を数多く任せられるようになり、自分のチームの仕事に責任を持つことの重要さを学びました。

それと、優れたアカウントエグゼクティブたちと共に仕事ができ、彼らがロールモデルになってくれたのはとてもありがたいことでした。社内の良い事例や同僚たちから学べたことは、とても重要な経験でした。

広告業界で働く女性にとって、最大の課題は何でしょう?

「あなたは女性だから、このプロジェクトに向いていると思う」とか、「あなたにはお子さんがいるから、母親の視点でこれをやってみて」などとブリーフする上司がいるかもしれませんが、私はこうしたアプローチには賛成できません。一つの側面だけではなく、その人の経験やスキルなどを総合的に見て、適性を判断するべきだと思います。

若い女性たちに伝えたいのは、他の多くの女性たちが興味を持ちそうなことだけにとらわれてほしくない、ということ。それら以外にも自分の能力が発揮できる分野があることを、はっきりと示すべきです。自分は何に興味があるのか、何が強みなのかを明確にしてほしい。

女性向けの分野で成功したとしても、「女性が取り組みやすい分野だからうまくいったのだ」と思う人もいるかもしれません。ジェンダーを超えた仕事でも成果を上げれば、あなたに懐疑的だった人たちでも実力を認めることでしょう。女性であることよりも、あなたであることを大切にしてほしいです。

もし新しいチャンスになかなか恵まれないのであれば、一人でできるプロジェクトを探し出して自分の能力を証明するか、「別のクライアントの仕事がしたい」と上司に率直な気持ちを打ち明けるといいと思います。

ご自身のキャリアの中で、最大の学びは何でしたか?

仕事とはチャレンジなので悩むこともありましたが、前に進み続けることができたのは、私たちの仕事が素晴らしいと誇りを持っているからです。コミュニケーションには人々の暮らしを大きく変えたり、世の中を良くしたりする力があります。

この仕事の最も素晴らしい点の一つは、お互いを支え合うチームメイトがいて、皆で同じゴールを目指して力を合わせていくことです。長く一緒に働いた仲間は、私にとって宝物です。気の合う信頼できる仲間と取り組む仕事は、とても楽しいものです。

さらに私たちには、絶えず起きる「変化」を楽しむ姿勢も欠かせません。少なくとも私は「順応すること、柔軟であること」が大切だと思っています。クライアントが変わるかもしれないし、所属部署が変わるかもしれない。そうした変化は、順応性があれば決して苦にはならず、自らの成長につながるはずです。

後輩たちに伝えたい最も大切なアドバイスは何ですか?

クライアントが求める結果を、求められる以上のレベルで、できるだけたくさん出すことです。クライアントに対して結果を出すことは極めて重要です。明白な成果が上げられれば、自分のキャリアを伸ばすチャンスにもつながります。チームのモチベーションという意味でも、良い結果を出すことはとても大切なことです。

(文:バリー・ラスティグ 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)

バリー・ラスティグは、東京を拠点とするビジネス・クリエイティブ戦略コンサルティング会社「コーモラント・グループ」のマネージング・パートナーです。

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