Surekha Ragavan
2022年4月07日

クリエイティブPR、急務はジェンダーバランス

クリエイティブを担う女性が不足していることは、コミュニケーションやナラティブ(物語)に重大な影響を及ぼす −− PR界のフロントランナーたちが語る。

左から時計回りに:K・シタラ・セーンケーオ、ティエンイー・マー、ミシェル・ハットン、イザベル・カーニューウェルの各氏
左から時計回りに:K・シタラ・セーンケーオ、ティエンイー・マー、ミシェル・ハットン、イザベル・カーニューウェルの各氏

PRエージェンシーが従来型のクリエイティブエージェンシーとしのぎを削るようになったのは、この10年ほどだ。その結果、質の高いクリエイティブ人材が多くのPRエージェンシーに流れた。だがPR界におけるクリエイティブ職はまだ新しく、担う女性も少ないため、PRエージェンシーのクリエイティブ人材は大きく男性に偏っている。

「一般的にクリエイティブ業界では女性が不足しています。特に役職では極めて少ない。それゆえ、PR界でクリエイティブとして活躍する女性もほとんどいないのです」。こう語るのはエデルマン・アジア太平洋地域担当(APAC)チーフクリエイティブオフィサーのティム・グリーン氏だ。「女性不在のせいで、我々もストーリーの半分しかオーディエンスに伝えていないような気がします」

男性偏在でまず挙げられる弊害 −− 特にクリエイティブプロセスで −− は、信頼性の低下だ。課題解決のためのソリューションはあらゆるアングルから検討されねばならず、取り組む人材が多様でなければ幅広いオーディエンスの共感を得ることは難しい。

同じくエデルマン・APAC担当ヴァイスチェアマンのミシェル・ハットン氏も同意見だ。「クリエイティブPRを担う女性の数は不十分。(女性の)割合は増えてはいますが、その速度はまだ遅い。この仕事は長時間労働が強いられる印象がまだ強いので、女性は尻込みをしてしまい、希望する者も減ってしまうのでしょう」

「女性は人口の51%、消費者の購買力の85%を占めている。クリエイティブチームのアイデアは市場に導入されるのだから、ジェンダーバランスは改善されてしかるべき。業界は今、その必要性に迫られています」

PRエージェンシー「MSLニュージーランド」のマネージングディレクター、イザベル・カーニューウェルは女性登用の重要性をこのように語る。

「購買意思決定には女性が大きな影響力を及ぼします。ですからクリエイティブプロセスに女性の視点を取り入れることは、モラルとして正しいだけでなく、ビジネス的にも大きな意義がある。企業はダイバーシティーが高いほどより優れた、クリエイティブで理にかなった決定を下せることはすでに立証されています。こうした決定を喜ばない企業があるでしょうか?」

女性クリエイティブへのアドバイス

「PR業界でクリエイティブを担っていくには、まず躊躇しないことが大切です。自分の才能を声高にアピールすることに引け目を感じる人は多いでしょうが、そうした感情は切り捨てなければならない。幸か不幸か、クライアントはまさにその部分にお金を払うのですから」

「成功の切符は誰も与えてくれない。ですから、私のアドバイスはいつも同じ。『プッシュ、プッシュ、プッシュ』、つまり『押して押して押しまくる』ことをモットーにすべきです。他人をプッシュし、居心地の良い場所に安住している自分をプッシュする。大切なクライアントの利益になるようプッシュし、クライアントもプッシュする。その結果が、エージェンシーでの役職につながるのです」

「これは決して洗練されたやり方ではないし、人に好かれるやり方でも、謙虚でもありません。しかし、私たちは『ガラスの天井』を突き破ろうとしている。ガラスはどうやって破ればいいのか。押し続けるしかないのです」

−−「ミルク&ハニーPR」共同経営者兼クリエイティブディレクター、オットリー・ラトクリフ氏のコラムより

PRエージェンシー「ヴェロ(Vero)」のデジタルクリエイティブディレクター、K・シタラ・セーンケーオ氏は、「女性クリエイティブがいなければ我々が手がけるキャンペーンは完全なものにならないし、様々なジェンダーからの視点も反映できない」と話す。「男性は、ターゲットオーディエンスの女性を女性ほど理解できませんから」

同氏が拠点とするタイでも、クリエイティブ職の女性はまだ少ない。だが、エージェンシーが女性の利益を考慮するようになり、状況は明らかに改善しているという。

「業界の多くの人々が、この仕事における女性の重要性に気づき始めた。少なくともタイではそのように感じます」

中国でもクリエイティブPRはまだ新しく、同じ課題を抱える。アリソン・アンド・パートナーズ・チャイナで消費者・企業担当ディレクターを務めるティエンイー・マー氏は、「中国のPR業界では女性が強い影響力を持っていますが、クリエイティブ職の人はごく稀」と語る。

「PRにおけるクリエイティブ職は新しいので、この仕事に就く人は大概広告エージェンシーやクリエイティブエージェンシーからやって来ます。こうしたエージェンシーでは男性がクリエイティブを担うケースが多いので、結果的にPRでも男性が多くなる。長時間労働や責任の重さも、家族を優先する女性にとっては課題でしょう」

クリエイティブPRに女性が少ないと、「手がけるキャンペーンが中国人女性にアピールしないリスクが生じる」

「消費者ブランドにとって、ターゲットオーディエンスの半数は女性です。女性クリエイティブは女性に対する繊細な感性を持っているので、女性消費者に強いインパクトを与えるコミュニケーションを生み出せる。女性を軽視したり、現代中国女性の逆の価値観を提起したりするようなブランドコミュニケーションが逆にブランドを傷つけ、危機的状況を生んだ例はこれまでいくつかありました」

ハットン氏は、女性クリエイティブを増やすために「現在クリエイティブを担っている女性が他の女性に対し、恐れずチャレンジするよう積極的に伝えていく必要がある」と話す。

「そして、クリエイティブに意欲を持つ人々をまったく新しい分野から見つけ、エージェンシーで育てていかねばなりません。結局、PRエージェンシーで成功するクリエイティブはジェンダーを問わない。従来の賃金モデルに縛られない、自宅でのリモートワークを希望する人たちは皆優れた結果を出します。こうした労働環境を促進すれば、女性にとってもより魅力的な職業になるでしょう」

(文:サレハ・ラガヴァン、翻訳・編集:水野龍哉)

関連する記事

併せて読みたい

2022年9月23日

次のCMOは、チーフ・ミュージック・オフィサー?

最高音楽責任者が経営に参画するケースが増えている。ブランドがサウンドの戦略的重要性に気づき、投資に乗り出すという、最近の広範なトレンドを象徴しているのだろうか?

2022年9月23日

セマフォーが進めるデジタルニュースの「抜本改革」とは

グローバルニュースパブリッシャー、セマフォー(Semafor)でCEOを務めるジャスティン・スミス氏と、エグゼクティブエディターのジーナ・チュア氏が、報道の「再考」について語った。

2022年9月23日

「パタゴニア株譲渡」は、究極のブランドパーパスか?

先週、米アウトドア用品大手パタゴニアの創業者イボン・シュイナード氏が、同社の全株式を環境団体などに寄付したことを明らかにした。この大胆な決断は、他企業にとって社会貢献の手本となるのか。コミュニケーションの専門家たちに聞いた。

2022年9月23日

世界マーケティング短信:ショート動画の収益化、PRの気候変動への責任

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。