David Blecken
2016年11月21日

フィンズベリー:日本企業に「ノーコメント」という選択肢はもう無い

WPPグループのエージェンシーが、複雑化が進む世界での日本ブランドの支援にチャンスを見出す。

成松恭多氏
成松恭多氏

WPP傘下の戦略的コミュニケーションエージェンシーであるフィンズベリーは、東京事務所を開設した。日本企業の海外展開や、独特な日本市場でチャレンジする外資系企業を支えていく。

4人体制でスタートした東京事務所の代表を務めるのは、バークレイズの元広報部長、成松恭多氏だ。フィンズベリーの日本での主要顧客はトヨタ自動車で、10年以上にわたりグローバルなサービスを提供してきた。2009~2011年に起こったアクセルペダルの不具合による大規模リコール問題を含め、数々の危機を共に乗り越えてきた関係だ。

フィンズベリーが都内で実施したインタビューでCEOのマイケル・グロス氏は、2020年の東京五輪のスポンサーシップ契約を結んだトヨタを、今後は国内的にもサポートしていくと明かした。国内の他の顧客には、英国でのARM買収をサポートしたソフトバンクや、日本政府の米国における草の根外交プログラムがある。

マイケル・グロス氏


グロス氏は成松氏と最近、米国での買収を検討している見込み顧客と会ったばかりだという。トランプ次期大統領の就任は、米国での経済ナショナリズムの高まりを意味すると同氏は指摘。トランプ氏が最も強硬姿勢で臨むのは中国のように見えるが、米国で事業展開する日本企業にとって今後重要なのは、変化する不確実な事業環境の動向を注意深く見ていくことだという。
「日本企業や政府の間では不確実性が増大しており、それは当然の反応でしょう。しかし、トランプ氏がインフラへの民間投資を後押しすることで、海外の投資家にとって新しいチャンスが生まれるといった明るい兆しも見えています」

グロス氏はまた、国内外におけるコミュニケーションの反応の早さという点で、日本企業は未だに問題を抱えていると指摘する。情報伝達のスピードが今後ますます加速していくことを考慮すると、「多くの日本企業の意思決定プロセスはコンセンサス型ですが、それでは危機的状況への迅速な対応は困難です」。また、コメントを避けたがる日本企業の従来のアプローチは、「メディアの活用に長けているだけでなく、敵対する相手に不利なストーリーを作り上げることを躊躇しない競合他社が存在する」米国のような市場では通用しないという。

同様のことが、現在では「日本市場にも当てはまる」と成松氏。スキャンダルが増幅していく典型例として、エアバッグの異常破裂への適切な対応を怠ったタカタの危機対応を挙げる。「はっきりと主張することを避けたために、エアバッグ事件のみでなく企業姿勢に対しても、多くの批判を招いてしまったのです」

一方で、日本で事業展開する外資系企業は、文化的な機微を意識するだけでなく「現地の広報担当者の育成が重要」とグロス氏。同社は日本の外資系企業向けのサービスも視野に入れているが、日系企業の海外展開への対応の方がビジネスチャンスが大きいという。同社は米国、欧州、中東に加え、香港とシンガポールに拠点を持ち、ネットワーク全体の事業の3割をクロスボーダー案件が占める。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:高野みどり 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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