David Blecken
2018年8月29日

ユニクロ、「デジタル・コンシェルジェ」をスタート

受け身のサービスから、より能動的サービスに −− 開発者たちはAI(人工知能)の限界を指摘するが、「UNIQLO IQ」は小売業界にとどまらず、カスタマーサービスの新たな方向性を示唆する。

ユニクロ、「デジタル・コンシェルジェ」をスタート

7月中旬、ユニクロはグーグルの「ダイアログフロー(Dialogflow)」をベースにしたUNIQLO IQの提供を日本で開始した。消費者が欲しいものをよりたやすく見つけられる、買い物のアシスタントサービスだ。

巨大アパレル企業にとってはじめてとなるこの試みは、「パーティー(PARTY)」及び「イナモト・アンド・カンパニー」とのコラボレーションによって実現した。Campaignはこのプロジェクトに携わった人々に話を聞いた。

イナモト・アンド・カンパニーの創設者であるレイ・イナモト氏は、2年前にはじめてユニクロに「AIを用いたカスタマーサービスのプラットフォーム」を提案したという。その主たる目的は、「商品管理をより効率的に行うため。商品管理というのはたやすそうで、実は大変なのです」。

「IQの導入によってどのような商品が人気が出、売れるのか予測が立てやすくする」と同氏。

利用できるのはユニクロのモバイルアプリケーションからで、「グーグル・アシスタント」にも内蔵。リアルタイムで商品データと直結し、消費者がアプリや近くのショップで買いたいものを見つけられるよう、音声でインタラクションを行う。また個人の検索記録や時間ごとの商品ランキング、行事、日々の占いといった個人の特性などに基づいた新商品のお薦めも。

このサービスは今のところ日本だけだが、開発に携わったスタッフは英語版をテスト中だ。「AIの英語は日本語よりも優れている。はじめは英語でこのコンセプトを実現する予定でした」(イナモト氏)。プロジェクトを始めてから最初の9カ月は英語でテストしたが、途中から日本語に変換。その後はサービス公開直前まで、毎週ごとにアップグレードしたという。

パーティーのインフォメーションアーキテクト、阿久津達彦氏は、「想定されるシナリオを組み入れたプロトタイプが出来てから、自然でフレンドリーな『声』を作り出すことに着手しました。これが一番厄介だった」と話す。「日本語に多くのニュアンスがあることが、特にこの作業を困難にした」というのは同じくパーティーのチーフストラテジスト、高宮範有氏。大がかりなテストや作業のやり直しが必要となり、「IQが実現するまでに予想以上の時間がかかりました」。

同様のツールにスマートスピーカーがあるが、セールス媒体としてどれだけ効果があるかまだ実証されていない。現在スマートスピーカーを使用する消費者は少なく、ある専門家は「販促のツールとしては改良が必要だろう」とも。だがイナモト氏は、IQのプロジェクトは「マーケティングのキャンペーンや話題作りを狙ったものではなく、消費者へのサービス向上を目的としたもの」と強調する。

「このプロジェクトを推進するため、ユニクロが十分なリソースを注ぎ込んだことがその証です」。現在のIQは完成形ではなく、今後も進化を続けるプロダクトなのだ。

「我々は過去2年間、毎週1度ミーティングを開きました。ユニクロは決して、『これはマーケティングの仕事』とか『これで十分です』などと言わなかった。これは実に賞賛すべきことです。彼らはこのプロジェクトを信じ、チームを継続していくことを誓いました。我々には長期にわたってIQの改良を続け、より良いサービスを提供していく責務があるのです」

「英語でのサービスはやがて実現します」とイナモト氏。中国語に関してはまだ具体的計画はないが、ユニクロの事業における中国市場の重要性を考えれば、「考えるまでもありません」。

同氏はAIの負の側面も指摘する。「企業やユーザーは、概してAIシステムの可能性に期待を持ち過ぎている」。

「まだAIは“マジック”ではないのです。AIに全てをやらせようとしますが、一般的なAIはまだ2年間で得られる能力を得たに過ぎない。ある種のAIは人間を凌ぐでしょうが、概して人間はAIに多くのことをやらせ過ぎようとする。今の段階では、明らかに限界があります」

「時間をかけて機能性を確立させた方がいい。ユーザーにとって良かれと思っているいくつかの事柄も、それほど意味がないと思います」。そのことが「より単純なマーケティングの良さを教えてくれる」とも。

「自社のホームページには好きなだけ広告や宣伝を掲載できますが、消費者は自分たちが探している特定の商品だけを見ることが多い。ですからホームページに載せる情報は、マーケターが考えているほど役立っていないのです」

消費者は、何が似合うかアドバイスを受けると時に不快感を抱く。その事実にイナモト氏は驚いたと言い、「それはアドバイスが不適切と言うより、個人を深く理解した上でのきめ細かいものではないからでしょう」。適切なアドバイスがいかに難しく、膨大なデータが必要であるかを考えれば、IQは確実に過ちを犯すだろう。それでも開発に携わった人々は、「その有用性が広く知れ渡ってほしい」と望んでいる。

消費者へのアプローチを巧みに行っている企業の例として、イナモト氏はスポティファイを挙げる。「彼らは言葉を慎重に選んでいます。『お薦め』という言葉を頻繁に使わず、『発見(discovery)』という言葉を使う。押し付けがましくないのです。『あなたが何が好きか分かっていますよ』と言うのではなく、『あなた』に発見させる。この手法はファッションにも応用できます。消費者が好きそうなものを提示し、本当に気にいるものを『発見させる』のは我々の務め。IQがその可能性を広げてくれます」

高宮氏は、IQが「データ収集やカスタマーサポートの手法でユニクロをより能動的にし、事業の基盤となる可能性がある」と話す。

「我々は可能性の1%を見ているに過ぎません」とイナモト氏。「概してこれまでのカスタマーサービスは非常に受け身的でした。小売業界以外のカスタマーサービスは、苦痛以外の何物でもない。これを能動的に進化させれば、必要性や問題が生じる前にそれらを予測できるようになるのです」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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