David Blecken
2019年6月07日

世界マーケティング短信:広告界は、すでに公平か?

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

マーク・リード氏
マーク・リード氏

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

アジアの広告会社で公平性が悪化

広告会社は過去2年間、職場におけるダイバーシティ(多様性)や公平性の推進について、あらゆる機会を活かしてプロモーションをしてきた。だがCampaignとカンターが実施中の調査からは、状況が悪化していることが明らかになった。

アジア太平洋地域の約300名を対象としたこの調査では、職場で男女が公平に扱われていると回答したのは71%(2017年には84%であった)。女性よりも男性の方がトップマネジメントから優遇されていると回答したのは5割超(同28%)と、大幅に上昇。そして約3割が、ミーティングが男性社員に偏っていると回答した(同8%)。

さらに、セクハラや性暴力の被害を告発する「#MeToo」運動がインドで大々的に報道され、中国、韓国、日本、タイで盛り上がりを見せるようになってから1年になるが、セクハラを経験した、あるいは目撃したと回答したのは男性24%、女性38%で、前年より微増している(この設問は2018年から開始)。

芳しくない調査結果のように見えるが、職場における不公平についての意識が高まり、公正でない行為を指摘することにも積極的になりつつある。詳しい調査結果はこちらから。

WPPリードCEO「CMOが最高コミュニケーション責任者のようになりすぎている」

ロンドンで開催された「実質成長研究所(Institute for Real Growth)」のローンチイベントに、WPPのマーク・リードCEOが登壇。CMO(最高マーケティング責任者)たちはコミュニケーションに焦点を当て過ぎており、幅広く展開するべきマーケティング戦略が犠牲になっていると指摘した。WPPが後援する同研究所は、ビジネスの成長につながるアイデア開発の支援を目指す組織だ。「我々の仕事は、マーケティングという単語に“マーケット”を呼び戻すこと」とリード氏。「マーケティングとは、我々がいる市場はどこで、どの商品をどんな価格で提供するのか、顧客をどのように理解し、どのように予測しているのかを指します。“ブランドメッセージをいかに伝えるか”だけではないのです」

そして「CMOには何ができて、どのように貢献できるのかを再定義」することで、彼らが社内で力を取り戻すことを支援したいと述べた。

リード氏のコメントが示唆するように、バランスを欠いたこの状況を作り出した責任の一端は、エージェンシーにもある。エージェンシーはブランドが常にオーディエンスとエンゲージメントを構築し、世界の出来事に反応しなくてはならないという「オールウェイズ・オン(常にオンでなくてはならない)」の概念を永続させてきた。もっと長期的な戦略に焦点を当てるよう、改めて評価することは理にかなっているだろう。

これとは別に、マーティン・ソレル卿は以前在籍していたWPPをやり玉に挙げることを、今もなお楽しんでいるように見える。最近はWPPは経営の方向性が定まっておらず、リード氏のリーダーシップが欠如していると指摘した。

アマゾンがサイズミックの事業を買収、広告事業強化へ

アマゾンは、4月に破産申請したサイズミック(Sizmek)のアドサーバーとコンテンツ最適化事業を買収した。アマゾンとサイズミックは共通の顧客を多く抱えているとされる。サイズミックはアジア太平洋地域の11カ国に19のオフィスを構え、同地域で大きな存在感を示していた。

一方アマゾンはここ1年間で、グーグルはフェイスブックに挑むべく、動画広告や検索広告のさまざまなフォーマットを導入している。同社の広告事業は第1四半期で3割拡大し、約27億米ドルとなった。

ブランドはポッドキャスト広告への投資額を増やしている

米国の広告主企業は昨年、約4.8億米ドル(前年比5割増)をポッドキャスト広告に費やしたことが、

PwCと米インターネット広告推進協議会(IAB)の調査で明らかになった。ポッドキャスト広告の分野は2021年までに約10億米ドルに達すると見込まれている。この成長を牽引するのは、ポッドキャストのダウンロード時に広告を挿入する「動的広告」など、広告フォーマットの変化が挙げられる。

広告の与える影響は結局のところ、良いのか悪いのか

広告が人生の満足度にどのような影響を与えるのか、英エコノミストが欧州27カ国、約100万人の数十年分のデータを用いて研究を実施。広告費が2倍になると、満足度は3%低下し、広告費と幸福度は反比例の関係にあることが分かったという。調査に携わった研究者は、他にも影響を及ぼした要因の可能性を示唆するが、欲しくても入手できないものの情報に過度にさらされることは、精神面に良い影響を与えないのだ。一方で、購入意欲が仕事の意欲につながっていることも、同調査は指摘する。

このような傾向も、未来世代には一変するかもしれない。既にミレニアル世代は、ラグジュアリーグッズへの関心が低いとされている。もしそうならば、人々のステータスを定義するものは今後一体何になり、それに対して広告はどのように対応していくのかという疑問が生じてくる。

ユニクロの限定商品で中国の店舗は大混乱

ユニクロとアーティスト「カウズ(KAWS)」のコラボレーションTシャツをめぐり、中国のユニクロ店舗では客による争奪戦に発展、その様子を収めた動画が公開された。ユニクロのこの独創的なコラボレーションは、他のファストファッションブランドとは一線を画す、非常に優れた企画といえるだろう。とはいえ、このような展開になることは望んでいなかっただろうが…。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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