Robert Sawatzky
2021年6月10日

企業はパンデミック禍のメンタルヘルスにどう向き合うべきか

何気ない会話やストレス解消のための時間をとることは、メンタルヘルスの課題に対するサポートや偏見の解消につながる。

企業はパンデミック禍のメンタルヘルスにどう向き合うべきか

企業にとって、メンタルヘルスの問題がますます重大な懸念事項になっている。新型コロナウイルスのパンデミックによって、従業員が新たなレベルのストレスと不安を抱えているからだ。

マイクロソフトが昨年9月に発表した「Work Trend Index」レポートによると、APAC地域では、労働者の3分の1が燃え尽き症候群に直面し、特にシンガポールとインドでその割合が高くなっていた。新型コロナウイルス感染に対する恐怖心と、仕事と家庭の区別がつかない状況が、最大のストレス要因になっているという。

一方、香港心理衛生会の調査では、回答者の87%近くが大きなストレスを感じ、香港の労働者の半数近くが不安障害の兆候を示しているということがわかった。

こうした状況を踏まえ、6月2日に行われた「Campaign Connect」のパネルディスカッションでは、Campaign Asia-Pacificの元副編集長で、現在Mind HKのボードメンバーを務めるオリビア・パーカー氏が、パンデミックの影響と企業が従業員を支援するためにできることについて考察した。

「人々のメンタルヘルスに関しては、むしろ影響を与えなかった要素を挙げる方が簡単ではないだろうか。パンデミックはあらゆるレベルで人々の不安をかき立てる現象だと思う」と、Mind HKのCEOで臨床心理士のハンナ・レイディ氏は指摘する。「臨床現場で気づいたのは、勤務先の個人病院に来院する患者たちが、以前よりはるかに支援を必要とする傾向を示しているということだ。また最近では、外来を訪れる患者数の多さにも圧倒されている」

また、あらゆるレベルの従業員がメンタルヘルスの問題に直面しているにもかかわらず、こうした問題を抱えるチームメンバーを支援するのは、専らそのチームのマネージャーの役割だとされることが多い。

フェイスブックで、APAC地域の人事責任者を務めるレイチェル・バートン氏は、マネージャーに要求される仕事が増加している可能性についても、十分な注意を払うことが求められるようになったと話す。

「当社のあらゆる調査データは、従業員が全体としては、会社や上司から非常に大切にされていると感じていることを示していた」とバートン氏は明かす。「だが、それでも自分自身が辛い状況にあるなかで他の人にも気を配ることは大きな負担となる。そこで、我々は各マネージャーに対し、休職制度の活用や困難な状況にある人のためのパフォーマンス評価の調整など、従業員のために用意されている各種ツールを活用できるようサポートしている。またそれに加えて、マネージャーが自分自身についてもケアする方法を見つけられるよう支援もしている」


企業ができること

以上のようなことを踏まえ、従業員のメンタルヘルスの問題を軽減するために、企業は何ができるのだろうか。

さりげなくチェックする。メンタルヘルスについて話すことは、重苦しい面談であったり、計画的なプレゼンテーションであったりする必要はない。マネージャーや同僚は、自分なりのやり方でチームのメンバーをさりげなくチェックすることができる。「必ずしもメンタルヘルスに関する資格や豊富な知識が必要というわけではない。彼らの行動に変化があったことに気づき、優しく声をかけるだけでも、彼らに問題がないか確認するうえで大いに役立つことがある」とレイディ氏は話す。

自身の問題を話す。勇気を持って自分自身の問題を話すことが、他の人を支援するきっかけになる場合がある。また、企業幹部は自身の問題は隠しておくべきだ、というプレッシャーをより強く感じているかもしれないが、告白することでメンタルヘルスに対する組織全体の考え方を変える可能性があると、レイディ氏は指摘する。

必要に応じて追加の支援を提供する。これまでメンタルヘルスについてオープンに話す文化がなかった企業でも、従業員支援プログラムや保険の規定など、メンタルヘルスに関する特別な支援策を導入することはできるとレイディ氏は付け加えた。

ストレスのかかる時期はパフォーマンス要件を緩和する。バートン氏によると、新型コロナウイルスが流行してロックダウンが実施された際、フェイスブックは、従業員がそれぞれの特殊な状況に直面していることに気づいたという。そこで同社はプレッシャーを緩和するために、従業員のパフォーマンス評価のサイクルを半年間中断したという。

従業員に休暇を取らせる。バートン氏によると、フェイスブックは従業員が休暇を取っていないことに気づいたという。理由は、旅行や活動が制限されていて休暇を自由に過ごせないから、というものだ。それでも、仕事から離れた時間を過ごすことは重要だ。そこで、休暇を忘れずに取るよう従業員に呼びかけるだけでなく、一斉休暇日を設定して全員が確実に仕事を休めるようにしたという。

ストレス発散のためにアクティビティを奨励する。チームミーティングをゲームやアート、工作の時間に変更したり、従業員のホームエクササイズ用品の購入補助を行ったりするなど、小さな取り組みでも大きな違いが生まれることがあるとバートン氏は指摘する。

コロナ禍の影響を受けた従業員をサポートする。新型コロナウイルスに感染した家族や友人をケアしなければならない従業員には、そのための時間とサポートを提供することが必要かもしれない。

希望の光

レイディ氏によると、パンデミックがメンタルヘルスに悪影響をもたらすなか、明るい兆しもいくつかあるという。そのひとつは、メンタルヘルスについて話す経営層や従業員が増えたことだそうだ。そうした何気ない会話が、より寛容で理解のある社会の構築につながる。

もう一つは、勤務スケジュールがフレキシブルになったことだ。仕事と生活の境界線が曖昧になるという欠点はあるが、人によっては自分の生活を勤務時間に合わせて調整しやすくなる。

「フレックスタイムを本来あるべきポジティブなものにできるかどうかが、人々のメンタルヘルスにとって非常に重要になるだろう」とレイディ氏は語った。


不安や抑うつ状態への対処、メンタルヘルス維持のためのリソースは、Mind HKのウェブサイトから利用できる。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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