David Blecken
2017年10月20日

危機を乗り越えるコミュニケーション力

相次ぐ日本企業の不祥事。その危機管理能力は向上しているとは言え、決定の遅さや消極性が改めて米国市場などで露見している。

神戸製鋼所の川崎博也社長。10月に東京で開かれた記者会見の席で。(写真提供:AFP)
神戸製鋼所の川崎博也社長。10月に東京で開かれた記者会見の席で。(写真提供:AFP)

「日本」は、長年にわたり品質の高い製品の代名詞だった。だが、トヨタ自動車やタカタ、三菱自動車、そして今度は神戸製鋼所……昨今大企業で次々と発覚する不祥事もまた、紛れもない事実だ。神鋼の品質データ改ざん問題は、米司法当局が調査に乗り出す事態になっている。

危機に直面した際、メディアや顧客とどのようなコミュニケーションをとるべきなのか。それを十分に理解しているか否かが、企業の信用を回復できるか、はたまた失墜させるかの大きな分かれ目となる。神鋼の株価は、醜聞が明るみに出た10月上旬から40%近く下落した。

こうした状況を背景に、Campaignは今週来日していたWPPグループのコミュニケーション・コンサルティング会社フィンズベリーのマイケル・グロス副会長を取材。ニューヨークを拠点に活動する同氏に、日本企業が米国など海外主要市場でコミュニケーションをとる際の強みや弱点、そして必要な要素などについて意見を聞いた。フィンズベリーはこれまでトヨタやソフトバンク、住友グループ、武田薬品などの日本企業と協働している。

マイケル・グロス氏

コミュニケーション的観点から、神鋼は今回の危機にうまく対応していると思いますか?

まだ不祥事が発覚して日が浅いので、今後の成り行きを見極めねばならないでしょう。問題が明るみに出てから神鋼は、「社内調査をしている段階なので、不用意な発言は控える」と言っています。彼らは万全の準備を整えなければなりません。取引先や顧客からの申立てを想定し、事実を全て把握した上で、あらゆる不測の事態に備えた厳密なシナリオを描かなければならない。今回の悪影響は国内で収束するかもしれませんが、世界レベルに広がることも否定できません。したがって全てのオーディエンスや市場を考慮した、あらゆる偶発的事態への対処を練らねばならないのです。

日本企業は危機管理能力が向上していると思いますか?

いくつかの企業はそうです。トヨタは、特にリコール問題に関して過去の経験から学んだと断言できます。一般的に言えば、日本企業ではいまだにコンセンサスが優先されるため、事業の推進やコミュニケーション戦略で動きが遅いという課題を抱えています。各企業の海外における統制力もばらつきがあり、それが危機への対応を困難にしています。危機というのは、本質的にあっと言う間に広がってしまいますから。管理職の人々は事態を隅々まで注視し、どのようなメッセージであれ、それが真摯なものだと十分確認してから発するべきです。それは企業買収の際でも同じでしょう。トランプの時代となり欧州でも保護主義者が増えている今、業績に影響を与えるステークホルダー(利害関係者)とは別に、政治的状況にも配慮しなければなりません。

効果的なコミュニケーションに必要な要素は、日米間で劇的に変化していると思いますか?

米国企業に起きる危機は、往々にして「文化的」なものです。フォックスやウーバーにおけるセクシュアルハラスメントがその実例です。こうした企業文化への関心の高さは、米国市場で非常に重要な要素です。フェイスブックやグーグルのように評価の高い企業であっても、より説明責任が問われています。説明責任を求める声はますます大きくなる傾向にあり、米国で事業をする日本企業はこの点を良く理解しなければなりません。訴訟を巡る環境もより複雑化しており、必ずしも日本とは同じではありません。株主の社会活動も活発になっています。彼らからすれば、「どんな大きな企業でも、チャレンジできない企業はない」というわけです。最近ではP&Gが「物言う株主」から挑戦を受けました。こうした風潮はいつ日本に伝播するか分からない。日本企業も十分に配慮するべきでしょう。

グロスさんは数十年にわたって日本企業と仕事をしてきました。危機管理により賢明に対処するため、日本企業のコミュニケーションへのアプローチはどのように変わったと思いますか?

私の見解では、トヨタはリコール問題の後、信用を回復するために素晴らしい仕事をしました。2010年、彼らは衆目を浴び、複雑な訴訟に直面していた。その教訓として、米国でのビジネスとコミュニケーションの方法を変えたのです。特に自社の「ストーリー」を伝えるという点で。それまではストーリーを株主に理解させる努力を、車の品質に注いでいたほどしていなかった。そして、より積極的にストーリーを伝える必要性に気づいたのです。トヨタは今、非常に能動的な企業になりました。

日本の平均的な企業はストーリーテリングに積極的ですか?

一般的に言えば、そうではありません。全ての面で一貫的なコミュニケーション戦略を必ずしもとってこなかった。企業によって違いはありますが、概して日本企業は海外企業のベストプラクティスに学ぶことができるでしょう。コミュニケーションというのは、まだ日本企業にとって不慣れな技法なのです。文化の違いや日本人の控えめな気質がその背景にありますが、結果的に説明不足に陥ってしまいます。

「寡黙」であることの利点はあるでしょうか?

もし企業に問題があった場合、それを自身の言葉で釈明しなければ、その企業に対して敵対的な第三者が勝手なストーリーを捏造してしまう危険性がある。我々は法律事務所と協働しているので、「沈黙は常に最善策ではない」ということに日本企業も気づき始めています。コミュニケーションのプロたちと仕事をすることで、裏舞台でメディアを諭すメッセージを発し、要点をつかんで裁判沙汰になる前に風評被害を防止することができる。こういうことに弁護士たちも気づいたのです。

日本企業に限らず、コミュニケーションの上で企業が犯しやすい共通の過ちは何でしょう?

問題の悪影響を過小評価してしまうことです。責任を部下や若い社員に押しつけたり、世間の反応に鈍感だったり……。誤った発言をしてしまうのは、顧客に対する無神経さの証でしょう。事の重大さを認識しないケースもあります。同様に、拙速な行動をとり、後で撤回に追われて企業を窮地に陥れるケースもある。消費者信用サービスのエキファックス社は、危機を悪化させてしまいました。インフラストラクチャーが不完全であったのに、問題の解決をカスタマーに押しつけるという大きなミスを犯したのです。これは、今申し上げた無神経な対応の典型です。

危機管理の際、正しいメッセージを送るという点でCEOの役割はどれほど大きいのでしょう?

説明責任に対する要求が強まる中で、CEOは企業のリーダーとしての自覚を強く持たなければなりません。いつ、どこで衆目を浴びればよいのか、抗弁するべきか否か……こうした判断は彼らが下さなければならない。コミュニケーションアドバイザーも、どのような状況にCEOを置けばよいのか正しい判断が求められます。コミュニケーション担当者は、CEOの長所と弱点を注意深く判断しなければなりません。時にはCEOを記者会見に出すよりも、文書で声明を出す方がよいときもあるのです。こうした過ちを我々は数多く見てきました。BP(ブリティッシュ・ペトロリアム)の石油流出事故を思い出してください。BPのCEOは現場に行く必要性を感じ、不適切な発言をしてクビになったのです。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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