David Blecken
2016年5月30日

「昨年度最大の頭痛のタネはステマ騒動」~ ベクトルの西江肇司が振り返る

「PRWeek」のエージェンシー・ビジネス・レポート(Agency Business Report)のインタビューで西江肇司氏は、スキャンダル対策や、動画コンテンツ制作事業への参入、そして同氏が賞を気にしない理由について語った。

西江肇司氏
西江肇司氏

世界324社のPR会社の業績を評価した同レポートで、ベクトルは24位にランクインした。収益は前年度比22%増で8200万米ドルだったベクトルは、東京、香港、上海、北京、ジャカルタ、シンガポール、バンコク、ホーチミン、台北に450人のスタッフを抱える。

同社以外でランクインした日本企業は、43位の電通パブリックリレーションズで、推定収益が4400万米ドルだった。

2015年度は、ベクトルがコンテンツ制作に焦点を定めた年でもあった。同社は株式会社ビデオワイヤーという子会社を設立。西江氏はいずれビデオワイヤーが提供するサービスが、書面のプレスリリースに取って代わる存在となると考えている。

クライアントはビデオワイヤーを使うことで、オンライン動画コンテンツの制作と配信が可能になる。つまり、通常は記者会見や展示会といったイベントで発信していたメッセージを動画コンテンツ化するわけだ。ベクトルは、記者会見の企画・開催費の代わりに、コンテンツのネット配信や予算に合ったターゲット層にリーチすることで収益を上げる。

西江氏によると、およそ5カ月間に約200社のクライアントが同サービスを利用したという。ほとんどはプロジェクトベースでの依頼だった。年度末までに利用クライアント数は1,000社に達すると同氏は見ている。「特に重要だったのは、ベクトルがラグジュアリーブランドにサービスを提供できるようになったこと」と西江氏。現在、フェラーリ、イケア、ラフォーレといったクライアントが同社のサービスを利用する。ラフォーレは香港や台湾から訪日する消費者にアピールする目的で、同サービスを使っている。

ビデオワイヤーのサービスがクライアントにとって重要なのは、プレスリリースと違い、メディアにも消費者にも直接アピールすることができるからだ、と西江氏は話す。さらに、製品のプロモーションについても、クライアントがより多くのことをコントロールできるようになる。「通常、記者会見には公式キャラクターとして(タレントやスポーツ選手などの)有名人が登場するため、メディアは往々にしてブランドや製品を無視し、有名人の方ばかり取り上げてしまう」と西江氏。ビデオワイヤーにはこのような傾向を是正するねらいがある。ただし、製品カットが氾濫すると視聴者は好意的に反応しないので、サービス利用時には注意する必要があるだろう。

ここ5年間でベクトルは着実に成長してきた。西江氏はその要因について特に言及しないが、これは注目すべき点だ。同社の子会社で、ニュースリリース配信サービスを提供する株式会社PR TIMESは3月に東証マザーズに上場した。

ベクトルが直面した最大の課題は、有料プロモーションの出稿を編集記事のような体裁で行うステルスマーケティングを、クライアントのために実施したと報じられたことだ、と西江氏。ビジネス誌がこの疑惑について否定的な報道をしたことで、ベクトルの株価は一時的に下落した。しかし株価はその後回復し、クライアントの関係にも影響はなかった、と振り返る。

ベクトルは日本のPR会社としては数少ない、海外進出を果たしたエージェンシーだ。同氏は、国内でも30%の成長がある、と言及しつつ、海外事業はベクトルの全事業の10%にとどまる、と話す。クライアントの多くは日系企業だが、現地企業から依頼を受けることもある。

同社には受賞歴がないが、そもそも賞は西江氏にとって重要な意味を持たない。クリエイティブな仕事をして賞を受賞するよりも、ビジネスにおいてクリエイティブになりたい、と同氏は語る。ベクトルは過去12カ月間で約100人のスタッフを雇用。しかも、その多くはPR経験を持たない人だという。

これは、業界全体を活性化させ、よりクリエイティブにしていくことを目的としている。カンヌで賞を獲ることを狙っているのではない。依頼されたことをこなすだけの存在でなく、クライアントにとって真に有意義なパートナーとなることが、西江氏の目指す姿だ。

テクノロジーのおかげでPR会社は今まで以上に攻めの姿勢でチャレンジできる、と考える同氏がこの好機を見逃す術はない。ビデオワイヤー設立を足掛かりに、来年度はクライアントに代わってキャンペーン専属の有名人をキャスティングする事業を、開始することが最優先事項だ。

西江氏はベクトルを他のPR会社と比較せず、WPPのようなホールディング会社や、テクノロジー系のスタートアップ企業の動向からインスピレーションを得ているという。「(日本の)従来的なPR会社は、PR活動しかできません。動画制作も、インターネットやソーシャルネットワーク事業も、あまり得意ではない。私たちは別のアプローチをしており、自分たちならではのやり方を模索しているのです」

(編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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