Robert Sawatzky
2019年10月02日

田辺俊彦氏「浅はかなパーパスキャンペーンが業界を台無しにする」

見せかけだけのコーズブランディングを、消費者はすぐに見抜く。アワードの審査員もそうあるべきだ、と電通の田辺俊彦氏が指摘した。

田辺俊彦氏「浅はかなパーパスキャンペーンが業界を台無しにする」

ブランドはもっとパーパス(ブランドの存在意義)が必要だ、コーズ(社会的な大義)が無くては消費者との関係構築はできない――このように言われている。これを裏付けるさまざまな消費者調査もある。カンヌ審査員を務めた電通のクリエーティブディレクター、田辺俊彦氏によると、カンヌでグランプリを受賞した21作品のうち、実に16作品がコーズに関連したキャンペーンであった。

我々はだれもが、有意義な仕事をして成功したいと思っている。だがそれも収集がつかなくなりつつあると、田辺氏はスパイクスアジア2019で語った。

「これが一体、今取り組んでいるブリーフと何の関係があるというのか?」

2週間ほど前のこと、都内の電通オフィスで開かれた会議には、ライター2名、アートディレクター、エグゼクティブ・クリエーティブ・ディレクター、デジタル担当、そして田辺氏が出席していた。そこで提案されたアイデアは、次の通りであった。

・熱帯雨林を守る

・アルツハイマー型認知症と闘う

・国内の過疎地の経済発展を支援する

「要するに、彼らは世界を救おうとしていたのです」と田辺氏。しかしこのブリーフはNGOによるものでも、あるいはナショナルジオグラフィックのようなクライアントによるものでもなかった。「この日取り組んでいたのは、ブランドの新しいフレーバー(マカロニ&チーズ味)を紹介する、という案件だったのです」

田辺氏は、これがどこのブランドの案件なのかは明かさなかったものの、このような強引なブランドパーパスによって、浅はかなキャンペーンが企画されるのだと指摘した。女性に対して男女間賃金格差の分を割り引いて販売したビールブランドや、巨大な容器入りの炭酸飲料を購入してくれたら若年糖尿病の支援基金に1ドル寄付すると申し出る飲料メーカーなどが、その例だ。

めっきはすぐに剥がれる

消費者はこのようなでたらめを、いとも簡単に見抜く。そして見掛け倒しのキャンペーンは無視されるか、最悪の場合はブランドを毀損することもあると、田辺氏は指摘する。

また、いくら妥当なコーズであっても、それがブランドに真に根付いたものであり、CMOが交代しようとも継続されていく活動でなければ、消費者は問い続けるだろう。過去数年間何もしてこなかったのに、なぜこのコーズに関与するのか、と。「この問題は消費者にとっても、ブランドにとっても重要だと言うけれど、一体いつからそんなことを言い出したのか?」と。

「ブランドとの深い結びつきが何も無い(コーズ関連の)キャンペーンであることがほとんど」と田辺氏。「『パーパスキャンペーンを試みたが、うまくいかなかった』と片付けてしまうクライアントのために、我々が長年にわたって注いできた情熱や、築いてきた信頼関係が、犠牲となるのです」

さらに、コーズ関連のキャンペーンを実施しているブランドを、正確に答えることができた消費者はわずか12%だったという。ブランドが何を支持しているのかが一貫していないことが多いという。

それはブランドと深く関連したコーズなのか?

パーパスキャンペーンの素晴らしい例として、田辺氏は2つ挙げた。まず一つは、ボルボ「E.V.A.プロジェクト」で、事故から女性を守るため、調査データを他の自動車メーカーにも公開するというもの。もう一つは、イケアの「ThisAbles」キャンペーンで、身体に障害のある人にとって同社家具が使いやすくなる補助器具を、3Dプリンターで出力できるよう開発した。これらのキャンペーンが成功したのは、ボルボは安全に関するイノベーションに1970年代から取り組んできたことが広く知られており、またイケアは機能的な家具を手ごろな価格で提供することがブランドの本質だからである、と田辺氏は主張する。

「パーパスは、ブランドに深く根差したものであるべき」と述べた田辺氏は、自動車メーカーからモビリティーカンパニーへの移行を映す、トヨタの複数年にまたがるキャンペーンを紹介した。

パーパスキャンペーンとは、一時的に実施するものではなく、何年もかけて行うもの――。このように指摘する田辺氏は、スパイクスの審査員たちに向けてくぎを刺した。

「見掛け倒しなパーパスキャンペーンがあったらそれを指摘する賢明さが、ここにいる審査員たちにあると信じています」

(文:ロバート・サワツキー、翻訳・編集:田崎亮子)

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