David Blecken
2018年6月07日

「責任ある広告」を考える(パートⅠ: データ)

5月に東京で開かれたグローバルマーケターウィークで、Campaignは世界有数の消費財メーカー幹部たちに「広告主はどうすればより良い企業市民になれるか」を問うた。3回シリーズでお送りする第1回は、「データ活用の責任」をテーマに取り上げる。

「責任ある広告」を考える(パートⅠ: データ)

ビッグデータ:「悪夢」と化した理想

フェイスブック利用者の個人データがケンブリッジ・アナリティカ社によって不正流用されていた問題は、様々な激しい論議を巻き起こした。ようやくそれも下火になってきたようだが、このスキャンダルを契機に、一般消費者は企業が個人データをどのように利用しているのか不安視するようになったことは否定できない。欧州連合(EU)が導入した一般データ保護規則(GDPR)は、制御不能となったインターネットの世界に秩序を取り戻すための最初のステップと言われている。

マーケティング的見地に立つと、現在の状況はどれほどひどいものなのか。その意見は様々に分かれるようだ。ユニリーバでグローバルマーケティングとメディア、及びeコマースの相談役を務めるジェイミー・バーナード氏は、「人々の懸念は行き過ぎ」と語る。「消費者はマーケターがプライバシーを破壊していると考えていますが、広告の世界で個人データがどのよう機能するのかを理解していない。ですから最悪の事態を想定するのです」。広告は主としてクッキーのデータを利用するが、「その結果プライバシーを侵害することはほとんどありません」。

反対意見もある。「フェイスブックを利用する主要ブランドは、本質的にケンブリッジ・アナリティカと似た手法を長年とっていることを忘れてはなりません」と話すのは、大手食品会社マース(Mars)のパブリックアフェアーズ担当バイスプレジデントで政治家としての経験も持つマティアス・バーニンガー氏。「マーケティングはデータ活用によって、予測がつかない巨大なインパクトを社会に及ぼす『小さな怪物』を生み出してしまった。広告主はまだそのことに気づいていません」。

「我々はばかばかしいほどの大金を注ぎ込み、逆効果を生むシステムを作り上げてしまったのです。そして果たさねばならぬ役割と責任に背を向けようとしている。社会を窮地に陥れるようなプライバシーの破壊を行っているのです」。

結果、「ターゲットを高度に絞った広告を実現するという大きな理想が、悪夢となってしまった」。その原因の1つは、消費者が過度にパーソナライズされた広告を必ずしも求めていないことにある。そして、個人データの管理の不徹底。世界広告主連盟(WFA)によると、消費者が1本のオンライン広告を受け取るまでに、配信を可能とする個人データに平均50社が触れるという。

バーナード氏は、2025年までにデータ活用は10倍近くまで増えると予測する。より確立されたオンラインプラットフォームはもちろん、生体や音声、人工知能(AI)データへの利用が進むというのだ。「ケンブリッジ・アナリティカのようなケースが更に起きることは避けられないでしょう」。GDPRは「押しつけがましいマーケティングを減らし、変革のきっかけになり得る」と肯定的に捉えるが、「一般消費者は受け取ったプライバシーポリシーを読まない、という点を見落としている。つまり消費者は理解できないことに同意することになります」。

「(プライバシーポリシーは)誰も読まないと分かっているのだから、茶番でしょう。GDPRは、消費者が有意義な選択をするという前提で作られている。それが無理なことは、皆分かっているはずです」。最大の成果は、プライバシーポリシーを読まずとも誰が何の情報にアクセスできるか、消費者が選択できることだという。「そうしたレベルの選択が消費者にとって可能となるよう、我々企業は協力して手段を見つけ出すことが責務です」。

バーニンガー氏も、各自が個人データの「全権を持つべき」という点に同意する。「消費者の信頼を回復するための鍵となるのは透明性。その向上にGDPRは役立つでしょう」。そしてこうも付け加える。「広告主にとって、デジタル経済に参加する権利ほど重要なものはありません。そのためには当局との協働が不可欠です」。

「一時は同僚と、『GDPRはこの世で最悪の規制』などと話していました。当局がわざわざゲームにルールを加える必要はない、と考えたからです。だがそれは間違った見方でした。デジタル界を正しい方向に導くため、我々は当局をサポートしていかねばなりません」

バーナード氏は更に、「民間企業が持っているデータは世間の利益のために活用できる」と指摘する。これは重要なポイントだ。その例として同氏は、ボーダフォンのユーザーデータがガーナで疫病の拡大阻止に貢献したことを挙げた。「マーケターは、過ちを犯した際に謝罪の気持ちを大げさに示すだけでは不十分なのです。道徳的規範を重視し、高めていく努力をしなければなりません」。

「マーケターがそういう姿勢でなければ、もっと消費者の機微に触れるような広告コンテンツを作ろうという気概は衰えていくでしょう」。こう語るのは、ペプシコでグローバルパブリックポリシーと政府関連業務を担うシニアバイスプレジデント、フィル・マイヤー氏。「一般的な消費者は、長期的視点に立ったオンラインマーケティングを『開拓時代の米西部(Wild West)』やブラックボックス、すなわちルールがまったくない世界と捉えています。フェイスブックのスキャンダルがきちんと解明されなければ、企業への不信感は増すばかりでしょう」。

「重要なのは、メッセージの伝達手段で消費者から批判を受けてはならないということです。それはメッセージ内容に関してもしかり。だがこの問題は、企業が単独では解決できません。業界全体で協力していかねばならない課題です」。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

パートⅡでは、健康に害を及ぼす危険のある食品広告の倫理性を考えます。

提供:
Campaign Japan

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