David Blecken
2016年11月02日

電車内での化粧マナーCM、賛否両論で効果は上々

東急電鉄は、電車内で化粧をする女性を取り上げたCMを制作。ちまたに溢れる退屈な乗車マナー広告とは一線を画すことに成功した 。

電車内での化粧マナーCM、賛否両論で効果は上々

日本人のイメージを世界の人々に問いかければ、「礼儀正しい」という答えが多く返ってくるだろう。そんな日本だが、いまだに公共の場所での分別ある行動を呼び掛けるメッセージが、至る所で目に留まる。そのことに多くの外国人は驚きを覚える。

駅でよく見かけるのは、「混雑した車内では荷物は前に抱えましょう」「酔って線路に落ちないようご注意ください」「暴力行為はおやめください」などだ。こうしたメッセージはそのまま文字通りに伝えられることが多く、ピクトグラムでの掲示や、模範的な市民らしき人物が諭すような動画が用いられる。

しかし、東急電鉄が先週公開した動画広告は一味違っている。混雑した電車内での化粧は控え、外出前に自宅で済ませるよう呼びかけるもので、女優の仁村紗和氏を起用。仁村氏の扮する女子学生が「都会の女はみんなキレイだ。でも時々、みっともないんだ」とつぶやき、化粧に没頭する女性の前で踊りだす。そして「あなたの変身見られてます」と冷やかし、「お出かけ前になぜできない」と問いかけ、車内で化粧するという行為を非難する。

このCMをきっかけに電車内のエチケットについて議論が起き、マナーの悪い乗客への不満が次々に飛び出している。東急電鉄は「わたしの東急線通学日記」シリーズとして、荷物の持ち方や整列乗車、歩きスマホといったテーマも取り上げているが、中でもこの「車内化粧」が圧倒的に注目を集める結果となった。シリーズの動画はいずれもウィットに富むものだが、さほど挑発的ではなく、「車内化粧」のように大きな反響は起きていない。

東急電鉄は、車内での化粧を控えるよう呼びかけたこのCMはおおむね前向きに受け止められているとしている。しかしソーシャルメディア上では、「乗客が鉄道会社から批判される筋合いはない」といった怒りの声が相次いで投稿された。中には、女性の乗客だけをターゲットにし、ひとくくりに「みんなキレイだ」としたのは性差別だという書き込みも見られた。堂々とポルノ雑誌を読むことや、酒臭さ、止まらない汗を拭い続けるといった男性のマナー違反も指摘すべきとの声も上がっている。

オグルヴィ・ジャパンのコンテンツディレクター、関満亜美氏は、女子高生がウナギに姿を変える広告が物議を醸したのと同様に、この広告が「無意識に性差別してしまっている」と指摘する(関連記事:「ウナギ擬人化」批判に見る、女子高生の広告への飽和感)。「電車で化粧をするのは『みっともない』と断じた点は問題だと思います。それって、わざわざ鉄道会社から指摘されなくてはならないことでしょうか?」

関満氏は同時に、マナーの向上を訴える広告の必要性も認める。「ニューヨークの地下鉄であれば、マナーの悪い乗客は誰かに注意されるでしょう。でも日本では、乗客は黙って我慢しており、マナー広告は意識向上を促すものとして歓迎されています」

東京で大手の多国籍ブランドのマーケティングを担当する野村モナ氏は、東急電鉄のアプローチに不愉快さよりむしろ娯楽的要素を見出している。同氏はこのCMには「日本人の受動的攻撃性が鮮やかに描かれています」と評する。

要するに、痛いところを突けば中には憤慨する人もいるだろうが、注意喚起の方法としては効果的ということだ。「公共マナーの広告として穏やかとはいえないアプローチを、多くの人が自分のこととして受け止めました。普段から思っていても、決して口にしないことですから」と野村氏は語る。「賛否両論はあるものの、このように話題になったことで、暗黙のルールを破る前に再考させる効果が生じました。東急電鉄としては狙い通りではないでしょうか」

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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