Yiling Pan
2019年4月04日

訪日中国人旅行客の化粧品購入事情

爆買いが影を潜めたのは悩ましいことだが、小売店にとっては朗報も。

資生堂は、中国人の女性買い物客に最も人気の高い化粧品ブランドだ (写真:Shutterstock)
資生堂は、中国人の女性買い物客に最も人気の高い化粧品ブランドだ (写真:Shutterstock)

中国の景気後退と旅行客の支出減、代理購入業者(商品を大量に購入して本国で売りさばく)に対する中国政府の厳しい取り締まりの結果、日本の高級品小売業者はあまり良い年明けを迎えられなかったようだ。そんな状態は今後もしばらく続きそうであり、小売業者にとっての打開策は新たな成長のチャンスを模索することだろう。その一つが化粧品で、高級品に比べて景気の波の影響を受けにくく回復力もあるため、不況に強いと長年言われてきた。

カンター(マーケティング会社)の中国オフィスによる新たなレポートには、日本を訪れる中国人富裕層が化粧品の購入に関心を持ち続けていることが示されている。このレポートはまた、中国人女性の化粧品に対する嗜好について、洞察に満ちた情報も提供している。

まずは、多くの高級デパートやショッピングモールにとって少し嬉しい情報から。中国人消費者はオーセンティック(真正)かつローカルな買い物体験を得るため、デパートやショッピングモールで購入することが判明したのだ。調査に応じた人たちの44%が買い物場所の第一候補として、デパートやショッピングモールを挙げている。そして22%が免税店、13%が空港、11%がアウトレットモール、10%がドラッグストアと続く。

レポートによれば、中国人女性が購入する店を決める要素は、質の高いサービス、割引価格、品揃え、限定版の有無、無償サンプル提供の5つになる。これらがデパートやショッピングモールの人気の高さを、裏付けているのかもしれない。

レポートには中国人に人気のブランドランキングも紹介されており、日本のみならず、海外のトップブランドも名を連ねている。最も人気が高かったのは資生堂とポーラで、どちらも日本のブランドだ。3位は米大手のエスティ ローダーで、僅差でこれに続くのがDHC(日本)とSK-Ⅱ(日本)。以降、フランスのランコム、韓国のプレミアムブランド「ソルファス(雪花秀)」、フランスLVMHグループ傘下のゲランと続く。9位と10位を占めたのは資生堂の高級ブランド「クレ・ド・ポー ボーテ」と花王のスキンケアブランド「キュレル」であった。

さらに、中国人女性はお気に入りの商品にネット上でニックネームを付けることが好きだと、レポートは伝えている。例えば資生堂アルティミューンのパワライジング コンセントレート(美容液、70~130米ドル)はその容器の形状から「赤インゲン豆」、SK-Ⅱのフェイシャルトリートメント クリア ローション(化粧水、76米ドル)は「不死の水」、そしてコスメデコルテのヴィタ ドレーブ(化粧水、95米ドル)は「バジルウォーター」といった具合である。ブランドがこれらのニックネームをうまく活用すれば、中国から訪れた消費者とのエンゲージメント構築に有効だろうとカンターは示唆する。

中国経済の先行き不安にもかかわらず、今のところ化粧品需要に陰りが見えていないことは、日本の業界にとって大いに喜ぶべきことだ。そして、化粧品は他の高級品に比べてサイズが小さく、スーツケースにきちんと収まるので、帰国時の税関検査を通過しやすいのも利点だろう。レポートにもあるように、中国人消費者の化粧品購入動向を理解することは日本のあらゆる小売業にとって、この不確実な時代を乗り切る上でとても重要だろう。

(文:イーリン・パン 翻訳:岡田藤郎 編集:田崎亮子)

この記事は、中国の富裕層を対象にしたニュースサイト「精日传媒(Jing Daily)」に掲載されたものです。

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