Kate Magee
2021年5月21日

エージェンシーの長時間労働に終止符を打つには

長時間労働の文化を生む原因には、エージェンシー自身の努力や工夫で改善できるものもあれば、できないものもあるが、本記事ではエージェンシーが自ら実行できる改善策を提案する。

エージェンシーの長時間労働に終止符を打つには

1. ピッチの時間管理を改善する

ピッチ当日の朝3時まで仕事をしていたという話を聞くと、こんな疑問が浮かぶはずだ。「どうしてもっとうまく時間を管理しなかったのか」と。クリエイティブ担当者が土壇場で最高のアイデアを思いつくのは、ごくたまになら許されるが、常態化してはいけない。ピッチに向けた準備は早めに着手し、スタート時点から主要なメンバーを巻き込み、深夜や週末に働くのは当然という考えは捨てなければいけない。人の上に立つ人間なら、自分がスケジュールを守れなければ全体の進捗の妨げになるということを自覚してほしい。

2. 時間をかけるピッチを選別する

「自社への評価にはプラスになりそうでも、割に合わない案件のピッチを行う場合は、かける時間を制限し、実行可能な最小限の提案内容とすべきだ」と、オジャーズ・ベルンソン(Odgers Berndtson)のジュリー・マッキーン氏は語る。重要度に関係なくすべてのピッチに同じ手間暇をかけてはいけない。自己満足は避けよう。また、時間をかける価値のあるピッチはどれか、自社の業績に貢献する案件はどれかを、見極める能力を養うことも重要だ。

3. 会議を減らす

エージェンシー業務における時間管理を改善しよう。AMV BBDOのCEOを最近退任したサラ・ダグラス氏は、「各自の望ましい時間配分について、皆が自由に意見を言えるようにしたい。そうすれば、丸1日を会議に費やして、午後6時にようやく実務を開始するというような事態は避けられる」と語る。AMV BBDOは、従業員が自身の働き方に、より意識的になれるよう支援する取り組みを開始した。その中には、メールの送信先から不必要なアドレスを外すことや、自分が貢献できない会議を欠席することを奨励する「ジャンプ・シップ(離脱)」などが含まれる。「単なる業務とその成果を混同してしまいがちだが、実際は、自分が貢献できる場所にだけいればいいのだ」とダグラス氏は指摘する。

4. やめ時を知る

クリエイティブな業務の場合、やめるタイミングの判断が難しいこともある。しかし、完璧主義はチームの迷惑になりがちだ。仕事でベストを期すなら、リハーサルを行い、またプレゼンの前には休息を取れるよう、時間を残しておく必要がある。五輪レベルのアスリートでも、重要な試合の前日にはトレーニングをせず体を休ませる。ミロマ・グループ(Miroma Group)のマーク・ノールCEOもこう語る。「脳には休息が必要だ。牛から乳を搾りたいなら、牧草を食べさせる必要があるのと同じように」

5. ビジネスの目的を明確にする

仕事の各パートを担うスタッフに全体的な文脈を説明すれば、どんな協力の仕方がより有意義になるかを予測できるため、チームワークがより効果的になるとオジャーズ・ベルンソンのマッキーン氏は指摘する。同氏は一人一人のスタッフに対し、担当する各タスクが事業においてどんな文脈の上にあるかを、上司から説明してもらうように勧めている。そうすれば「より良い作業方法が理解できるだけでなく、優先すべきものとそうでないものを区別できるので、時間をうまく管理できるようになる」。またリーダーに対しては、マクロ戦略を策定する際にもチームの若手を参加させるよう求めている。「そうすれば、彼らのコミット度合いがまったく変わってくる」

6. 承認プロセスを簡略化する

エージェンシーが複雑な承認プロセスに依存しすぎると、時間を浪費してしまう。部下を信頼し、クライアントとの強固な信頼関係を築くことで、迅速な意思決定が可能になる。スペックセイバーズ(Specsavers)のニコラ・ワーデル氏が指摘するように、クライアントとの関係性が近いほど、チームの効率性を高めることができる。

7. 健全なコミュニケーションを習慣にする

リーダーシップとロールモデリングが重要だ。「メールの送信を業務時間内に限定する。これを管理するためには、メールの送信予約機能を使うといい」と、ナブ(Nab)のキャリア部門を率いるウズマ・アフリディ氏は語る。「また、業務に使用できるコミュニケーションチャネルを明確に限定しよう。そうすればスタッフは、業務時間外に私用のメッセージチャネルに届いた業務連絡に、返信しなければといったプレッシャーを感じずに済む」

8. 先を見越して仕事量を調整する

過労気味のスタッフや、病気の子を抱えるスタッフに気づいたら、積極的に関与しよう。中には、限界に達するまで自身に問題があることに気づかない人や、言いたがらない人がいるかもしれない。クワイエット・ストーム(Quiet Storm)の共同創設者、ラニア・ロビンソン氏は、部下が自身で仕事量を管理できるように支援している。「負担が重すぎると思われる場合は、担当する量を減らす。(誰かに過度の負担がかかる状態は)健全とは言えないし、そんな働き方は長続きしない」

9. 働き方にも創意工夫を

ミロマ傘下のエージェンシーのひとつが、米大手企業との業務のため、夜間に対応するスタッフを必要としていたので、ノールCEOは、スタッフのタイムシフトを組んだ。「昼に始業することになったスタッフは、朝9時、10時まで寝ていられると喜んでいた。そうした働き方ができない理由はない。業務体制を整えるためには、柔軟に想像力を働かせる必要があるのだ」とノールCEOは語る。

10. 公私の線引きを尊重する

「テクノロジーの発達によって、週7日、一日24時間の仕事が可能になり、競争も激しくなっている」と、ビヨンド・コレクティブ(The Beyond Collective )のグループCEOを務めるザイード・アル=ザイディ氏は指摘する。だからこそ、各自が公私の区別をしっかり線引きすることも必要だ。大切なプライベートを仕事で犠牲にしてはいけないし、それをすると後悔することにもなる。フリーランスのコミュニケーションディレクター、ヴェロニク・リース=エバンス氏が、ビジブルPR(Visible PR)創業者で友人でもあるラーラ・レーベンタール氏から聞いた話を、2018年のCampaign記事で明かしているが、それは公私の線引きのうまい忠告ともなっている。「子どもの学芸会を見逃したことはずっと忘れられないが、何の仕事のせいで行けなかったのかは覚えていないものだ」

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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