ピュブリシス・ワンは、フロリアン・トリポリノ氏を日本のマネージングディレクターに任命した。同社は昨年、ピュブリシス・グループ傘下の広告代理店各社を統合するグローバル戦略の一環として設立され、ビーコンコミュニケーションズ、サーチアンドサーチ、MSLグループインジャパンから成る。
トリポリノ氏はフランス系イタリア人で、日本に赴任したばかり。直近では、シンガポールのピュブリシスでアジア太平洋地域におけるグローバルクライアント向けビジネスを統括していた。フランスやドイツ、ロシアでBBDO、ヤング・アンド・ルビカム、ジェイ・ウォルター・トンプソンといった代理店に勤務した経験もある。
ピュブリシス・ワンにおけるアジア太平洋地域CEOは元ビーコンコミュニケーションズ社長、ニコラ・メナー氏。トリポリノ氏と同様、東京を拠点とする。同社のクライアントはP&G、ロレアル、マクドナルド、マールボロ(フィリップ モリス)、スミノフ、ミニ、レクサス等々。ピュブリシス・グループ傘下には多くの広告代理店があるが、互いに連携が取れていなかったため、クライアントからは複雑で非効率的だとの不満が出ていた。ピュブリシス・ワン設立の主たる目的は、こうした状況を改善するためと言える。日本ではエリック・ヘス氏がMSLグループのマネージングディレクターとして続投するが、ビーコンコミュニケーションズとサーチ・アンド・サーチには個別の経営トップは置かない。
トリポリノ氏によれば、ピュブリシス・ワンは日本で多国籍ブランドのサポートに注力していくとのこと。多国籍ブランドへの対応は国内クライアントとは異なり、日本市場に対する洞察力とグローバル戦略への理解が求められる。
同氏は、1月に赴任したばかりで「まだ日本市場に関する所見はありません」。一方でこれまで培った国際的経験を生かし、日本市場に新たな視点を持ち込むことが期待されている。多くの広告代理店トップ同様、トリポリノ氏も多国籍ブランドが日本市場で再び投資に力を入れ始めていることを認識している。その背景は中国市場の不安定さであり、日本の安定性や豊かさ、そして教育水準が高く、他のアジア諸国に比べてブランドへのロイヤリティが高い消費者の存在などだ。
同氏のもう1つの役割は、ピュブリシス・ワン傘下の各社それぞれの強みや専門性を維持し、かつ、できる限り効果的にクライアントのニーズに応えられるような協力体制を確立すること。それを遂行するための環境は、「日本は比較的、整っています」。その理由は、既にビーコンコミュニケーションズがスターコムやゼニスオプティメディアといった複数の広告代理店を統合していること。メディアバイイングにおけるビーコンコミュニケーションズと電通との協力関係も維持していく方針だ。
ピュブリシス・ワンは、単一の損益モデルによる事業運営に特徴と強みがある。つまり意思決定は、「4〜5人ではなく、1人によって行われるのです」とトリポリノ氏。これは理論上、クライアントの課題解決には自社の利益よりも「何をするべきか」が優先されることになる。「ですから、本当に必要とされるところにスムーズにリソースを割り当てることができる。例えば、P&Gの案件にMSLグループから4人のスタッフを引っ張ってくる、という方法を私の判断で決められます。才能豊かな人材は、こうしたやり方に魅力を感じられるはずです」。その一方で、ピュブリシス・ワンを構成する企業にはそれぞれ独自の「文化」がある。それに慣れ親しんだ多くの社員に垣根を超えてコラボレーションをさせるのは、「決してたやすいことではないでしょう」。
「我が社には、こうしたコラボレーションを確実に実行するためのツールがあります」とトリポリノ氏。「でも肝心なのは、それよりもマインドセットです。ピュブリシス・ワン全体として、協力し合う精神をいかに引き出すか。このテーマに私は大半の時間を費やしていきます。力を合わせることでより良い成果が生まれる − 社員が心からそう思えるようになるには、何が必要か。かけ声だけで実現できるようなことではありません。とにかく1つの成功事例を作り、具体的に指し示すことが大切なのです」。
広告代理店のどれもが追求し、その実現に苦労しているかのように見えるのが変革だ。同氏は、広告業界がようやく「クリエイティビティーとテクノロジーの最適な接点を見出しつつある」と言う。「アイデアを形にするために、やっとテクノロジーを活用できるようになってきましたね」。昨今はコンサルティングやテクノロジー企業がマーケティング業界に進出し始めているが、代理店はこれらとの差別化を図るため「クリエイティブ思考を忘れてはなりません」。「クライアントに説得力あるブリーフができないのならば、アクセンチュアにやってもらえばいいのです」。
(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:水野龍哉)