Ryoko Tasaki
2023年9月29日

世界マーケティング短信:ハリウッドのストが広告に与える影響

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

写真:Getty Images
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※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

5月からの脚本家ストが収束 俳優組合のストは続く見通し

全米脚本家組合(WGA)が全米映画テレビ制作者協会(AMPTP)を相手に5月上旬から起こしていたストライキが24日、暫定的な合意に至った。WGAは生成AIの規制やストリーミング配信からの報酬アップを求め、ストライキを4カ月以上続けてきた。一方、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)が7月中旬から行っているストライキは、今も収束が見通せない。

今回のストライキは、広告界にどのような影響を与えるのか。「俳優たちとの合意無しに、大きな変化は無い」と語るのは、グループエムを経てマディソン・アンド・ウォールを創業したブライアン・ウィーザー氏。リニアTVと比べて広告が少ない、あるいは広告が無いストリーミング配信が普及したことで、広告主は目標達成が難しくなりつつある。また、プロが制作したコンテンツが比較的少ないデジタルプラットフォームに、広告主が予算を移す動きは続くだろうと予想する。

ロタメ社のCTV担当ゼネラルマネージャー、ハンター・テリー氏は「脚本家のストライキ期間中も、米国人はまだソファーに座ってテレビを視聴していた」と指摘。お気に入りのテレビシリーズの中断に動揺しつつもテレビコンテンツを貪欲に消費し続けた他、ストリーミング配信に注目が集まったため、スポーツ中継や台本の無いコンテンツが多く配信されるようになったという。この数カ月間で広告の買い付けには変化が必要となったものの、テレビ広告費は減らない、特にコネクテッドTVの広告費は増え続けていくと考えている。「テレビを視聴する人々がいる限り、広告主は広告にお金を費やすでしょう」。

Wプロモートのメディア戦略担当シニアディレクターであるモーラ・ピアソン氏は「現時点で広告主は支出を大幅に削減していないが、リニアTVからストリーミングへと移行している」と語る。OTTも動画共有サービスも、広告主にとってコントロールしやすく柔軟性が高い。またリニアTVの切り札であるスポーツも、ストリーミングへと移行し始めている。「従来のテレビが提供してきた規模感と、デジタル広告の精度のバランスの問題であり、すべての広告主にとって万能の解決策は無い」。SAG-AFTRAと10月までに合意に至ることができれば、リニアTVからの広告費のシフトはゆるやかに進むが、交渉が長引けば大きな変化が起こるかもしれないと予想する。その他の業界関係者のコメントについてはこちら(英語)

豪シンクタンク、気候変動対策の全面広告を米紙に掲載

豪州の政策シンクタンク「オーストラリア研究所(The Australia Institute)」が米ニューヨーク・タイムズに、気候変動対策に関する全面広告を出稿した。先日開催された国連総会や気候サミットに合わせて掲載された「気候の破壊ではなく、気候変動対策を加速させるべき」という見出しの広告には、科学者220名超の署名が並ぶ。豪州政府に対し、化石燃料産業での新たな承認と補助金を停止するよう求める内容になっている。

豪州はサウジアラビアとロシアに次ぐ化石燃料の輸出大国で、現在100件以上の石炭やガスに関連するプロジェクトが進行中だ。「もしこれら全てのプロジェクトが進めば、二酸化炭素換算17億トンが毎年大気中に排出されることとなる」と指摘。豪政府は国連や国際エネルギー機関、IPCC(気候変動に関する政府間パネル)の助言に従い、新たな化石燃料の開発を止めるよう広告は訴える。

F1トロフィー、優勝者のキスで国旗の色に輝く

24日に行われたF1日本グランプリ決勝で、キスに反応するトロフィーが贈られた。大会の冠スポンサーであるレノボが考案し、ピニンファリーナが制作したトロフィーは、F1マシンの空気吸入口を模した形で、優勝者がスイッチ部分にキスをすると国旗の色に点灯する仕組みになっている。

「なぜトロフィーは、勝者の手に握られるようデザインされた冷たい金属でなくてはならないのか? なぜ表彰台において消極的な存在でなくてはならないのか? この大きな疑問からデザインの要素が生まれました」と、レノボのコーポレート・マーケティング担当ECDであるフィリップ・マーチングトン氏はコメントする。

グーグル、アップルの「イノベーション」に期待 

グーグルは、AndroidユーザーがアップルiPhoneにショートメッセージを送信した際に機能が制限されてしまう件について、皮肉を込めた動画を公開した。グーグルは以前にも、メッセージ送信にまつわる不便を解消するようアップルに呼び掛ける動画を公開している。

今回登場するのは、1980年代に登場したポケットベルを彷彿とさせる架空の端末「iPager」だ。通信が暗号化されない、送信した動画が粗くなる、グループチャットに参加できないといったトラブルを列挙し、アップルが新規格であるRCSを未だに採用していないことが原因だと批判する。なお動画によると、iPagerの魅力の一つはベルトクリップを備えていること。またインスタグラムには、このiPagerのカラーバリエーションをアップルらしく伝える画像も掲載されている。企画・制作はデイビッド・マイアミ(David Miami)。

(文:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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