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2018年10月19日

世界マーケティング短信:増加傾向にあるインハウス

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

広告主はインハウス部隊によって、費用も時間も削減できると考えている(写真:Shutterstock)
広告主はインハウス部隊によって、費用も時間も削減できると考えている(写真:Shutterstock)

インハウス機能を備える米国の広告主は約8割に

このような結果を公表したのは全米広告主協会(ANA)で、会員企業412社に対する調査で分かった。前回の調査時(2013年)は、制作をインハウス(社内)化した広告主は6割に満たなかった。インハウス部門を有する企業の2割近くが、5000万米ドル以上の予算を確保していることも明らかに。回答企業の約9割は、依然として外部エージェンシーとも協業しているが、平均すると業務の約6割を社内で担っているという。動画の制作能力を有する企業は約8割、プログラマティック広告を自分たち自身で実施しているのは実に4分の1に上る。一方で、マーケティング戦略やプロダクト戦略をアウトソーシングしている企業は2013年時点では44%だったが、今年は49%に増えている。

ニュースの視点:
インハウス部隊の能力向上を牽引している要素として、コスト(社内制作は大抵安上がりで速い)、そして信頼の欠如が挙げられるだろう。広告主がよく不満をこぼすのは、アイデアを売り込んでくるエージェンシーのトップと、実際に制作を担当する若手との能力差が著しく、仕上がりにがっかりさせられるという点で、特に大手エージェンシーに依頼した際に顕著だという。無論、エージェンシーの仕事の質が良くないということではなく、うまく機能すれば企画内容も制作面においても、インハウスによる作品のそれを大きく上回ることが、依然として多いものだ。

だが、エージェンシーがこれからも評価され続けていくためには、「広告主が自分たちで取り組むより、エージェンシーにアウトソーシングしたことで圧倒的なメリットがもたらされる」と証明する必要があると、ピボタル・リサーチ・グループのアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏は語る。これは、真に高品質なクリエイティブを提供するエージェンシーにとっては吉報だろう。このようなエージェンシーは、大手エージェンシーと比べると投資家からのプレッシャーが少なく、ネットワークが小規模で独立したエージェンシーであることが多い。

フェイスブック、動画広告再生時間の不正隠蔽で訴えられる

ウォール・ストリート・ジャーナルが今週報じたところによると、フェイスブック社が2015年1月時点で動画広告の計測システムの不正を把握していながら1年以上にわたって隠蔽し続けたとして、複数の米国広告主企業からなるグループが訴訟を起こした。フェイスブック社は2016年、動画広告の再生時間が60~80%多く測定されていたと公表。だが今回訴えを起こしたグループは、150~900%も水増しされていたと主張する。不正の隠蔽や、問題への速やかな対処がなされなかったとの批判に、フェイスブック社は反論している。

ニュースの視点:
テクノロジー大手(そして同メディアの広告売買に携わったエージェンシーも)が、計測結果を「自己申告」できる限り、透明性を保つことは難しい。広告主自らによる独立したリサーチによるものでなければ、広告効果の数値は疑ってかかるべきだろう。

ソフトバンク、サウジとの関係が火種に

今週、ソフトバンク株が急落した。在米サウジアラビア人ジャーナリスト、ジャマル・カショギ氏の殺害疑惑問題で揺れるサウジ政府との緊密な関係が懸念材料となり、この2年で最大の下落となった。サウジ政府は同社が1000億米ドル(11兆円)規模で立ち上げた投資ファンド「ビジョン・ファンド」の最大の出資者。同ファンドはウーバーやスラックといった著名なスタートアップを支援している。グーグルやウーバーなど数多くの企業は、来週リヤドで開かれる経済投資フォーラム「フューチャー・インベストメント・サミット」への参加を取りやめた。

ニュースの視点:
今回の事件はいくつかの難題を提起する。もしあなたの企業の最大の出資者が世界から厳しい視線を向けられたら、コミュニケーション的観点からどう対応すべきか −− 答えは非常に難しいが、どの企業も不測の事態への対策は立てておくべきなのだ。もしカショギ氏殺害の黒幕がサウジ政府であると判明すれば、同政府と関係のある個人や企業に多大な悪影響が及ぶことは必至。ソフトバンクに関しては、その投資を拒むスタートアップが出てくるに違いない。

ワコール、「人権侵害」を調査

もう1つ、評判管理に関する話題を。女性下着大手のワコールホールディングスは、自社製品の製造工程に関わるサプライチェーン(製品供給網)で外国人技能実習生の人権が守られているかどうかの調査を始めたと発表した。「リスク管理同様、製造過程がクリーンであることも消費者の皆様に知っていただきたい」。同社スポークスパーソンは共同通信にこのように語っている。

ニュースの視点:
企業が調査を公言するというのは、一般消費者が購入する製品のメーカーの倫理観をより気にかけるようになったことを示す。新しい世代が購買力をつけるにつれ、企業は様々なステークホルダーを満足させたり、地球環境を守ったりするだけでなく、効果的なコミュニケーションも必要になろう。もちろんそのためには透明性を確保せねばならず、決して「SDGウォッシング(washing)」であってはならないのだ。

スポティファイのホラー広告に禁止命令

英国広告基準局(Advertising Standard Authority = ASA)は、スポティファイのプレロール広告を禁止した。「子供たちに心理的苦痛を与える」という親たちからの苦情を受けての措置。動画には人間を脅かす不気味な人形が登場し、最後に「あなたが拒否できない“致命的な”歌(Killer songs)」というセリフで締め括る。この広告が禁止するほどのものなのかどうか、あなたはどう思うだろう?



(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:田崎亮子、水野龍哉)

提供:
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