David Blecken
2017年11月15日

「伝統と革新」で、東京がニューヨーカーにアピール

東京都とニューヨーク市が相互観光PRパートナーシップを締結した。双方の情報を発信し合い、旅行者の増加に努める。

記者発表での小池百合子都知事
記者発表での小池百合子都知事

東京とニューヨークが、互いの観光産業をより活性化させるため協働していく。今回結ばれたパートナーシップは来年も継続される予定。

協定は東京都と、ニューヨーク市のオフィシャルなマーケティング機関であるニューヨーク市観光局(NYC&Company)の間で締結された。東京都は世界に開かれた都市をアピールする「2020年に向けた実行プラン」に取り組んでおり、声明によるとパートナーシップはその活動の一環。両都市は交通機関やテレビ、屋外を利用した広告・動画など、様々な手法を用いてお互いをプロモートしていく。

ニューヨークでは東京のプロモーションを市内バス停や公共Wi-Fiステーション、市観光局のアカウントを利用したソーシャルメディアなどで実施。CNNやCBSといったテレビネットワーク、市内映画館、ニューヨークやロサンゼルスの空港などでも展開する。東京では都営地下鉄や東京観光財団のソーシャルメディア上などでニューヨークをプロモート。パートナーシップの広報担当者によれば、東京に関するクリエイティブワークは東京都が、ニューヨークに関するクリエイティブワークは市観光局がそれぞれ手がけたとのこと。ニューヨークに関する動画はまだ公開されていない。

都内で行われた記者会見で、小池百合子都知事は「古い歴史と現代性の共存」を新たな東京のブランドアイデンティティとしたと発表。「Tokyo:Old meets new」とうたった公式ウェブサイトでは、書道で描かれた力強いアイコンや世界的に東京のシンボルとなった渋谷駅前交差点などがフィーチュアされている。

東京都は2020年までに訪都旅行者数を2500万人にする目標を掲げており、ニューヨークとは1960年から姉妹都市関係にあるものの「両都市が相互をPRする提携を結ぶのは今回が初めて」(小池氏)。ニューヨークには昨年32万5千人の日本人旅行者が訪れており、今年は33万1千人が見込まれている。市観光局プレジデント兼チーフエグゼクティブのフレッド・ディクソン氏曰く、「両都市にはたくさんの共通点があります」。

記者会見に引き続き行われたパネルディスカッションでは、東京都産業労働局観光部振興課長の前田千歳氏が「東京のプロモーションの題材はどうしても都心に偏りがち。周辺の地域にも着目することが大事」とコメント。知名度が低いにもかかわらず旅の目的地として潜在性が高い場所の一例として、景観の秀でた奥多摩地方を挙げた。「もっとこうした地域を自慢して、紹介していく必要があります」。「自慢」という言葉を選んだことには躊躇があったようで、ややきまり悪そうに語った。

「地域のコミュニティーとより深く関わることで、その認知度を旅行者の間で高められる」とも同氏は述べたが、その具体的な手段には言及しなかった。「東京の人々は東京がどのような魅力を打ち出せるのか、理解するべきでしょう」。東京はニューヨークとは異なり、本質的には単一文化の都市。にもかかわらず、「魅力の1つとして都は多様性を打ち出しています」。

東京都出身でニューヨーク市観光局ツーリズムマーケットデベロップメント担当マネージングディレクターを務めるマキコ・マツダ・ヒーリー氏も、「周辺地域をインプットすることがキャンペーンを成功に導く」と賛同。「ニューヨーカーが気に入った旅先であれば、他の旅行者も後に続く傾向があります」。東京にはストリートカルチャーや祭りといった文化的資産があり、「それらをプロモーションの上でどう活用するのか、都は答えを出すべき」とも。

2020年の五輪・パラリンピックが観光産業を押し上げる引き金になることは広く認識されている。だがヒーリー氏は、旅行客に対する「オープンな気持ちがどのようなイベントよりも重要」と指摘。「旅行客と地元民との一層の交流が、五輪後も観光産業を盛り上げる大切な要素となるでしょう」。

日本政府観光局によると、今年4月から6月までの訪日客の半数以上はリピーターだったという。その一方で、観光産業を活性化させつつ、地元の「調和」を維持していくことは非常にデリケートな問題だ。今の京都がその難しさをよく示している。市当局は近年の観光客の急激な増加に苦慮の対応を強いられており、現在は街の保全のため、旅行者にオフシーズンに訪れるようプロモーションを行っている。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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