Matthew Miller
2020年6月12日

優れたリーダーは危機にどう立ち向かうか

変化の時代を導くリーダーに不可欠なのは、共感する力、敏捷さ、集中力だ。

左上から時計回りに:マヤ・ハリ氏(ツイッター)、シェリル・ゴー氏(グラブ)、アティファ・シルク(モデレーター、Campaign)、ウメーシュ・ファドケ氏(ロレアル)
左上から時計回りに:マヤ・ハリ氏(ツイッター)、シェリル・ゴー氏(グラブ)、アティファ・シルク(モデレーター、Campaign)、ウメーシュ・ファドケ氏(ロレアル)

先週水曜日(6月3日)のライブストリーミングイベント「Campaign Connect」では、ツイッター、ロレアル、グラブのアジア太平洋担当リーダーによるパネルディスカッションを実施。危機の時代をリードしていくために求められる資質について、議論を交わした。

人々を第一に考える

「何にも勝る原理原則、リーダーとして行うべき唯一のことを挙げるとすれば、それは人々を最優先に考えることでしょう」と、ツイッターのアジア太平洋担当バイスプレジデント兼マネージングディレクター、マヤ・ハリ氏は語る。

その例として挙げた人物は、エアビーアンドビーのブライアン・チェスキー氏だ。彼はリストラすることとなった社員が次の就職先を探せるよう全力を尽くすと宣言し、人材名簿サイトを公開した。

ロレアル・インドネシアの取締役社長、ウメーシュ・ファドケ氏にとって、人材を最優先するということは、スタッフのスキルを早急に向上することを指す。

「当社には2000名以上の美容アドバイザーがいます。彼女たちは毎日カウンターに立ち、朝から晩まで消費者たちと向き合っています」。だが突然、自宅に閉じこもることを余儀なくされた。そこでロレアルは、職が守られることを伝えて安心感を与えるとともに、バーチャルコンサルテーションの実施方法や、仮想上での支払い、配送の管理方法などについて2週間ほどの研修を行った。

「そして今日、ラグジュアリービジネスの流通の約9割が閉鎖されているにも関わらず、ソーシャルコマースとEコマースを組み合わせることで、事業の6割を回復できています」

敏捷であること

「この時期に我々がまず着手したのは、意思決定の方法でした」と話すのは、グラブ(配車アプリ大手)のシェリル・ゴーCMO。「何を分散化できるか、何を集中化させるべきかを検討しました。それぞれの国ごとに最も関心が高いことが、確実に遂行されるようにするというのが主たる理由です」

このことによって、例えばシンガポールでCOVID-19の検査に向かう人々を移送するプログラムを素早く展開したり、マレーシアとインドネシアでは中止されたラマダンバザール(断食期間中に開催される市場)の代わりとなる場をバーチャルに設けるなど、特定の地域に向けたアクションにつながったという。

敏捷であることとはつまり、政府の発表よりも前に行動を起こすことも意味する。例えばグラブでは、シフトに入る際には健康であることを自己申告するようドライバーに求める他、マスク着用を自撮り画像で確認。さらに、「安全が担保できていないと感じた場合にはドライバー側も乗客側もキャンセルできるよう、アプリにも変更を加えました」。

立場をとることを恐れない

ゴー氏によると、グラブが定めた安全ポリシーについて、全員が納得していたわけではない。「我々はほとんどの国において、この時期は乗車可能な人数を最大2名までと決めました。ドライバーの他に、乗客は2名までということです。もちろん、一部の乗客には不便を強いることになりますが、1台の小型車に4人も乗っていては、ソーシャルディスタンス(社会的距離)の確保は難しいと考えたのです」。そのようなポリシーを設けないほうが簡単で、ビジネス上も得策だったことだろう。でもそれは正しくないと判断した。「特に健康や安全は、人々が我々に期待していることですから」

みんなの意見を(ある程度は)聞く

「全員の意見は尊重するが意思決定を行うのは一人であることを、全員に(特に危機管理委員会の中で)周知徹底しておくことは、非常に重要なこと」とファドケ氏は挙げる。「民主主義は素晴らしいですが、結局のところは組織として決断を下して、前に進まなくてはなりません」

さらに、正当な理由をもって決定を変えることを、リーダーが恥ずかしいと感じたり、周りがそう感じさせることが、あってはならないとも語る。「間違った決定を撤回するほうが、そのまま先に進めるよりも良い場合もありますから」

これに、ハリ氏も賛同した。「リーダーシップ層からのメッセージを直接受け、複雑かつ曖昧な意思決定を下すという責任を一手に引き受けることは、特に混迷を極める場合においては非常に高く評価されます」。新たな情報が入ってきた場合には決定事項が変更される可能性があることを、最初から明確にしておくことも重要だと、同氏は付け加えた。

感情を表現する

コロナ禍にハリ氏が学んだことは、他の人が感情を吐露できる余裕を持つことだった。「これまでの私のアプローチは、課題を明らかにするだけでなく、解決策を模索して見つけることでした」と同氏。「今回のような危機において、解決策を探すモードに即座に切り替えることが、必ずしも最善策ではないと今回実感しました。現実に起こっていることを受け入れるためには、間合いや、嘆く時間が必要なのです。少なくとも3~4カ月は自宅で勤務することになり、学校は休校になるなんていう前例のないことを、感情面で受け入れるにはしばらく時間がかかりますし、それを加速することはできません。ソリューションに即座に飛びつくというのは、こういう状況では役に立たないのです」

集中する時間を作る

ゴー氏は、マルチタスクと意思決定の質について分かったことがあるという。「マルチタスクというのは、複数の仕事を同時にこなしている訳ではなく、実際のところはさまざまな仕事の間で、集中力を素早く切り替えているにすぎません。そして、意思決定がこれほど大きな意味を持つ時期においては、集中力は非常に重要だと思います」

分かりきったことのようにも聞こえるが、集中する時間をとると最善の意思決定ができるということを、同氏は隔離期間中に身をもって知った。「私は今ホテルの部屋で、人との接触がない日々を14日間も送っていますが、以前よりもはるかに集中できていると思います」とゴー氏。「そして私の意思決定の質や、人との交流が大幅に改善されたと感じています」

機会を見極めつつも、日和見主義にならない

「危機の時期とはまた、急激な変化の時期でもある」と語るのはハリ氏だ。「ビジネスリーダーやブランドリーダーとして、我々にはどのような事業機会があるのかを見極めることは大切ですが、その根底にある部分を理解することが非常に重要。機会は活用するべきですが、日和見主義にならないよう注意を払う必要があります。日和見主義は、リーダーとして最悪な態度であるからです」

商品・サービスのプロモーションを絶妙に実施した例として、名前が挙がったのはグーグルのスンダー・ピチャイCEO。Zoom(オンラインミーティングアプリ)のプライバシー上の懸念が浮上する中で、同氏はG Suite(グーグルが提供するビジネスツール)のアカウントを持つ全ユーザーが、ハングアウト(グーグルのコミュニケーションツール)の高度な機能を利用できるようにした。

ハリ氏はまた、施策が意図せず貪欲にみられてしまう可能性についても言及した。消費者に選択肢が少ないような状態で価格を引き上げるといったあからさまな変化はもちろんのこと、より高額を支払う意欲のある消費者からの注文を優先的に処理するといった微妙な変化も含まれる。「多くのことに対処している危機の時期には、特に陥りやすい罠といえるでしょう」

参考にすべきはジャシンダ

ニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相はコロナ対策をうまく主導したロールモデルとして注目された、という点でパネリストたちは合意した。ゴー氏によると、アーダーン首相は女性リーダーとしてだけでなく「意思決定の質、誠実さ、謙虚さ、そして穏やかさ」といった要素が高く評価されているという。

教訓を活かす

ハリ氏は、「良き危機を決して無駄にしないように」というウィンストン・チャーチルの格言に言及した。「人々を第一に考え、人間関係を築き、何を支持するかを知ることで、どのようにリードしていくのか――。2020年をこの危機を乗り越えるために費やしておきながら、これらのことを向上させられないのは、恥ずべき事です」

(文:マシュー・ミラー、翻訳・編集:田崎亮子)

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