Kyoko Matsushita
2023年9月04日

日本のビジネス界に、より女性の参画を

依然、様々な面でジェンダーギャップが解消されない日本。「今こそ行動が必要」とWPPジャパンの松下恭子CEOはいう。

WPPジャパンの松下恭子CEO
WPPジャパンの松下恭子CEO

世界経済フォーラム(WEF)がこの6月に発表した最新の「ジェンダー平等に関する調査報告書」で、日本は世界146カ国中125位に甘んじた(2022年は116位)。我々は進むべき方向とは逆の方向に歩んでいる。政治の分野でも日本は世界最低レベルだ(138位)。女性国会議員の比率は10%、閣僚は8.3%に過ぎない(※今月13日の内閣改造で女性閣僚は5人に増え、25%となったが、副大臣と政務官あわせて54人のうち女性はゼロ)。これまで女性の国家元首が誕生したこともない。

だが「教育」「健康・生存率」の分野では、日本はほぼ完全なジェンダー平等を実現している。 賃金格差も僅かながら、1.1% 改善した。それでも女性の就業率54.2%に対し、女性役員の比率は12.9%に過ぎない。

問題は明白で、政府は対策に取り組みつつある。だが、企業自らも積極的に改革を進めて行かねばならない。女性指導者が極めて少ないため、方向転換がしにくいこともあろう。だが日本はGDP(国内総生産)で世界第3位の経済大国だ(米国と中国に次ぎ、ドイツを凌ぐ)。変わらないという選択肢はあり得ない。

企業の課題

日本政府はこの問題に懸念を抱く一方、他国の政府同様、行動が鈍い。企業が先んじて行動することを期待しているのだ。

日本には2種類の企業がある。1つは日本に拠点を置く国際的多国籍企業で、グローバルなエコシステムの一端を担う。もう1つは働き方に関して海外から影響を受けにくい、国内企業だ。

この2種類の企業は文化も、それぞれ期待されることも異なるため区別することが重要だ。多国籍企業は結果主義で、キャリアアップは個人の実績次第。一方で、国内企業には独自のキャリアアップのシステムがある。だが、市場の人口減少によって生産性がなかなか向上しないため、国内企業は考え方を変えつつある。

その一環が、女性の職場復帰の奨励だ。だが、単なる労働力確保という目的ではなく、働く女性に対してもっと積極的なアプローチがあるはずだ。一体、それはいつ実現するのか。

外資系企業は文化的差異があり、多くの日本人にとって働くことは「冒険」で、無理に入社する必要もない。また、単なる生産性向上のために女性を採用するような国内企業で働くこともない。日本の女性には第3の道がある。それは「起業」だ。

テクノロジーの進化とともに、日本でも起業家を奨励する考え方が浸透してきた。コロナ禍も、柔軟な働き方と在宅勤務を促進した。ほとんどの女性が家事や育児・介護といった仕事以外の負担を抱えていることを考えれば、コロナ禍は特に女性に恩恵をもたらしたと言える。 さらに日本でも女性のベンチャーキャピタリストが増え、女性主導のスタートアップへの資金提供を増やしつつある。

「流れ」は変わりつつあるのだ。

多様性・公正性の確立

我々が属するマーケティング業界では、特に女性が声を上げる必要がある。多様性のある企業は優れた企業であり、特にクリエイティビティの面で力を発揮する。真の多様性とはジェンダー平等にとどまらず、性別・年齢・民族・文化・能力などが混和することを意味する。だからこそ創造性が生まれ、集団思考を防ぐことにもつながるのだ。

この業界は、世界の様々な地域から異なる考え方やスキルセットを持つ人々を迎え入れるべきであり、実際にそれを行っている。多様性の下では、誰もがリーダーだ。

企業は、多様なチームが活躍し、公正さが組織の隅々にまで浸透した環境をつくり上げねばならない。従業員一人ひとりが報酬やスキルアップ、自己の実績について企業側とオープンに会話でき、誰もが成功できる環境を整備しなければならない。

職場でのアライシップ(社会的に不利な立場にある集団の支援)やメンタリング、ネットワーク紹介、奨励制度などは女性の活躍を促進する。女性をマネージャーからリーダーへと育てる手法を企業が見出せば、女性は誰もが活躍できる環境をつくり、ジェンダー平等に貢献していくことだろう。

(文:松下恭子 翻訳・編集:水野龍哉)

提供:
Campaign Japan

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