Hiroyuki Akita
2018年5月29日

DSP導入が遅れている日本は、デジタルマーケティングで遅れているのか?

日本でDSP(デマンドサイドプラットフォーム)の活用が進んでいないのは、そうせざるを得なかった背景があるのだという。

DSP導入が遅れている日本は、デジタルマーケティングで遅れているのか?

日本のデジタルマーケティングは決して遅れてはいない

「日本ではDSPの有効活用ができていないことを鑑みても、デジタルマーケティングに関して、世界と比較し10年近く遅れていると言える」

私は外資系広告代理店に入社して数年経過するが、海外のデジタルマーケターと話すたびに似たようなことを言われ続けてきた。彼らは、日本人の多くがDSPの機能を理解しておらず、それゆえに活用できていないと思っているのである。

私は確信を持って、それは違うと断言できる。私の会ってきた日本のデジタルマーケターは、経済的、合理的な理由でDSPを利用していないケースが多かったからだ。

こういった話を海外のデジタルマーケターに説明すると、彼らは皆、最初は懐疑的であるものの、話を聞き終わる頃には、日本のガラパゴス的に発達したデジタルマーケティングの背景を理解し、日本の先進性に気付くことさえある。本稿では、いつも私が彼らに説明しているように、日本のデジタルマーケターがどんな理由でDSPを使わない意思決定を下しているか、それを説明していきたい。

「ダイレクトな成果を作ること」が課せられている

富士通総研が日本のデジタルマーケターを対象に行った調査によると「デジタルマーケティングで成果を上げている企業の76.9%は、リード件数や受注数などダイレクトに売上につながるKPIを設定している」とのこと。つまり、日本に存在する多くのデジタルマーケターに課せられているお題は「一定のコストの中で、最大限売りにつながる成果を上げろ」ということになる。

そうなると、デジタルマーケターの頭の中では以下のような式が出来上がり、忠実にそれを守っていくこととなる。

顧客獲得単価=コスト(クリック数×クリック単価)÷コンバージョン(クリック数×コンバージョン率)
=クリック単価÷コンバージョン率

つまり、彼らが投資対効果を最大化させるためにはクリック単価(CPC)が低いメニューを選ぶか、コンバージョン率(CVR)が高いメニューを選ばなければならなくなるのである。

DSPはアドネットワークと比較して、CPCが高くなる傾向がある

一般的にアドネットワークは純広告よりもCPCが低いと言われているが、簡単にその理由を説明すれば、アドネットワークが、パブリッシャーが持つ膨大な量の広告枠を束ねて、安価な枠を提供しているから、ということになる。ただし、アドネットワーク経由で発生したCPCには、アドネットワークがパブリッシャーに対して買い付けを行った際に発生した中間マージンが含まれていることを留意いただきたい。

DSPの場合はSSP(サプライサイドプラットフォーム)から買い付けを行っているのだが、SSPが束ねている広告枠の中には、アドネットワーク経由で買い付けているものもある。これは、DSPからSSPに支払う中間マージンと、アドネットワークからパブリッシャーに対して支払う中間マージンと、その両方が発生してしまうこととなり、これがアドネットワークよりDSPの方が、CPCが高くなってしまう一因となっている。

注)もちろん、全てのDSPのCPCが、同様のターゲティングをした時のアドネットワークのCPCよりも高い、というわけではない。

コンバージョン率を重要視するなら、選択肢はリターゲティングになる

DSPの特徴は、さまざまなデータを掛け合わせて細かく設定可能な、ターゲティング機能にある。もちろん、この機能や性能自体を否定するつもりはないが、CVRの高さを求めるのであれば、メニューはリターゲティングを実施するべき、となる。

このリターゲティングはDSPのメニューとしても存在するが、アドネットワークのメニューとしても存在する。つまり、一度サイトに来訪したユーザーに対して、広告を配信するのだから、配信面の差により微小な差は生まれど、DSPとアドネットワークでのCVRの差は理論上ほとんどないものと考えられる。これは、実務経験上においても、大きくずれたことはない。

「DSPだから可能な幅広いリーチ」という幻想

DSPのもう一つの特徴として、幅広いリーチを可能にする、ということがある。当然、DSPは主要アドネットワークとつながっているものもあるので、これは間違いない。

ただし、日本の主要アドネットワークである「Yahoo! Display アドネットワーク」や「Google Display Network」だけでも、幅広い層へリーチできることを忘れてはいけない。というのも、日本のインターネットユーザーの80%はYahoo! JAPANを利用しており、Google Display Networkだけでも日本のインターネットユーザーの90%にリーチできるカバー率があるという話もある。

近年ではフェイスブックやインスタグラムといったSNSでの滞在時間も増加しているので、この通りではないにしろ、このあたりもカバーすれば、広いリーチは可能となる。

DSPはあくまで手段と考え、目的のために使用するべきである

私が主張したいことは、DSPを使用するなという警告でなく、明確な目的のもとで手段として利用されるべきであるということだ。

例えば、現在弊社ではロックオンが提供する「アドエビス」を活用して、ビュースルーやアトリビューション分析を行っている。この分析を行うことで、どんなバナーに接触したら検索行動を誘発させられるのか、どんなバナーに何回接触したらCVRが上昇するのかなどが分かる。今後はそれを、広告配信に活かしていくことになるが、具体的には以下のように行う。

A) バナーに接触後、自然検索によりサイトに来訪したユーザーはCVRが高いというデータがある。
B) その行為を行ったユーザーをリスト化する。
C) そのユーザーリストを、アドエビスと連携しているDSPに同期させる。
D) それにより、リターゲティングの中でも、よりモチベーションが高いと考えられるユーザーへの接触が可能となる。

これは、「よりモチベーションの高いユーザーに対して接触を行い、効率的に成約を目指す」という明確な目的のもと、DSPを活用していることになる。ロックオンによると既に、この手法は40社近い事例が出てきており、今後も活用が進むとのことだ。

総括

日本でDSPの導入が遅れていることには、合理的な理由がある。

では日本で今後もDSPが使われる機会がないのかというと、そういうわけではない。目的に沿って、明確な利用目的のもとDSPを活用することで、実績は生まれ、ベストプラクティスとなり、その数は少しずつ増加していく。

今後、DSP自体の性能の上昇や、各種ツールとの連携が進むことにより、これらの動きは加速度的に早くなっていくだろう。

(文:秋田寛之 編集:田崎亮子)

秋田寛之氏は、ビーコンコミュニケーションズのシニアストラテジスト。

提供:
Campaign Japan

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