Sean Hargrave
2021年6月10日

iOS 14.5リリース、広告支出はAndroidへ

業界関係者によると、広告主が、貴重なiPhoneユーザーを失わないためには、バイイング手法の修正が必要になるという。

iOS 14.5リリース、広告支出はAndroidへ

WARCとAppsFlyerがまとめたデータによると、アップルがiOS 14.5で新たなプライバシー対策機能の提供を開始してから最初の2週間、アプリオーナー企業の広告費はアップルからAndroidに流出していた。

アップルは4月26日に公開したiOS 14.5で新機能「App Tracking Transparency(ATT)」を導入した。初期のデータによると、iOS 14.5をインストールしたiPhoneユーザーの大多数が、アップルの広告識別子(IDFA)を用いた、アプリをまたぐ行動トラッキングを拒否している。WARCによると、求めに応じアプリでのトラッキングを有効化したユーザーは、世界全体で11%、米国で4%だった。

データから、アップルによるiOS 14.5リリース日の発表に業界が備えはじめた3月末からの9週間で、アプリのインストールを促すための広告費が、Androidでは大幅に増加し、iOSでは減少したことがわかる。

3月28日週を基準とすると、両プラットフォームの広告費はそれから3週間、ともに基準を下回った。ただし、Androidはアップルが4月11日にiOS 14.5のリリース日を発表したのとほぼ同時に基準を上回り、それから5週間はおおむね上り調子が続いた。

一方、iOSは広告費が基準を下回り続け、ようやく基準を超えたのは、この9週間の最終週となる5月23日週だった。


両プラットフォームの差は縮まってきているものの、調査チームは「ターゲティング、パーソナライズ、アトリビューションを頼みとするモバイル広告への2000億ドルを超える広告費に、根本的な課題が突きつけられている」と論じている。

アルゴリズムはAndroidを選択

この変化について、スターコム(Starcom)のマネージングパートナー(パフォーマンス担当)、ポール・カサミアス氏は、ひとつには広告主がアプリ内広告で最適なインベントリに広告が出るようなアルゴリズムを用いているからだろうと説明した。アップルでのトラッキングデータが減衰するにつれ、広告費は常にAndroidに流れていくようになっていったのだと。

「データを喪失することでiOSはAndroidよりパフォーマンスが低いと見なされ、戦略的判断というよりも自動最適化によって予算がシフトした可能性が高い」とカサミアス氏は言う。

「短期的には、いま用いられている自動最適化と運用環境によってiOSへの支出が減少する可能性が高い。ただ長期的には、アプローチ戦略の見直しが必要になる。これは重要なことであり、広告主は無視するわけにはいかない」と同氏は述べる。

AppsFlyerの数値から広告支出パターンの変化を分析したWARCのアナリスト、ロバート・クラップ氏は、自動化が関係していることを部分的に認めた。

しかし一方で、Android側の成長とそれに対するアップル側の下降が、iOS 14.5の公開日とほぼ一致している点を指摘した。これは、 ユーザーデータがなくなることを見越した人が Androidへの予算切り替えに関与したことを示唆しているのではないかという。最新の数値は落ち着いてきていることを示しており、「マーケターは既に情勢を把握したのだろう」と同氏は続けた。

アップルの下降は見た目ほど深刻ではない

デジタルマーケティングエージェンシー、クラウド(Croud)でメディアおよびプラットフォーム担当のディレクターを務めるマズ・フサイン氏によると、このiOSへの広告費減は、アプリのプロモーション予算だけを個別に考察していることで、余計に悪く見えている可能性があるという。アプリの新規ダウンロードを促すための広告費が大きく減少している点は認めているものの、モバイル広告全体におけるアップルへの広告支出の減少幅は、同氏の推計によると、iOS 14.5公開以降全体で約5%程度にとどまる。

「新OSが公開された直後には減少したが、以降は安定している」とフサイン氏は指摘する。

「インストール単価(CPI)をベースとするモバイルキャンペーンは、マーケターにとっては展開しやすいが、このテクノロジーではトラッキングデータを豊富に持つプラットフォームが優先される。この状況は、アップルがオーディエンストラッキングの仕組みを改善し、広告主が、広告を見た後にコンバージョンした人を記録するサーバーサイドタグの使用を開始するケースが増えてくれば落ち着いていくだろうと思う」と同氏は語った。

逆転したモバイル業界の現況

dentsu Xでアカウントディレクターを務めるアビー・ハワード氏は、Androidへのシフトがもたらす影響について、永続的なものではないが、短期的には大きいと語った。アップル製デバイスに対する広告支出の減少により、広告業界の幹部たちは、通常とは大きく異なるモバイル広告市況の下でキャンペーンのプランニングとバイイングを進める事態になっている。

「このシフトが市場の興味深い変化を導いている。通常はより高額なiOSのインベントリが値下がりしたり、広告主がプレゼンスを競うことでAndroidのCPMがますます高騰したりしている」(ハワード氏)

ハワード氏の予測では、アップルユーザーは広告主が無視できない重要な市場であり、多くのブランドが、アップルの新たなアトリビューションツール「SKAdNetwork」をテストすることになるだろうという。SKAdNetworkは、個人情報を渡すことなく、アプリ内広告を見た人のデータを共有するアップル独自の仕組みだ。

「今後1カ月で、アップルへの回帰がみられると予測している。4月26日にパニックになった広告主だが、事態が落ち着くのを見計らってSKAdNetworkの導入テストを完了し、いずれはアップルに戻ろうとするからだ」とハワード氏は述べている。

「特に英国では、多くの広告主はiOSユーザーのほうが高価値だと見ており、やむを得ない事情がない限り、市場シェアの50%強を失うようなことは避けようとするだろう」(ハワード氏)

ハワード氏は、iOS 14.5以降のバージョンにアップデートする人々が増えており、これから数カ月、IDFAデータに依存した状態から脱却する必要性は、ますます高まっていくだろうと警告した。

現時点で、iOS 14.5以降のバージョンにアップデートしたユーザーは、iPhoneユーザーの5分の1程度にとどまっていると考えられるが、この数字は今後大幅に増えていくだろう。アップルはiOSのアップデートを積極的に展開しており、秋以降は、iPhoneの新モデルにもプリインストールされることになる。

アップルは5月に、ATT(The App Tracking Transparency)を推進する広告キャンペーン(TBWA\Media Arts Lab制作)を開始している。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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