David Blecken
2016年10月21日

Q&A: 変わりゆくスポーツスポンサーシップを理解する

より多くの機会がもたらされるが、そこには落とし穴もある。

リオ五輪での虚偽通報で、厳しく追及されたライアン・ロクテ選手。
スキャンダル発生時は選手だけでなく、スポンサーが槍玉に挙げられることも。
リオ五輪での虚偽通報で、厳しく追及されたライアン・ロクテ選手。 スキャンダル発生時は選手だけでなく、スポンサーが槍玉に挙げられることも。

2020年東京五輪を見据えたシリーズの一環として、CSMスポーツ・アンド・エンターテインメント東京オフィスのディレクターであるサム・ピアソン氏に、複雑化の一途をたどる環境下でいかにかじ取りをすれば良いか、見解と助言を求めた。

日本のブランドは一般的に、スポンサーシップをどのように位置付けているのでしょうか?

1) スポーツが売り上げに貢献するとは考えず、チャリティーやCRS(企業の社会的責任)と見なす傾向がある。

2) 世界的に影響力のある超一流の(つまり稀少な)スポンサー対象を求めており、そのためにプレミアムを払うことも厭わない。パナソニック、トヨタ、ソニーなど、世界中で長年に渡って積極的にスポンサーシップを行っているブランドが複数ある。成功を収めている日本企業はグローバル市場に進出しており、五輪のトップパートナーでもある。

3) 礼儀正しく、与えられたスポンサーとしての便益を受け入れる。権利者の言うことに従い、ブランド露出の方法についても権利者の見解を仰ぐ。

4) 知見の取り込みができていない。東京五輪のパートナーの中には、リオ大会を視察しなかった企業もある。スポーツスポンサーシップが事業の推進と企業価値の向上に資するものかどうか、まだ社内の意思統一が図れていないのだろう。一方で、視察を行った企業は、五輪の活用法について知見を得ることができた。

スポンサーとなったブランドが犯しがちな間違いは何でしょうか?

1) スポンサーシップの権利金を払っただけで全てをやりきった錯覚に陥ること。五輪との関連性がない広告の最後に、オリンピックシンボルである5つの輪のマークを表示するだけでは意味がない。同様に、東京五輪に向けて現在進行中のアクティベーション(活性化)予算や活動も、その重要性が軽視されている。

2) ホスピタリティー(スポンサーへの特典)の配分が効果的に行われず、社内コミュニケーション、企業間取引、進行中のCRMに生かしきれないこと。

3) 単にオフィシャルスポンサーというだけで、その企業がスポンサーになっているスポーツ関連のニュースやイベントに、スポーツメディアが何でも関心を持ってくれると思い込むこと。五輪大会の期間中スポーツメディアは、現場からのレポートという通常業務に加えて、多くの招待状を受け取り、引き合いも増えて忙しいというのに。

特に2020年東京五輪を視野に入れて考えたとき、どのようにアプローチの転換を図ればよいでしょうか?

1) スポンサー権の獲得は最初の一歩にすぎない。自社ブランドにとっての五輪の意味付けを明確にし、これをターゲット層に広めることが必要だ。体験型、デジタル、従来型などさまざまなメディアにまたがって、有意義な訴求の方法を採用しなければならない。

2) 大規模なホスピタリティープログラムに伴う煩雑さを熟知した、経験豊かで専門性の高いエージェンシーを起用すること。五輪ではスポーツ選手をアンバサダー(大使)として起用することに規制があるなど難題があるため、スポンサーシップとホスピタリティープログラムのいずれにしても、この点は特に重要になる。

3) 自社がスポンサーとなったPRイベントが確実に目立つように、かつ、想定する観客の関心に応える内容にすること。例えばマイクロソフトは、リオの海岸に停泊したノルウェーのクルーズ船でイベントを行って差別化を図った。

リオ大会のスポンサー活動全般について、何が印象に残りましたか?

ターゲティング: 多くのブランドが、目標とその達成方法の明確化という点で洗練されてきたと感じた。ターゲットが絞られ、エージェンシーの支援によって予算を効率的に使っている企業が増えたようだ。

スピード: リオ大会では競泳のライアン・ロクテ選手が強盗被害を虚偽報告する事件があり、このようなスキャンダルは今後も起こるだろう。しかしスキャンダル自体と同様にスポンサーの対応も、内容とタイミングの両面において厳しく評価されると考えられる。ブランドは予め危機管理対策を立てておかねばならない。

規制緩和:五輪公式スポンサー以外の広告行為を禁じた、国際オリンピック委員会(IOC)の「ルール40」が段階的に緩和されてきた。これによりブランドは五輪選手をアンバサダーとして活用しやすくなり、選手も競技に専念してきた努力に対する物質的な報奨を手にすることが可能になる。

ユーモア:面白い話題や人間味溢れるコンテンツは、試合での素晴らしいパフォーマンス以上にネットに拡散していた。上半身裸で民族衣装をまとったトンガの旗手(開会式)の肉体美、緑色のプール、ボート競技でメダルを獲得したアイルランドの兄弟など、競技のパフォーマンスそのものと同じくらい記憶に残るものだった。スポンサーは五輪のキャンペーンにもっとユーモアを取り込んではどうか。特に、スポーツにあまり関心がない層に訴求するには、よい切り口だと思う。

リオ大会と東京大会で大きく異なる点があるとすれば、それは何でしょうか?

視聴のされ方: 例えばバーチャルリアリティー(仮想現実)のヘッドセットを用いたライブストリーミングなど、新しいデジタルチャネルを用いた広告は、公式スポンサーにもそうでないブランドにも可能性をもたらすだろう。スポーツファンもまた、世界中のどこからでもキャスターやコメンテーターになることができる条件が整ってくる。競技の中継は開催国のテレビ局に規定される度合いが下がり、オンライン上の視聴者の動向に左右されるようになるはずだ。

スターの世代交代: 陸上競技のウサイン・ボルト選手や競泳のマイケル・フェルプス選手が引退し、新しいスターが生まれる。特に、サーフィン、スケートボード、スポーツクライミングは若い視聴者からの人気が期待され、関連ブランドには絶好のチャンスになるだろう。新しいコミュニケーションチャネルが登場することは間違いない。若い世代の好みに合ったチャネルでリアルタイムに、本格的かつユーモアのあるメッセージを配信すれば、公式スポンサーのメッセージ以上に高い感度で受け止めてくれるのではないか。

パラリンピックとの一体化: パラリンピックとオリンピックがより一体となった大会になるだろう。日本の高齢化社会にも関わるテクノロジーが試される重要な場でもある。全ての公式スポンサーが胸を張って、世界に貢献できるプロダクトを披露してくれることを期待している。

(文:デイビッド・ブレッケン 翻訳:鎌田文子 編集:田崎亮子)

提供:
Campaign Japan

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