Surekha Ragavan
2022年5月27日

スプライトの全面的リブランディングの舞台裏

WPPとコカ・コーラが交わした「空前の」40億ドル(約5080億円)規模の契約により、スプライトは画期的なグローバルキャンペーンをスタートする。この数カ月にわたって続いた制作プロセスについて、両社のチームに話を聞いた。

スプライトの全面的リブランディングの舞台裏

コカ・コーラは2021年、WPPを「グローバル・マーケティング・ネットワーク・パートナー」に指名し、40億ドル規模の「空前の」抜本的かつ包括的な契約を締結した。その6カ月後、WPPのコカ・コーラ専属ユニットであるOpenXとの何週間にもわたる共同作業を経て、コカ・コーラはレモンライム風味の炭酸飲料「スプライト」の大々的なグローバルリブランディングを発表した。スプライトは、コカ・コーラ・グループで2番目に大きなブランドであり、全世界の総売上は200億ドル(約2兆5400億円)にのぼる。

「Heat Happens」と名付けられたスプライトのブランドキャンペーンは、同ブランド史上初の総合グローバルキャンペーンとして、体験型プロモーション、パッケージング、ATL(Above the Line:マスメディア広告)、デジタルコンテンツなど様々な展開が予定されている。

コカ・コーラのスプライト担当シニアグローバルディレクター、シュレニック・ダサニ氏は、Campaign Asia-Pacificに対し、「今回のキャンペーンを真に特別なものとしているのは、WPPと当社の新しいネットワークモデルの力が遺憾なく示されていることだ。そして、この新たなOpenXパートナーシップにとっては、グローバルにおける最初の成果となった」と述べた。

世界のZ世代コミュニティをターゲットにした「Heat Happens」の根底には、私たちは誰でも、日常生活の中でちょっとヒートアップする瞬間を経験し、そんな時には得てして後から後悔するような行動をとってしまいがちだというインサイトがある。スプライトはブランドとしてそこに踏み込み、冷静になろう、“キーンと冷えたレモンライム味のスプライトを飲んで”と、人々に語りかけるのだ。

ダサニ氏によれば、同ブランドはZ世代の消費者を取り込み、彼らにスプライトを毎週飲んでもらうことをゴールにしているという。また、スプライト・ゼロシュガーの売上拡大にも力を入れている。

「現代のZ世代はかつてないほどヒートアップした世界に暮らしていると、我々は考えている。オンラインでもオフラインでも、会話の中のちょっとした些細な衝突も含めて、日常生活の中にイラっとする瞬間はいくらでもある。そして、事態はあっという間にエスカレートしてしまう」と、同氏は言う。

アジアにおけるOOHクリエイティブの事例

ブランドの観点でいえば、スプライトはこれまで多くの市場において、体感的な暑さに対し渇きを癒やすドリンクとして認識されてきた。こうした屋外や汗のイメージに加えて、新たなプラットフォームには、ブランドを体感的な暑さ以外にも広げていくという狙いがあり、「熱」を持ったあらゆる瞬間に真っ先に思い浮かぶ商品にすることを目指していると、ダサニ氏は説明する。

「私たちが、Z世代が日常で経験する熱い瞬間について語ったとしても、それは世界的な重要課題の解決を意図しているわけではない。我々が想定しているのは、消費者の身の回りにある、日常のちょっとした瞬間のことだ」と、ダサニ氏は言う。

「例えば、長い1日を終えてやっと一息つけると思ったら、弟が最近お気に入りの楽器を持ってきて練習を始め、くつろぎの時間が台無しになってしまった。あるいは、炎天下なのに音楽フェスティバルの長蛇の列に並ばされている。はたまた、お気に入りの番組を見ている最中にWi-Fiが急に不調になった、などといった瞬間が考えられる」(ダサニ氏)

すべての人に共通するインサイトに狙いを定め、すべての人々に直接訴えかけようとするような、壮大な試みに挑むブランドは、最近ではめっきり少なくなった。ダサニ氏によれば、スプライトとWPPのチームは、まずZ世代消費者の行動を調査することから始め、ターゲットグループが経験するちょっとした不満を代弁するような、共通のテーマを特定していった。

「Z世代はこうしたヒートアップする瞬間を、それより前の世代よりもはるかに多く経験していることがわかってきた」とダサニ氏は言う。「若者文化に広く浸透したごく一般的な現象であり、こうした状況でクールダウンが必要だというのは地域を問わない常識だ。シンガポール、日本、中国、米国など、どこの国の若者であっても、こうしたニーズに共感するはずだ。我々は興味深い素材を見いだしたことに自信をもっている」と述べた。

要素を絞り込んだ新ビジュアル

初めてのことだらけの今回のパッケージングでは、デザイン企業ターナー・ダックワース(Turner Duckworth)が運用する、史上初のグローバル・ビジュアルアイデンティティシステム(VIS)が始動している。このVISで開発された新たなロゴとパッケージデザインは、全世界で統一展開される。スプライトのトレードマークであるパッケージの緑色はそのままに、要素を絞り込んだロゴに一新され、普通のスプライトとスプライト・ゼロシュガーを見分けやすくしている。後者には黒のフォントとロゴデザインが使われている。

スプライトの旧ビジュアル
 
スプライトの新ビジュアル

オグルヴィAPAC(Ogilvy APAC)で最高クリエイティブ責任者を務めるリード・コリンズ氏はCampaign Asia-Pacificの取材に対し、VISの立ち上げは、画期的な新ブランドプラットフォームの発足と、スプライトの斬新なルックスの両方を実現するという、大きな困難を伴う作業だったと語る。

「(スプライトの)ブランドの一貫性をグローバルに維持するため、ビジュアルアイデンティティは大胆かつ印象的で、何よりも目を引くものでなくてはならなかった。これほど大規模な展開の場合、すべての市場に投入されるには、かなりの時間を要するものだが、世界中の人がすぐに、セクシーなスプライトの新ボトルを手にできるだろうと確信している」と、コリンズ氏は語った。

自分史上最長のプロジェクト

「Heat Happens」のOOH(屋外広告)キャンペーンの一環として、いくつかのクリエイティブアセットがすでに発表され、また「Heat Hacks」と題した体験型プロモーションの導入も明らかとなった。バーチャルプログラムである「Heat Hacks」は、ヒートアップ瞬間に、スプライトのボトルをスキャンすると、「ヒートアップ」した感情を鎮めてくれるインスタントリワードがすぐに得られるしくみだ。

ダサニ氏は次のように説明する。「例えば、ストリーミングサービスでペイウォールにアクセスを阻まれた時なら、ストリーミングコンテンツへの限定アクセスがリワードになるだろう。あるいは、コンサートのチケットの購入に長蛇の列ができていたなら、バーチャル体験の提供がリワードになるかもしれない。すべてはヒートアップの瞬間がどんなものであるか、その時に消費者が何を求めているかによるのだ」

「Heat Hacks」のリワード提供に関しては、スプライトはライドシェアアプリのDidi、天気予報アプリのMojiなどとの提携を予定している。

ヨーロッパにおけるOOHクリエイティブの事例

オグルヴィのコリンズ氏によれば、今回のプロジェクトは同氏のキャリアのなかでも最も長時間にわたるものであり、スプライトを販売している200以上の市場向けに、1000以上のアセットを制作したという。

「我々は数多くの国境とタイムゾーンをまたいで協働した。皆、才能あふれる素晴らしいメンバーであり、パンデミックという困難のなかで、誰もがこのアイディアを形にする上で必要不可欠な役割を担った。プロジェクトを率いたイブラヒムとセルウィンは優れた手腕を発揮し、チームの誰もがクリエイティブな仕事に全力を注いだ」と、コリンズ氏は語る。

同氏はまた、エージェンシーチーム自体もヒートアップする瞬間をたびたび経験するはめになったと語る。

コリンズ氏は、「実際、我々は連日の長時間労働を強いられたが、そのなかで素晴らしい友情を築いた。共に進んできた道のりを誰もが誇りに思っている」として、「OpenXにおけるコラボレーションの最高の実例であり、今後もこのようにコカ・コーラとの関係を深めていきたい」と述べた。

制作パートナーのスウィートショップ(Sweetshop)にとっても、着手から完成まで実に7カ月という、不断の努力を要する長いプロセスとなった。実際、創業20年のスウィートショップにとって、今回のキャンペーンの製作期間は最長であり、2カ月にわたって計21日を撮影に費やした。バルセロナ、メキシコ、上海、トルコ、メルボルン、オークランドに分散したコアチームは、撮影のためタイに飛び、バンコク、クアラルンプール、ケープタウン、バルセロナ、ムンバイ、サンティアゴ、シドニーなどから集まった800人がキャスティングに参加した。撮影期間中、4000回以上の新型コロナウイルス検査が実施された。

OpenXでスプライトのグローバルクライアント統括を務めたティム・マクレホース氏はCampaign Asia-Pacificの取材に対し、ディレクターのダミアン・シャトフォード氏は多大なプレッシャーのなかでも冷静だったと語った。

「ダミアンとスウィートショップは、多数の市場や文化的ニュアンスに対応しつつ、ユーモアにあふれた作品を作りあげた。ダミアンの感性、それにタレントから最高のパフォーマンスを引き出す彼の才能は驚異的だ。我々は兄弟姉妹のような絆で結ばれた。このような職場で働けたのはかけがえのない経験だ」と、マクレホース氏は絶賛する。

スウィートショップのグローバルCEO、ウィルフ・スウィートランド氏もまた、パンデミックのなかで、これほど大規模なグローバルキャンペーンを制作することは、誰にとっても「未知の経験」だったと話す。

スウィートランド氏は、「とてもすべては挙げきれない多数の国々から、エージェンシーチームとクライアント関係者が参加し、キャスティングは3つの大陸をまたいで行われた。世界各地で働くプロダクションチームのメンバーが力を合わせ、巧妙に構成された、本当に楽しいキャンペーンを完成させることができた」と述べ、「多大なプレッシャーのなか、我々は固い友情で結ばれた。これほどクリエイティブなクライアント、そして献身的なエージェンシーネットワークと協働できたことを、とても光栄に思う」と語った。

マーケターや、Campaignのような業界メディアに向けたクリエイティブも制作されている。キャンペーン展開の舞台裏のプロセスをパロディ化したものだ(以下参照)。

 
 

オグルヴィのコリンズ氏は、こうしたパロディの販促素材の背景について、現代社会では物事が簡単にエスカレートしてしまうという部分には誰もが共感できるはずだ、と言う。

「このような(インサイトの)原石をいったん発掘したら、あとはいくらでも大胆でクレイジーな発想を試せる。スプライトはこれまでずっと反抗的で生意気というブランドパーソナリティをもっていたのだから、真面目くさったものにする必要はないのだ」と、コリンズ氏は述べた。

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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