Ryoko Tasaki
2021年10月15日

世界マーケティング短信:働き方の大転換

今週も世界のマーケティング界から、注目のニュースをお届けする。

世界マーケティング短信:働き方の大転換

※記事内のリンクは、英語サイトも含みます。

大退職時代の到来 広告・マーケティング業界は変わるか

パンデミックをきっかけに大退職時代(The Great Resignation)に突入し、米国では今年の4月以降で1500万人超が仕事を辞めたという調査結果がある。日本でもサントリーの新浪剛史社長が9月に唱えた45歳定年制が波紋を呼ぶなど、キャリア形成や働き方、生き方を見直す動きが活発化している。

上司やクライアントに振り回されながら長時間働く過酷な世界というイメージだった広告・マーケティングの世界にも、大退職の波は押し寄せている。中堅の広告会社勤務のあるクリエイティブ職は、このように話す。「プレゼンをリモートで数多くこなし、新規事業もリモートで獲得し、プロジェクトも完遂させてきた今、オフィスに戻るよう社員に強制することはできません。そんなことをしては、より多くの社員が流出するだけです」

シンガポールや香港など外国からの就労者が多い市場では、政策の変更に伴って退職と帰国を選ぶ人も出てくることも。「仕事量の増加、在宅勤務、ワーク・ライフバランス、仕事満足度の低下などさまざまな要因で、緊張感を伴う労働環境が約2年に及んでいます。これを受けて多くのシニアプロフェッショナルが職を退くのを目の当たりにしてきました」と、アナ・ウィットラム・ピープル社のマジェラ・ピヌック氏は語る。

エッセンス社のアジア太平洋地域CEO、T.ガンガダル氏によると「2019年の頃の生き方に、単純に戻るようなことはない」という。「これからの働き方はもっと柔軟でコラボレーティブで、人や文化、社員がどのように団結していくかに焦点が当たります。柔軟性やウェルビーイング、一体感が鍵となり、長期的な文化のシフトが起こるでしょう」。その推進力として、ガンガダル氏が期待を寄せるのはZ世代だ。「リモートワークやハイブリッドワークの環境で仕事を始めた彼らの経験は、今後の働き方に対する期待感や姿勢を形作っていくことになると考えています」
 

リモートワーク時代のメンタルヘルス

パンデミックを機に一気に普及したオンライン会議では、より一層のメンタルケアが必要だ。だが画面に映る表情や、背景の自宅が散らかっていく様子から、不調に気付くことができるのだろうか…?

豪パフォーミックス・マーサーベル(Perfomics Mercerbell)は世界メンタルヘルスデー(10月10日)に先立ち、同僚のメンタルヘルス不調の兆候を察知できるか検証する社会実験を実施した。84名が5日間協力し、ストレスを抱えているような言動を心掛けてもらった。背景に映り込む自宅が日に日に散らかっていく様子も、画像加工で表現した。だが実験期間中に、同僚の不調に気付いて声をかけた人は一人もいなかった。オンライン会議の参加者は約4割の時間を、自分自身を見ることに割いているという。もっと同僚のことにも注意を払おうというのが、このキャンペーンのメッセージだ。

この実験の特設サイトには、ソファーで寝起きしたりデリバリーピザの箱が積まれたりといった注目すべき変化や、様子が気になる人との話の切り出し方などがまとまっている。メンタル不調の改善のためにできることが記されたデジタル背景もダウンロードできる。


「巧みに遂行されたパーパス広告は非常に効果的」 IPA調査

パーパス(ブランドの存在意義)を訴求する広告のうち、57%が非常に高い効果を発揮した――。IPA(英広告業者団体)が380本の広告(そのうち47本がパーパスに関するもの)を、6つの指標(売上、市場シェア、新規顧客獲得、顧客ロイヤルティ、価格決定力、利益)でスコアリングした調査で明らかになった。

「ブランドパーパスキャンペーンを実施することは、社員や顧客、ステークホルダー、投資家などとのエンゲージメント強化はもちろんのこと、売上の促進にもつながり、大きなメリットを見込めます」と語るのは、IPAのコンサルタント、ピーター・フィールド氏だ。真実性と信頼性があるパーパス広告は「巧みに遂行されれば非常に効果的です」。ただし成功させるためには、販売拠点との緊密な連携や、その製品ならではのメリットとパーパスとの整合性、ターゲット層が関心を持つテーマであるかといった点に注視すべきだと付け加えた。
 

カーボンフリー社会の意外な「弊害」

地球温暖化への対策として、温室効果ガスを排出しない「カーボンフリー」を推し進めると、どのような世界になるのか。環境NGOグリーンピースの動画は、カーボンフリー社会がもたらす「弊害」をユーモラスに描く

2051年、内燃機関で動く乗り物が無くなり、大気汚染も二酸化炭素排出も過去のものとなった。だがSUV車のことが忘れられない男性は、瓶に保管したガソリンを嗅いで懐かしむ。交通渋滞は解消され、遅刻の言い訳に使うこともできなくなった。自然が嫌いな男性は、愛娘が自然の中で遊ぶことに対し「なぜ我々の頃のようにテレビゲームで遊ばないのか?」と嘆く。グリーンピースで働く職員も、暇を持て余している。だが、ほとんどの人はカーボンフリーな未来を満喫しているとナレーションは語り、「これを実現するには今、行動を起こさなくてはなりません」と呼びかける。制作はウルトラスーパーニュー。


米広告会社の創業者、マクギャリー氏とケネディ氏が死去

マクギャリーボウエンの創業者、ジョン・マクギャリー氏が10月8日、81歳で死去した。1960年代半ばにヤング&ルビカムで広告のキャリアをスタートさせ、その後CEOに就任。2002年にゴードン・ボウエン氏、スチュワート・オーウェン氏、スタン・ステファンスキ氏と共にマクギャリーボウエンを立ち上げた。同社は電通が2008年に買収し、現在は電通マクギャリーボウエン。

マクギャリー氏死去から2日後の10月10日、ワイデン+ケネディの創業者であるデイビッド・ケネディ氏が82歳で死去した。同氏の功績を称え、会社のロゴは一時的に「Kennedy+Wieden」に変更されている。同氏はシカゴのいくつかの広告会社でデザイナーやアートディレクターとしてキャリアを開始し、1979年にマッキャン・エリクソンのオレゴンオフィス(ポートランド)に参画。その後ダン・ワイデン氏と出会い、1982年のエイプリルフール(4月1日)にワイデン+ケネディを創業した。

(文:田崎亮子)

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