Ida Axling
2022年6月30日

カンヌライオンズ2022:P&Gマーク・プリチャード氏「クリエイティビティは成長を促す力」

プロクター・アンド・ギャンブル(P&G)の最高ブランド責任者が、クリエイティビティが成長を促す力になる理由を語った。

カンヌライオンズに登壇したマーク・プリチャード氏
カンヌライオンズに登壇したマーク・プリチャード氏

P&Gの最高ブランド責任者、マーク・プリチャード氏によると、「成長を促すクリエイティブの力こそが、マーケティングの最も根本的な存在理由なのだ」という。

カンヌライオンズ国際クリエイティビティ・フェスティバル2022に登壇した同氏は、インフレとコスト上昇に伴い、投資への監視が厳しくなるなか、多くの最高マーケティング責任者は、マーケティングが価値を生み出すことをCEOやCFOに納得してもらうにはどうすればよいか、自問していると語る。

「そして、私たちを取り巻く世界で破壊的な変化が続くなか、私たちの核を成す仕事、私たち全体の優先事項と責任、他の業界にはない強大な力、つまり、成長のためのクリエイティビティを強化することが、これまで以上に重要な意味をもつだろう」

プリチャード氏はさらに、クリエイティビティは「社会の改善」にもつながると主張する。クリエイティビティは市場を拡大し、その結果として、イノベーションを刺激し、経済的インクルージョンも促進するからだ。

「クリエイティビティは成長を促す力であり、それによって社会も改善される。会社に経済的利益をもたらし、従業員、協業する小売企業、サプライヤー、プロバイダー、パートナー、株主、そして私たちの生活と仕事の場である地域社会に恩恵をもたらす」

「さらに、私たちが成長の力として、価値を創造するという中核的な仕事をするとき、それは次第に、より広く社会を改善する力となっていき、世界と地球を救う力となっていく」

プリチャード氏は、P&Gのクリエイティブワークにおける信念を紹介した。それによると、クリエイティビティに不可欠な要素は、パーソナルなつながりを感じさせること、商品の魅力を伝えること、そして信頼関係を構築することだという。

「それは、人々の生活やニーズ、欲求、行動、感情、希望、夢などの有意義なインサイトに基づく、まさに人間的な仕事であり、それが『直接語りかけてくれる』と感じられるようなクリエイティブのアイデアへと変わるのだ」と同氏は説明する。

「それこそがクリエイティビティの喜びだ。人々の心に触れ、価値を共有し、彼らを笑顔にしたり、笑わせたり、涙を誘ったり、行動を促したりできる。もちろん、購入してもらうこともできる」

プリチャード氏によると、P&Gは日用品を提供しているため、効果効用が重要になるが、これがクリエイティブの難しさにつながっているという。

「その商品はいったい何で、何ができるのか、どのように使うのか、なぜそれが優れているのか。そしてさらに、それを有効かつ興味を惹く形で伝える必要がある。いわば、“後方2回宙返り1回ひねりで綱から綱へと移動する”ような、ものだ」

プリチャード氏はP&G最大のブランドであり、最も広範囲にグルーバル展開している「パンパース」を例に挙げた。「これは、新米の親たちと一対一の個人的なつながりを築くようなクリエイティブアプローチで変貌を遂げた」と語った。

新米の親たちとの接触の機会を増やすため、出産予定日を計算するアプリや特典が得られるアプリ、赤ちゃんの命名を助けるアプリなどを用意したという。

ピュブリシス・グループのエージェンシー、サーチ・アンド・サーチと提携し、2019年には「#PampersforPreemies(低出生体重児のためのパンパース)」キャンペーンを展開した。

「パンパースはまた、(クィーン・ラティファによる)『Queen Collective』にも参加し、『Black Birth』、『Bone Black』といったドキュメンタリー映画の制作も支援している。黒人の妊産婦の健康に関する現実を伝えることで、改善を促している」と同氏は続ける。

プリチャード氏はファッションブランド「ヴィーナス」のキャンペーンにも言及し、これまではビキニ姿の痩せた白人女性を広告に起用していたが、よりインクルーシブなアプローチに移行していると述べた。

「ブランドがどれほど文化とずれてしまったかを議論した(あの)居心地の悪い会議は忘れられない」と同氏は振り返る。

「最優秀パートナー(MVP)、グレイの話をしよう。肌は自分らしさを表現するための中心的存在だという人間的なインサイトから『My Skin. My Way.』が誕生した。製品の魅力を効果的に伝えながら、多様性、平等、インクルーシブを美しく表現するキャンペーンになっている」

プリチャード氏はさらに、洗剤ブランドの「タイド」がNASAと宇宙飛行士用の洗剤を共同開発していることや、男性用デオドラントブランド「オールドスパイス」が、黒人男性や女性にも受け入れられるよう「クリエイティブに意図的な変更」を加えていることなどを紹介した。

「彼らは黒人男性を正確に表現することを望んだ。不作法で騒がしい存在ではなく、上品で洗練された人物として描くことだ」

その結果生まれたのが、ワイデン+ケネディ(W+K)が制作した「Men Have Skin Too」キャンペーンだ。

P&Gは単なるブランドとしてだけでなく、成長と正義のためのクリエイティビティを推進する企業として行動している。具体的には、コンテンツ制作、人材育成、パートナーシップのためのプラットフォーム「Widen the Screen」を通じて、広告、映画、メディアのエコシステムの中で、多様なクリエイターを平等に起用することを提唱している。

プリチャード氏は講演をこう締めくくった。「私たちは今後、間違いなく、破壊的な変化と難題に直面するだろう。そして、『マーケティングは投資すべき価値があるのか?』、『クリエイティビティに費用対効果はあるのか?』、『そもそもこの業界は重要なのか?』といった質問を受けるだろう」

「そうした質問に対す答えは、すべて『イエス』だ」

「成長のためのクリエイティビティとは、このフェスティバルに参加しているクリエイティブリーダーやビジョナリー、そして、この部屋にいるすべての才能ある人々が持つ、卓越した力のことだ」

提供:
Campaign; 翻訳・編集:

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