Simon Gwynn
2018年4月16日

ソレル氏の辞任は、WPPの「終わりの始まり」となるか

WPPのサー・マーティン・ソレル最高経営責任者(CEO)が辞任した。このことが同社グループの解体や、業界にも大きな変化をもたらす可能性があると、複数のアナリストが示唆する。

マーティン・ソレル氏
マーティン・ソレル氏

土曜夕方の声明で、ソレル氏が同日付で辞任したことが明らかになった。

「個人的な不正行為」についてソレル氏への調査が行われると、今月初めに報道されていた。WPPによると、調査は既に終了したとのこと。会社資産の不正流用を中心に調査が進められたが、証拠は見つからなかった。

同社は共同COO(最高執行責任者)として、マーク・リード氏(ワンダーマンとWPPデジタルのCEO)とアンドリュー・スコット氏(WPP経営企画担当ディレクター、WPPヨーロッパCOO)の二名を任命した。

新CEOの就任までの間は、同社取締役会のロベルト・クァルタ議長が、執行会長を務める。新CEOの任命には、ソレル氏も力を貸す予定だ。

2週間前に疑惑が浮上してからというもの、ソレル氏の後任は誰になるのか、さまざまな憶測が飛び交っていた。その中でリード氏はもっとも有力な候補だと見られていた。

しかし、株主たちが望むのは同社の解体であり、ソレル氏の後継者は誰かというのは「本題から目をそらさせる話題にすぎない」と、アレックス・デグルート氏(センコス・セキュリティーズのメディアアナリスト)は話す。WPPの構成会社、特に健康やデジタルといった領域の会社は、昨年2月をピークに40%も下落したWPP自体の現在の株価よりもはるかに価値が高いという。

もしWPPが解体することとなれば、オムニコムやインターパブリック、ピュブリシスなどといった他の広告大手にも、同様の動きが誘発されるのではないか、とデグルート氏。これら広告大手の解体は今後12~18カ月の間に起こると考えている。「WPPが解体すれば、他の広告大手も影響を免れることはできないでしょう」

しかし同氏は、これらの中でもし生き残る会社があるとすれば、それはピュブリシスだろうと予測している。同グループ内で進められている組織変革や、昨年のトップ交代、フランスの企業風土などがその理由だという。

別のアナリストも、WPPの解体は妥当な結果だと予測しているが、傘下のさまざまな会社が関係を解消するのは「困難なことだろう」と話す。また、広告界のあるリーダーは、解体は「非常に醜悪」なプロセスになるだろうと述べる。

イアン・ウィテカー氏(リベルム・キャピタルの欧州メディア調査責任者)は、WPP解体は起こり得ないことだと考えている。代わりに、ここ数年でさまざまな会社を買収してきたWPPの、組織構造の簡素化が今後も続くだろうと予測。「持ち株会社のモデルは、まだ道理にかなっている」とし、同社に必要なのは改革でなく進化だと主張する。

WPPは、ソレル氏が不正使用したとされる金額は「大問題となる額ではなかった」と声明で発表。この発表を受け、英国のある広告会社のトップは、WPP取締役会の意図に疑問を呈する。

「WPPの未来を予想することは難しい」と同氏。「もしかしたら、これが(ソレル氏の)マスタープランなのかもしれません。ソレル氏抜きのWPPを、予想できないのです」

同氏は、買収を考えている人たちにとって、WPPのいくつかの事業は魅力的に映るだろうと考えているが、WPPのクリエイティブネットワーク(ジェイ・ウォルター・トンプソン、オグルヴィ・アンド・メイザー、Y&R、グレイ)を買収しそうなのは誰なのか、疑問を抱く。

そして、他の広告大手も解体するだろうというデグルート氏の予測は想定可能だが、それがすぐに起こる可能性は低いだろうと話す。

「まずはWPPの動向を見守ろう、と他社は考えていると思います」

(文:サイモン・グウィン 翻訳・編集:田崎亮子)

提供:
Campaign UK

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