Omar Oakes
2019年2月26日

「採用力」を高めるAI

採用活動の際、さまざまな障害となるアンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)。それを克服するため、AI(人工知能)が脚光を浴び始めている。

(写真:Shutterstock)
(写真:Shutterstock)

大方の人々にとって職探しはそれ自体が一つの仕事だ。だが雇用者側にとっても、採用活動は緊張を強いられる難しいプロセスだろう。特に今の時代、人材の多様化を迫られる広告代理店にとってはなおさらそうに違いない。

そこで着目したいのが、(結果がどう出ようと)データを冷徹なまでに追求し、学習するAIプラットフォームの活用だ。一部では「アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)の落とし穴への対抗措置」と言われている。

昨今、広告業界のリクルーターたちは求職者(特にフリーランスの人々)の初期段階での選別にAIの力を借りるようになってきている。

英国でクリエイティブ業界の求人を専門とするリーシュ(LizH)社は、フェイスブック・メッセンジャーのチャットボット「ジーニー(Genie)」を開発した。これは自動化された一連の質問にエージェンシーと求職者双方が答えることで、数分以内に適切な相手を見つけられるというもの。「招待者」限定で、臨時雇用のフリーランサーを探すエージェンシーが対象だ。このツールは、業界の未来にとって極めて重要なものになるかもしれない。なぜならリーシュの予測では、2030年までに広告業界で働く人々の50%がフリーランサーになるというのだから。

同社共同経営者のニック・グライム氏は、ジーニーの狙いは「フリーランサーの採用プロセスの迅速化にある」と話す。更にAIの導入で雇用者・求職者双方のレスポンスを辿ることが可能となり、「将来、より効果的な採用活動をするうえでのインサイトにつながる」とも。AIは潜在的に人間の脳に刻まれている偏見を凌駕し得る。ジーニーは既に、リクルーターでは不可能であろうヒトと職種のマッチングも行っているという。

BBDパーフェクト・ストームも開発に加わったジーニーは昨年、一部のエージェンシーと求職者向けにベータ版が公開された。現在は本格的な立ち上げに向けた最終段階にある。これまでサーチ&サーチやドロガ・ファイブ、ITV、グラヴィティ・ロード(Gravity Road)などがアートディレクターやコピーライターといったクリエイティブの採用に役立てている。

リサーチャーのバックアップ機能

もう一つの広告業界向け求人会社、グレイス・ブルー(Grace Blue)もAI製品を開発した。広告代理店から幹部クラスの求人を依頼された場合など、初期段階からこのAIを使うことで同社リサーチャーの「能力」は大いに高まる。それでも面接の準備や給与交渉などを行う次段階では、採用コンサルタントは応募者との直接的コミュニケーションに重きを置くだろう。

昨年5月に始まった「Hidden.IO」というサービスも、経験豊かなリクルーターが偏見を廃して採用活動を行うためにテクノロジーを活用する好例だ。Hidden.IOのアプリではアイデンティティーに関する偏見を生まぬよう、鍵となるデータは取り除かれ、クライアントと求職者は「隠されたプロフィール」を作成できる。

既にワンダーマンやヴェイナーメディア(VaynerMedia)、MRMマッキャンなどが取り入れており、現在はこのシステムに機械学習を導入する計画が進む。

Hidden.IOを立ち上げたリチャード・ブルーム氏は、このアプリが「臨時スタッフを見つけるのに最適」と話す。一時的に仕事を求める人の確保は、彼らのスキル同様に重要だ。だが正社員の雇用には、「面接のプロセスが今でも欠かせません」。

AIの実力は分かっていても、採用プロセスでの人間的触れ合いはやはり重要で、機械学習には限界がある −− よく言われるように、リクルーターたちもそう信じてやまない。

「人間にはさまざまな感情の起伏があり、それらが面接の準備や給与交渉など、応募者の姿勢に影響します。ですから人間同士の直接的な触れ合いがある時点までないと、求職者とクライアント双方への的確なサービス提供が非常に難しくなる」とブルーム氏。また、大半の広告代理店が履歴書に頼っている現状を変えるには「大きな発想の転換が必要」とも。

面接の重要さは変わらず

グライム氏も同様の意見だ。「ジーニーは正社員を探すエージェンシーには不向き。最初の段階でAIの助けを借りることは有意義でも、エージェンシーは面接という極めて重要なプロセスをなくそうとはしないだろうし、そうすべきでもありません」。

だが、大きな発想の転換を試みているエージェンシーがある。独立系デジタルエージェンシー、アナログフォーク(AnalogFolk)。マネージングディレクターのエテ・デイヴィス氏は、「無意識の偏見と戦うため」に面接段階でのAI活用を試みてきた。同社は既にブラインドCVやテストに基づく応募で、面接以前での偏見をなくすよう努めている。そして同氏は、「エージェンシーにありがちな画一的ソリューションの多くが、固有の偏見が含まれがちな既存のデータによって導き出されていること」に気づいたという。アマゾンは昨年、この問題に直面した。機械学習に基づいて採用活動を行った際、データモデリングで男性求職者が優先的に候補として選ばれ、性的に中立な選定ができなかったのだ。

「クリエイティブの雇用にAIを使うことは更に難しい。経理やプロダクション、アナリティクスといった業務に比べ、クリエイティブの評価には一定の主観性が関わってくるからです」と同氏。

グレイス・ブルーの共同創設者ジェイ・ヘインズ氏はこのように総括する。「人間とAIの融合こそが、採用活動に最適の結果をもたらすでしょう」。

「(最も優れたリクルーターは)データやテクノロジー、AIでは持ちえない資質を備えています。彼らの知見をAIが初期段階で行う選定や次段階におけるデータセット活用のメリットと組み合わせられれば、理想的な形になるはずです」

(文:オマール・オークス 編集:水野龍哉)

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